表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
327/441

(霊)あるあると本物


輸入商で各地を飛び回っていた頃の話


商材を求めて神戸の卸業者に出張し、日帰りの予定だったのだが業者の社長に足止めを食らいその日は宿泊となった


慌ててホテルを探したがハイシーズンでなかなか見つからず漸く部屋を取れたのが古びた雑居ビルの様なビジネスホテルだった


とにかく寝られれば良いから!と強気で押したせいか渡された鍵に書かれた部屋番号を頼りに部屋に向かうとソコは普段使用してるのか?と疑いたくなる程の酷い部屋だった


ドアを開けて中に入った途端ジメジメしていてカビ臭く何となく暗い


換気しようと窓際に向かいカーテンを開けると隣のビルの壁が目の前にあり風も通らなそうだ


幸いというか当然だがベッドは清潔そうだったので寝るだけだし、と気持ちを切り替え荷物を置いて約束をゴリ押ししてきた業者の社長との会食に出掛けた


日にちも変わり飲みの場での商談も上出来だった俺は漸く解放されホテルに戻るとさっさとシャワーを浴びて寝る事にした


床についてからどの位時間が経っただろう


…ドン…ドンドン、ドンドン!


とドアを叩く様な音が徐々に強く、激しく聞こえて来た


最初は酔っ払いが部屋を間違って叩いているのか?と思い狸寝入りをしようとしていたのだが余りにもしつこく叩くので注意してやろうとベッドから身を起こした


ドンドン!ドンドンドン!


ガチャッ!


だが外の廊下には誰もいない


(あー、この手の怪談「あるある」だな)


叩かれるドアを開けると誰もいない、翌日従業員に聞くと実は…みたいな良くある話かと思った俺はこの後の展開が逆に楽しみになってきてしまった


そっとベッドに戻るとさっき鳴り止んだドアを叩く音が再び激しくなって来た


ドン…ドンドン、ドンドンドン!


(えー?この後の展開もなく繰り返しかよ?)


正直お約束の金縛りからののし掛かられ、を期待していた俺は何だか拍子抜けしてしまった


ドンドンドン!ドンドン!


興味が失せたせいか段々イラついて来てしまい仕方なくフロントに電話してダメ元で部屋を代えて貰えないか交渉する事にした


「フロントです」


「…あー…もしもし?さっきからドアをドンドン叩く音がして眠れないんですけど…」


当然満室からのゴリ押し宿泊みたいな状態なので部屋を代えて貰えるとは思ってもいなかった俺に従業員の説明が斜め上からの内容だった


「あー…そのお部屋はですね、浴室の横に配水管が通っておりまして…上階のお客様がお湯をお使いになられますとその影響で配水管が鳴ってしまう事があるんですよ」


「え?そうなんですか?じゃあ心霊現象とかでは…」


「御座いません。ただし騒音としてはご迷惑をおかけいたしました事はお詫び申し上げます」


まぁ大まかだがこんな感じで代わりの部屋は案の定ない、という事だし料金を値下げしてくれるらしいので我慢する決意をした


…ドン!ドンドン!


タネが分かると怖さよりもこんな深夜に風呂に入っている上階の客にムカついて来た

まぁ本当は設備の不備なので客じゃなくてホテル側に怒りを向けるのが筋なのも分かってはいるのだが怒りの矛先が二転三転していた


…ドン、ドンドン!


いつまでも鳴り止まない音に眠気も吹っ飛んだ俺は何とか意趣返しが出来ないか?と思い風呂場に向かった


配水管の音がこれだけ響くんだから逆に天井どついたら上階の客に届くんじゃ?

と訳の分からない理論で対抗しようとしていたので本当は目が覚めてなんていなかったのだろう


…ドンドン!ドン!


よーし、と風呂場のドアを開けて叩こうと身構えたのだがドンドン!と言う音は風呂場ではなく風呂場のドアの反対側に設置さへていた薄いクローゼット側から聞こえていたのに気がついた


ドンドンドン!


「え?」


激しく叩く音がまさか背後から聞こえてくるとは思っていなかったのでビックリして後ろを振り向くと…


タイミングを合わせたかの様にクローゼットの扉が開き中に掛かっていたハンガーがバラバラっと落ちて来た


勝手に落ちてきたハンガーの行方を追って目線を下に向け、何の原因で?と目線をクローゼット内部に向け直すと


男性の顔と上半身が薄いクローゼットの中からこっちを見下ろしていた


「うおっ!?」


流石に意表をつかれて驚いてしまい変な声を出してしまったが


特に障りがなさそうな感じだったので諦める事にして一言注意をしてみる事にした


「あの…聞こえているかは分かりませんが俺、関係ないですし騒いでも何も出来ませんよ?」


何故こんな事を言ったのかも分からない

単純に寝ぼけていたのかも知れない


後数時間後には電車で東京に戻らなくてはならないのを思い出した俺は煩い霊に構っていられない、とベッドに戻って無視して寝た


その後ドンドンという音はしなかったのでもしかしたら分かってくれたのかも知れない?


チェックアウトの時に従業員に


「風呂場の配水管じゃなくてクローゼットでしょ?」


と言ったら急に物腰が固くなって割引じゃなく無料にしてくれた


宿泊費が丸々浮いた俺は足取りも軽くなって帰りの電車内で熟睡しながら東京へ戻った


安普請な建物だと温度差とかで配水管が鳴る現象はよくあるらしいしそれが霊現象と間違われる場合もあると聞くので良く確かめてからクレームをつけましょう


というお話。じゃなかったか(苦笑)


因みにこの体験を思い出した際、そのホテルをググったら既にリニューアルされていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ