(霊)駅(2話)
昔話を2つ。
高校時代、隣の市まで電車通学をしていた
高校がある駅は複数の路線が交わるターミナル的役割をしていたのだが
ある日友人達と電車を待っていると向かいのホームに買い物袋を手に持った女性が立っていた
これだけなら普通の光景なのだがその女性は俯きながらユラユラと揺れていて今にも線路に落ちそうだった
(何か危ないなぁ…)
そう思いながらも友人達との話に興じていると向かいのホームに電車が到着するとアナウンスが入った
女性は相変わらず揺れていたので話どころではなくなり友人達に
「あの人、ヤバくね?」
と注意を促した
友人が向かいのホームに目をやったと同時位に電車が滑り混んできて俺は思わず「あ‼」と声をあげた
(ヤベぇ、轢かれたよ)
とガクブルしていたが電車は何事もなく停車し時刻表通りに出発して行った
ずっと固まっていたらしい俺が我に返ったのは友人の「で、どこよ?」と言う言葉だった
辺りを見回してもあの女性はいない、そして誰も気付いていなかった
友人達には散々小馬鹿にされたがあれは見間違えではなかったと確信している
何故ならそれから何度かその女性が同じホームでユラユラと揺れているのを目撃してたから
誰も見えないらしいし放っておいても害はなさそうなのでそれ以降は見て見ぬふりをしていたが
あの女性は今でもあのホームでユラユラと揺れているのか、と思うと切ない気持ちになる、
もう1つ。
同じホームでの話。
そのホームはその駅から分岐する路線があるのだが利用した事がないのであっち方面に行くんだ…位の認識しかない
対面にホームが並んでいるのでベンチに座ると向こう側のベンチと対座する様な形になる
ある日体調を崩して早退したのだがどんなに具合が悪くてもバスと電車を乗り継いで帰らなければならなかったのだ
いつもなら立って待つか頃合いになるまで駅周辺で時間潰しをしているのだが今日はそれが出来ず
あと20分程度の待ち時間をベンチでやり過ごす事にした
秋口のまだ蒸し暑さが残る日だったにも関わらず悪寒に襲われベンチで目を瞑って耐えていると
正面から風が吹いてきた。生温いのに寒気を煽る様な、気持ち悪い風だった
あまりに長く吹き付けるものだから思わず頭を上げてその風の吹く方向に目をやると線路を跨いだ反対側のベンチに
黒っぽいジャンパーを羽織ったオッサンがこっちをガン見しているのに気付いた
ターミナル駅故に色々な人種がいるのは日常で酔っぱらいが睨んでいるだけか?と初めは気にもしていなかった
熱が上がってきたのか寒気が更に増してきたので顔を伏せてじっと堪えていると電車の到着アナウンスが流れた
電車がホームに流れ込むのを気配で感じ、立とうと重い体に力を入れると後ろから声が聞こえた
「お前…見えるのか?」
少し朦朧としていたのでハッキリと聞こえた訳ではないが気にはなる
まさか自分に声を掛けているとは思わなかったので電車のドアが開いたのを見計らい中に入ってシートに座ったが
電車が出発する迄オッサンはこちらに向かって話している様子だった
プシュー…
ドアが閉まり電車が発車する間目が合っていたがドアが閉まる勢いでオッサンが目の前から消えていた
気色悪い、と思いつつもその後何もなかったので話はここでおしまい




