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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(霊)病院の喫煙スペース


十数年前の事


日頃のストレスのせいか胆石を患い手術を余儀なくされた

ギリギリ内視鏡手術で摘出可能サイズで無事成功したのだが術後は可能な限り歩いて下さいとの指示を受け

手術翌日から違和感がある我が身を引き摺る様に院内を散歩する事にした


三日目からは当時指定されたスペースでの喫煙が可能だったのと玄関入り口にある自販機のカップコーヒーの為に

朝な夕なと喫煙スペースまでのリハビリに励んでいたのだが五日目に変な人と出会った


いつもの様にコーヒー片手に喫煙スペースに移動し、外の往来を眺めつつ一服していると

いつの間にか背後に寝間着姿のオッサンが立っていた

「悪ぃけど一本貰えるかな?」

患者の中には家族に喫煙を止められていて我慢出来ずにこうして喫煙スペースで恵んで貰う人も多いので

何気に箱を差し出すと有り難そうに一本引き出して口元に咥えだしたのでライターを差し出した


「この洋モクは美味いねぇ」

オッサンは本当に美味そうに煙を燻らせていた。

あげた俺の方も自分が作った訳でもないのに誉められて悪い気はしなかったのを覚えている

数分後別の患者が家族を引き連れて喫煙スペースにやって来た

どうやらかなりのヘビースモーカーらしく監視役の家族も引き連れてのご登場だった

嫁と娘にガミガミ言われながらの一服ではさぞ美味くないだろう、と眺めていると向こうから話し掛けてきた


当たり障りのない会話をしてふと気付くといつの間にか先のオッサンはいなくなっていた

まぁ吸い終わったので病室に戻ったのだろう、と思い自分も残りのコーヒーを飲み干し

家族連れに会釈して戻ろうとしたら娘さんに呼び止められた

「あの、お煙草お忘れですよ?」

ん?と振り返り指差す方向を見ると階段の手摺に煙草が一本、置いてある

「え?あれ?落としたのかな?」

娘さんに礼を言い自室に戻る為にエレベーターに向かった


自室に戻る道すがらさっきのタバコに疑問を感じた

何故ならシガーケースに戻そうとしたら1本しか減っていない計算になるからだ

オッサンに1本あげたので都合2本は無くなっていないと計算が合わない

そう言えば見ず知らずの厳つい俺に気さくに声かけしてきたあの家族が側にいたオッサンに声をかけない訳がない


(もしかしたら…)

とも思ったが怖さも感じず(あの世に行ってもタバコは止められなかったのか)1人ベッドで苦笑した

夕食と投薬が終わりリハビリがてらまた喫煙所に向かったのだが何の気なしに咥えたタバコは火を点けても味がしなかった

これはあのオッサンにあげたヤツかな?

味のしないタバコを灰皿の縁に置いて新しいタバコに火をつけた


翌々日退院したのだがそのオッサンとはついぞ会わなかった

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