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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(霊)四畳半


若かりし頃、巷ではアメリカの大学日本校が流行った時期があった


地元にも元議員の肝いりで誘致した学校が開校したが学生を集客出来ず定員割れ

周囲の高校も経営が軌道に乗れば生徒を斡旋する「可能性」もあるという塩対応であった


そんな中、元議員の盟友でもあった俺の親父が東京にいた俺を呼び戻し人的にも協力しようと画策、

個人的に見返りが良かったので話に乗る事になった


いざ学校に通い出すと生徒達の年齢や出自もバラバラで(寄せ集め)感が否めなかったが

新設された校舎、遠方から来た生徒や教員用にアパートを借り上げる等一応設備面では必要最低限は満たしていたと思う


そんな中、問題は男子生徒用アパートで起こった


そのアパートは元○芝の社員寮で街中にあり、家族寮だったのか3LDK位あったのだがソコで幽霊騒ぎが起こったのだ


住んでいる生徒曰く


「四畳半の部屋で怪現象が起きる」という


話を聞くとその部屋で寝ると電気が勝手についたり消えたりし、コンポが勝手に電源が入りラジオが流れる等


いわゆるポルターガイスト的なモノが多発するらしい


タイミング良く帰国する留学生の為に送別会が企画されていてその時に空き部屋含めて探検する流れになった


送別会当日。皆思い思いの気持ちで留学生を労い、酒盛りをして盛り上がった


暫くすると友人が眠気を訴え例の四畳半で少し休むと言う

当事者がダウンしてしまった事で探検は頓挫してしまい仕方なくカラオケでも行こうか、となった辺りで


四畳半からラジオのパーソナリティーがテンション高く話している声が聞こえてきた


「あれ?アイツ起きてるのか?」


と思った次の瞬間、寝ていた筈の友人が部屋から飛び出してきた


「ほら!ラジオが○×△‼」


と友人が興奮して騒いでいるが要領を得ない


勝手に点いたとしても誰もその瞬間を見ていた訳でもないので寝相が悪くてスイッチを入れてしまった可能性も否めない


未だ呂律の回らない口調で捲し立てている友人を宥めつつ、取り急ぎ結構なボリュームで鳴っているラジオを止めに行った


集まったメンバーの中には幽霊騒ぎの事も探検企画も知らない生徒もいたのでそこからは説明会の様になってしまった


どの位時間が経っただろうか、知らない生徒達の疑問や経緯の説明をしていると確かに止めた筈のラジオが誰もいないあの四畳半から勢い良く鳴った


事情を知って怖がっていた女子達が悲鳴をあげたので友人数名と部屋に行ってみると


確かにラジオから軽快な音楽が鳴っているしかも消した筈の電気も点いている


流石に違和感を感じたが幽霊が見えた訳でもない、理解し難いが磁場や何か物理的な要因で誤作動の可能性だってある


元々探検を企画していたメンバーは原因追求をしたがったが特に女性陣の引き具合が尋常ではなく

このままでは折角盛り上がった雰囲気を壊しかねないと言う流れになり已む無くカラオケに移動して飲み直す事になった


凸撃を期待していたメンバーはガッカリである。が、メインは留学生達の送別会


諦めて各々乗り合わせでカラオケ屋に移動しよう。

と表に出てすぐにまた女性陣から悲鳴があがった


皆が見上げるその方向を見ると…


誰もいない筈の空き部屋のカーテンがヒラヒラと揺れていた


「何で?あの部屋誰も住んでないじゃん!」


怖がりの女性陣を中心に半ばパニック状態である


移動用に車を取りに行っていた俺は決定的瞬間を見逃してしまった


呆然と立ち尽くす友人に何があったのか聞くと

分乗の振り分けを相談していると誰かが悲鳴をあげたらしい。で、その方角を見てみると


丁度問題の四畳半がある部屋の上の階、リビングのカーテンの隙間から髪の長い女性が窓越しに皆を見下ろしていたらしい


酔った上での集団催眠か?とも思ったがシラフの人間も同時に見ている


見逃した!と思ったが後の祭り、一部の女子は泣き出す程のパニック状態だったので宥め役に回った


ひとしきり興奮が収まったのが小一時間後位だろうか、既にカラオケどころのテンションではなくこのまま解散しようか。という流れになった


部屋の住人達は今日は部屋に戻る勇気が起きない様で各々別のアパートに住んでいるヤツの所に転がり込む算段をしていた


俺も興を削がれて帰り支度を始めたが数名送迎する必要が出たので車内に戻って待っていた


煙草に火を点け何気に例の空き部屋に視線を向けると


黒い物体がサッと動いた様に見えた

しかも断続的にヒラヒラと動いている


その物体を確認する為車内にあった懐中電灯を手に外に出るとそのベランダを照らしてみた


(ビニールじゃん。。。)


皆が見たモノとは何かの拍子にベランダに舞い込んだビニールが風に煽られてヒラヒラしていたのを

事前の情報を元に幽霊変換しただけだった可能性が出てきたのだ


ビニールはベランダの物干し竿を掛けるラックに引っ掛かり垂れ下がっている


時折風が吹くとまるで長髪の女性の髪がなびいている様にも見える


思わぬ早期決着に居残り組も息を吹き返した様にツッコミ始めている


「まーアレだ、蓋を開ければオバケなんてこんなもんだよなぁ」


と誰かが言うと皆拍子抜けしたかの様に笑いだした


俺はベランダを照らしていたライトをそっと消し、自分の車に戻った


皆が照らし出されたビニールに一喜一憂してる瞬間、俺はそのベランダの奥に佇む女性を見てしまったのだ

肩より長い髪、花柄のワンピースを着た女性はばか騒ぎをしている友人をたしなめる様にそのビニールの後ろから友人達を見下ろしていた


その後、ポルターガイストは以前収まらなかったがルームシェアしていた留学生が帰国した事で

家賃の問題(シェアすれば補助金で安くかりられた)や本人も渡米準備に忙しくなった事もあり

問題の部屋は程なく空き部屋となった


その寮も学校の経営不振や生徒数の減少により数年後借り上げ廃止となり更に数年後再開発の波に飲まれ更地となり、跡地には別のマンション等が建っている

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