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(霊)バーのママ
歌舞伎町でバーテンのバイトをしていた時の話。
店の浮き沈みが激しいあの街では開いたと思ったら無くなってた、なんて事は珍しくない
客の勧めで知ったとあるバーはママ一人でのこじんまりとした店でママを慕ってそこそこ客もついていた
そんな店も理由は分からねど閉めるという話を聞いたので早上がりして勧めてくれた客と一緒に行ってみる事にした
店の前迄来ると外看板の明かりは消えてはいたものの少し開いていたドアから光が漏れていた
ドアを少し開けて身を乗り入れ「今晩はー、ご無沙汰でーす」と声を掛けてみた
狭い店内のカウンター、その一番奥にママが背中を向けて座っている
客が「どうしたのよ、ママー」と気遣う声を掛けながら店内に入ろうとすると「ヒッ⁉」と後ろに飛び退いた
さっき迄「いた」と思っていたママは消えていた。それどころか店内も荒らされていて原形を留めていなかった
「お、俺君…さっきママ…いたよね?」「ええ、いました」
二人で寒気を覚えて静かに店を後にした
ママがどうなったのか、その後は知らないけど店をたたむしかなかった無念さが幻を見せていたのかと思うと少し寂しくなった




