(人)聞いた?
読者の方から重複話を教えて頂きましたので修正しました。
もう1つの小説と同時進行ですので間違いなどがありましたらご指摘下さると助かります。
因みに今回の「聞いた?」には本文には書けない部分を後書きに残しますが直過ぎるので別の話の後書きに書きます
これは知人から聞いた話。
(面倒なので彼視点そのまま書き記します)
地元に帰り社会人になりたての頃、コンビニでばったり中学の同級生と出くわした
お互い近況報告してそれじゃ、となった時にソイツから「聞いた?」と言われた
「何?」と言うとどうやら俺の元カノが最近病気で死んだらしいとの事でビックリした
付き合ってた当時の健康的で輝いていた笑顔からは病死など微塵も想像出来なかった
聞いた以上線香の一つも上げに行かなきゃと友人を連れ立って彼女の実家を訪問した
彼女のお母さんは俺を見るなり大層喜んで仏間に案内してくれた
仏壇には昔の輝いた笑顔をたたえたままの遺影が他の写真と共に沢山飾られていた
線香を上げ冥福を祈り終えるとお茶を勧められたので少し長居をさせて貰った
お母さんの話では乳ガンが転移し過ぎていて分かった時には余命を宣告される程だったと言う
転移がそれほど進んでいたら痛みや違和感もあったでしょうに、と言うと表情が曇った
「実はね、○実は悪い男に引っ掛かっていたのよ」
ご両親はひどく反対したが聞く耳を持たず少しして家出同然で飛び出して行ったらしい
居なくなって一年も経たずに戻ってきた娘はボロ雑巾の様にやつれて別人の様だった、と
嗚咽混じりに話すお母さんを放っておけず話す事で気が紛れるならと黙って聞いていた
と、途中で話の方向がおかしな事になってきた
乳ガン発覚後、彼女は延命治療でも緩和ケアでもなく積極的治療を望んだ
治療と病魔の苦しみで常人には想像もつかない辛さを彼女は何故選んだのだろう?
こんな疑問をお母さんに直にぶつける訳にもいかずモヤモヤしているとそれを察したのか
「あの子…貴方が迎えに来るからって…」
違う高校に進み半ば自然消滅に近かった淡い恋だったがそれ以降会った事も連絡を取った事もない
「あ…あの…」
「いいの、分かってる。あの子の勝手な想像だったのよね」
ショックが重なり二の句を継げずにいると事の顛末を話してくれた
体力を奪われ毛が抜け猛烈な吐き気に襲われていたある日、彼女が急に
「俺君、どうしてるかな?」とポツリと言ったらしい
それからは徐々に俺から電話があった、とか見舞いに来てくれたとか話題が増えていったらしい
「○実の妄想だとは分かっていても希望になればと思ってね」
数ヶ月後、抗がん剤が効かず本人に内緒で緩和ケアにシフトした時には
夢と現実の区別がつかない程思考が曖昧になり
「今日俺君がお見舞いに来てくれたの」とか
「俺君が結婚してくれるって」とか
ありもしない事を嬉しそうに話す娘の夢を壊したくなくてずっと頷いていたそう
最後の日も
「今日は俺君、来てくれるかな?」と言って直ぐに危篤となりそのまま旅立ったそうだ
ここまで聞かされて胸がざわつかない訳がなく
「知らなかった事とは言えお見舞いにも来れず大変申し訳ありませんでした」
とお母さんに告げると涙ぐんで「いいのよ…」と答えるのが精一杯の様子だった
「そうだ、あの子が貴方に渡してって言ったモノがあるからちょっと待ってて」
戸惑う俺をよそにお母さんは部屋を出て行ってしまった
居心地の悪さを感じつつも待っているとどこからか鈴の音?みたいな音がチリリン…と聞こえた
「これ…あなたにって」
戻ってきたお母さんの手にはラッピングされた箱と一通の手紙があった
お母さんに了解を得て手紙の封を切るとそこには震える字で俺との楽しかった日々が綴ってあった
一枚、また一枚と読み終えるとお母さんにも渡して読んで貰った
最後の方はもう文字として成立していなかったり何を書きたかったのか分からなくはなったが
最後の一枚、これだけはお母さんに見せられなかった
その一枚には赤いペンで
「迎えに」
とだけ書いてあった
「(何故)迎えに(来てくれないの)」かも知れない
「(早く)迎えに(来て)」かも知れない
ただ「迎えに」の一言が胸に突き刺さってこれは見せる訳にはいかない、と何故か思った
お母さんには「最後の一枚はもう(意味をなしていませんでした)」と告げて彼女の家をあとにした
俺が側にいたら何か変わったのだろうか?と考えたが仕方がない事だった
後日彼女の死を教えてくれた同級生に連絡を取りお礼を告げてついでに彼女の墓参りをした
こんな話を聞かされれて「嘘だぁ」とは言えない理由は別にあるのだが本人には言えない
思い出は綺麗なままに




