(霊)何がしたかった?
県北にある温泉宿での事
毎年利用しているホテルの予約が取れずどうせなら、と言う事で更に山奥にある温泉地に宿を取った
そこは基本湯治客メインの温泉郷で観光地化はされてはいないがお湯は良い
ゆっくりと温泉に浸かり山の幸溢れる夕食を食べ終わるとほぼ何もする事がなくなった
夜の散歩に行こうかと思ったがもう店も閉まっているらしい
こうなりゃもう一度温泉に浸かって酒飲んで寝よう‼と言う事になりまた大浴場に行きたっぷり浸かった後
部屋に戻って買い込んだ酒で酒盛りを始めた
他に娯楽もないので飲むピッチが上がり皆バタバタと倒れていき俺も酔いに任せて布団に転がった
どの位時間が経ったかは分からない。
肌寒さを覚えてふと目が覚めると誰かが転がっている友人達の顔を1人1人覗き込んでいるのが見えた
(あれ?誰だろ…?)
誰かが電気を消したのか常夜灯の淡い光で照らされたその人物は逆光で誰かも判別出来ない
そうこうしている内に俺の所へもその人物はやって来た
(誰だ?コイツ??)
その男は浴衣と半纏を着こんだ50代位の男性で良くは見えないがお辞儀をする様に顔を覗き込もうとしていた
(目を開けてちゃヤバいか?)
その時は何となくそう思って寝たフリを貫いた
10秒程して目を開けるとその男は入り口に向かっている所だったのでホッとした
(…鍵閉めてない奴は誰だよ…)
フツフツと怒りが湧いたが酔っていた事もあってそのまま寝てしまったのだった
朝、あまりの騒がしさに目が覚めると先に起きた友人達が言い争っていた
聞けば「どっちが鍵を閉め忘れたか?」を言い争っているらしい
「やっぱり見た?」
と聞くと二人はウンウンと頷いている
結果として部屋の鍵は閉められていた。
途中で起きた奴が閉めて寝たと言う事はなさそうだ
となると…となって途端に友人達ははしゃぎ出した
人生初の心霊体験、これで1ネタ自慢話が増えたと喜んでいる
部屋は更に騒がしくなって最後迄寝ていたもう1人が漸く起きてきた
「…洒落になんねぇよ…」
が彼の第一声であった
どうやら俺を含む三人はただ覗かれただけだったが最後に起きてきた1人は声を掛けられた様だった
それを聞いた他の奴等は更に大興奮「何て言われたんだ?」としつこく聞いていた
机の上に置いてあったお茶を一口飲んで語ったその言葉は
「○○さんですか?」
としつこく聞かれたそうだ(因みにその友人の名前は全く違う)
はしゃいでいた二人はそれだけ?みたいな顔をして一気に興味を失ったらしく連れ立って朝湯に行ってしまった
部屋に残されたのは寝起きでボーッとしている俺ともう1人
窓際に置かれたソファーセットに座ってポツリと一言
「ホントは名前、当たってたんだよな…」
嘘をついて何になる?
聞いて何をする?
そんな疑問が沢山湧いたが話したがらなそうだったのでそっとしておく事にした
その後別に憑かれたとか死んだとか言う事もなく今も元気でいるらしい
結局幽霊は何がしたかったんだろう?




