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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(霊)温泉の露天風呂


地元の北にある温泉に共同の露天風呂がある


現在の様に監視員も入浴時間もない時代の話をしたいと思う


昔、その露天風呂は今よりもっと牧歌的でしかも混浴

料金は申し訳程度に据え置かれた料金箱に100円を入れるだけの風呂で

川向こうのホテルからも脇にある橋からも丸見えという立地にあり


見られる覚悟があれば逆に解放感一杯の湯触りの良い露天風呂だった


俺達が行く時間が大抵深夜近くだったので他の利用者との接触はほぼないと言って良かった


ある日友人や後輩達を連れ立って露天に行く事になり車を走らせた


いつもの空き地に車を停め少し歩くと川づたいに件の風呂が見えるのだがその日は先客がいる様だった


料金箱に小銭を入れ服を脱いで中に入ると地元のオッサンが二人湯船に浸かっていた


こんな時間に人に会うのも珍しいので軽く挨拶をすると今時の若いのがキチンと挨拶したのが嬉しかったのか

露天風呂にまつわる色々な話を聞かせてくれた


まだ温泉街が廃れていない頃は今時分に来ると仕事を終えた芸者衆や旅館の仲居達が利用していた話等で盛り上がったが

中にはこの露天風呂で不幸にも亡くなった人の話もあった


この風呂なら夜中入っている内に体調を崩し明くる日発見、という話もあながち嘘とは思えず

オッサン達の話を興味深く聞かせて貰ってその日は良い土産話と共に満足した湯治が出来たと思っていた


それから暫く時期が過ぎ紅葉も終わりかけた頃にまた皆で行く事になった


その時は友人1人と後輩1人。三人で向かったのだがやはり湯船に誰か先客がいるのが見えた


「先輩、今日は誰か入ってますね?珍しいなぁ」


確かにこの時間帯に誰かいる事は稀だが全くない訳でもない


騒いで迷惑にならない様にしないとな、と注意しつつ風呂への石階段を下って行った


「あれ?誰もいないっすよ?」


先頭を歩いていた後輩がビックリしている


露天は申し訳程度の洗い場と湯船しかなく周囲はガラスに囲まれている


更に辿り着く道も今俺達が通っている所しかないので必ずすれ違う筈だ


「マジか!?先輩、出ましたよ!」


少し興奮気味な後輩を宥めて先日オッサン達から聞いた話を聞かせてやった


「そんな事もあるんスね…」


話を聞いた後輩は初めての目撃体験に興奮しきりだったが怖かった訳でもない


霊だって入りたかったのだろう、と妙に感傷的な話をしつつ湯を楽しんだ

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