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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(人)歌舞伎町(ダッシュ)


まだコマ劇場の前にオバチャン達が列をなしていた頃、歌舞伎町でバーテンのバイトをしていた時の話


当時は新大久保の一角に南米系の立ちんぼが溢れていて時々一斉検挙があると派手な衣装を身に纏った

浅黒くケバい女性達がヒールを片手に全力疾走して騒ぎを起こすというなかなかにカオスな光景が見られた


そんな風物詩?も見慣れた頃、客が「外がエライ事になっているぞ‼」と興奮気味に入ってきた


(またか…)と思いつつ様子を見に行くと案の定警察と南米系の女性達の取っ組み合いが始まっていた


今回の摘発は本格的なのか護送車が数台、回転灯を回しながら路肩に停車している


女性達も捕まったら強制送還されるのは百も承知なので詰め寄る警官達にヒールで応戦していた


「公務執行妨害で全員逮捕ぉー‼」

と誰かが叫ぶと均衡が崩れ次々と捕まっていく


この大捕物で裏道は野次馬の人だかりで商売にならなそうだったので店に戻り店長(以下O)に報告した


「そうか、じゃあ今日は早目に閉めるか」


先程来店した客も俺が戻る前に帰ったらしい。


Oが「今日は少し飲まないか?」と聞いてきたので快諾すると奥の棚から超高級なスコッチウイスキーを出してきた


二人でカウンター席に座りオランジェットをツマミに昔話を聞いているとオーナーがポツリと切り出した


「少し前にな、ブラジルの女(以下女)が店に駆け込んで来た事があるんだよ…」


その日は店にはオーナーと常連が一人だけだったらしい


女は「help!隠して‼」と切れ切れの息でOに懇願したがOは何も言えなかった


何故ならその常連は南米系女性を斡旋している元締めと縁がある所謂(その筋の人)だったからだ


常連は何処かに連絡を入れると10分もしない内に南米系の男達が店になだれ込んできた


最初暴れていた女も両脇を男達に抱えられると観念した様に項垂れて店の外に連れ出されて行ったそうだ


Oは女が警察から逃げていると思い込んでいたのだがどうやら元請けから逃げていたらしい


常連は「すまなかったね」と一言言い残し口止め料なのか代金より遥かに多い金を置いて店を後にした


「あの時の女の目は今でも忘れられんよ」


そうポツリと呟くとオーナーはグラスを片付けはじめた


長年こんな所で商売をしていれば色んな修羅場を目撃したであろう、そのオーナーが想像した話の結末


それは表沙汰には決してならない最悪の事態だったのだろう


俺は敢えて聞こうとはしなかったが見て見ぬふりを貫かないと自身が危ういこの街を改めて怖い、と思った

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