(呪い?)バツ
つい最近知り合った男性の話
彼とは仕事のクライアントとして出会ったのだが付き合いをしていく内に妙にウマが合ってプライベートで飲みに行く仲になった
酒の席で彼が連れて来た彼の知人が酔って来たのか彼の結婚遍歴について茶化し始めた
聞くと彼はバツ3で余程性格に難があるのか?と思ったがどうやらそうではなく過去のお嫁さん達は病気や事故で亡くなってしまっていたそうだった
3人も?という疑問は持ったがまぁ絶対にないとは言えないので俺は黙って彼の知人が茶化しながら話すのを聞いていた
「それでな、コイツの一番目と二番目の嫁が結構短いスパンで同じ病気で急死してるんで警察に疑われたんだよ」
「オイオイ、止めろよな?」
流石にきな臭い内容になって周りの目が気になったのか彼は知人を窘める様に引き留める
だがそこまで聞かされたら俺も興味が勝ってしまいもう少し詳しく聞きたくなって2人に話の続きを促した
彼の一番目の嫁さんは彼の同級生で結婚して一年も経たない内に心臓発作である日突然他界してしまったそうだ
伴侶の突然の死にショックを受け暫くは貞操(?)を守り続けた彼に二番目の嫁さんがアプローチを掛けて来たのがそれから数年後
容姿も収入もそこそこある彼が何故独身でいるのか気になった二番目の嫁さんが彼に興味を持ったのが馴れ初めだったそうだ
彼は前例(?)の事があって特定の女性と深い付き合いになるのを避けていたのだが二番目の嫁さんの猛アプローチにより気持ちを持ち直し再婚したのは一番目の嫁さんが他界してから五年後の事だったそうだ
かくして始まった二番目の嫁さんとの結婚生活は半年という短い間で終止符を打つ事になる
ある日別室で寝ている筈の嫁さんが起きて来ない事に気が付いた彼は起こしに行き…そこで嫁さんの変わり果てた姿を発見する事になる
死因は心臓発作
五年の感覚があるとは言え先妻と同じ死因、しかも多少なりとは言え生命保険を掛けていた事もあってもしや保険金目的か?
と疑った嫁さんの身内が警察に相談したのはある意味仕方がなかったのかも知れない
結局その嫌疑は一番目の嫁さんは何れにしろ二番目の嫁さんを解剖した結果外的要因ではなく先天性の心疾患が原因だった事と
保険と言ってもごく一般的な医療保険に僅かばかりの死亡保険が付帯していたモノだった為
保険金目的でどうこうと言った嫌疑はすぐ晴れたらしい
自分と結婚した事により(?)2人も死なせてしまった、と彼は自分の責任でもないのに落ち込んでそれから暫くは荒れた生活を送ったそうだ
そんな彼に転機が訪れたのはそれから数年後
偶然同窓会で再会した三番目の嫁さんが彼の不幸話に同情したのかは分からないがそれ以降何かと世話をする様になったそうだ
勿論彼としては2人も不幸にしてしまった負い目(?)の様なモノがあるのであくまでも友人として彼女と接していたそうだが
ある日、酔った勢いでつい男女の仲となり子を身籠ってしまった為再度身を固める覚悟をしたそうだ
切欠が切欠だがお互い気持ちがなかった訳ではない
その頃には2人共お互いを大切にしたいという存在になっていたので流れとしては望む結果だったのだが
彼としてはどうしても先妻達の末期が気掛かりで仕方がない
そこで結婚すると決めてから彼は彼女の健康状態をわざわざ数件の病院でチェックして貰う程調べたそうだ
三番目の嫁さんも過去の事も知っているので彼が安心するなら、と快く人間ドック等を受けてくれたそうだ
結果何処にも異常なし、と診断され後は生まれてくる子供の為に新居に移ったり嫁の暮らし易い様に色々と手を尽くしたそうだ
それから少しして嫁さんは男の子を無事出産、母子共に健康で彼もすっかり過去の悲劇を思い出さなくなっていた
そんな彼に悲報が届いたのはそれから一年も経たないある秋の事だった
警察から連絡が来て何事かと訊ねた彼に説明されたのは嫁さんと子供が事故に巻き込まれて病院に搬送された、という事件だった
仕事を切り上げ急いで病院に向かった彼を出迎えてくれたのは先に駆け付けていた嫁さんのご両親
お義母さんは半狂乱で泣き崩れお義父さんはその傍らでガックリと項垂れていたそうで
心では否定していたがとんでもない状況だと言う事をその時点で覚悟したらしい
幹線道路を走行中、後ろから来たトラックが嫁さんと子供が乗った乗用車に追突
その勢いのまま前方のトラックの荷台に衝突し2人はサンドイッチ状態になってしまったそうだ
嫁さんのご遺体は顔は綺麗なままだったので面会が出来たそうだが子供はチャイルドシートごとメチャクチャになってしまったらしく
お義父さんに羽交い締めで止められその場での面会はさせて貰えなかったそうだ
結果として3人もの嫁さんを失った彼は茫然自失となり三番目の嫁さんの葬儀の時には自分が何をしていたのかも覚えていないらしい
ただ通夜が終わった後で嫁さんのお義母さんにこんな事になるなら…と恨み節を言われた事だけはしっかりと覚えているそうだ
重い話に酒の席はどんよりとしてしまったが彼は確かに心に傷は負っているが今後女性とは深く付き合いをしない、と覚悟を決めてからは多少気持ちを保てる様になったと話してくれた
今では結構規模の大きい会社を経営している彼の下には財産狙いなのか彼の魅力にほだされたのか結構な頻度で言い寄られたり
周りの世話焼き連中が独り身でいる彼に縁談を持ち掛けて来たりするそうだが彼はその一切を断っている
彼の伴侶になると不幸になる、そんな訳はないと思うのだが前例が前例だけに誰も強く否定出来ないんだよなぁ
そういう彼の知人も色々と世話を焼く1人なのだそうだ
運が悪かった、と言えばそれまでなのだろうが彼の奥さん達の冥福を祈りつつその飲み会はお開きになった




