(霊)向こう隣の席
電車が嫌いな俺も極々稀に必要に迫られて電車に乗る事がある
これは東北に急遽出向しなくてはならなかった新幹線の車内での話
関東から東北位であれば自力運転で行くのが普通なのだがその時は相手側の都合等でどうしても時間が取れず仕方なく新幹線の席を取った
幸いにもオフシーズンだったからか車内は人も疎らでそれ程息苦しい感じはしなかったのだが自分のペースで移動出来ないもどかしさを何とか希釈しようと
駅で購入した駅弁等を開いて少しでも気を紛らわそうと努力した
途中で車両が分かれ本線と分岐して日本海側へと進む頃には夜だった事もあり車内はポツポツと人が座っている様な状態だった
商談自体は翌日の早朝だったので少し余裕はあったのだが現地に着いたら書類を整理する必要があったので新幹線の車内で少し仮眠を取る事にした
多分小一時間程うとうととしたと思う
ジャケットを脱いでいたせいか少し肌寒く感じて目を開けると通路の反対側の座席に女性が座っていた
途中で乗って来たのかな?位に思っただけで特に気にも留めていなかったのだが
その女性は反対側の車窓から流れる景色をずっと見ていた様な感じだった
時計を見るとあと少しで降りる駅に近い事に気付いた俺は広げていた荷物や食べ物を片付けいつ到着しても良い様に支度を済ませた
目的地に到着し、新幹線を降りた俺は何気に自分が座っていた座席を見ると反対側にいた女性の姿はいなくなっていた
これだけなら同じ駅に降りた、とかたまたま席を外していた、等の理由が考えられるので不思議には思わなかったのだが
よくよく考えてみるとおかしい部分が幾つかある事に気付いてしまった
先ず新幹線が分岐してから停車した駅がなかった事、まぁこれも何も不思議ではない
でもよくよく思い出すと彼女の服装がおかしかった
春先に近いとは言えまだまだ寒い時期に彼女は薄手のワンピース姿だった
それによくよく考えてみると車窓に反射して映る筈の彼女の顔等が全く映っていなかった
そっか、普通の人じゃなかったのか…
普段から見慣れて(?)いると感想など特にないのでそのまま荷物を抱えて改札口へと足を進めた
ホテルに移動してひと心地ついた後、ふと彼女の事を思い出したがそのまますっかり忘れてしまっていた




