(霊)潰れた映画館
俺が中学生位の頃
寂れた街中の一角に潰れた映画館があった
小学生の時分には営業をしていたがいつの間にか閉館していたのだ
潰れたのに気付かなかったのはその映画館が所謂「大人の映画」しか放映しない所だったからという理由も大きかった
閉館して数年も経つと老朽化した外観と謎の幽霊話によって一気に心霊スポット化した
夜な夜な肝試しの連中が訪れバカ騒ぎをし、少しするとパトカーが飛んでくる
ご近所さんはさぞ迷惑を被った事だろう
実はその騒ぎの発端を作ったのは俺達かも知れない、と今でも思っている
何もかも有り余っていた中学時代、田舎じゃその捌け口は限られていて飽き飽きしている
そんなある日、友人が「夜末○館(映画館)に行ってみねえ?」と持ち掛けてきた
暇と体力を持て余していた俺達は2つ返事で了解し、早速準備に取り掛かった
(準備と言っても家にあるショボい懐中電灯とか護身?の竹刀とかだったが)
待ちに待った夜となり俺達は映画館の近くに集まった
「鍵、借りて来たぜ!」
友人の1人は映画館の地主が親戚で鍵を借りてくる段取りだった
お膳立ては完璧、法に触れる事もない安全なプチ探検がいよいよ始まった
入り口に巻かれているチェーンと南京錠を外しドアの鍵を開けて中に入る
入り口には備品等が乱雑に積み上げられていた
壁には所狭しとポルノ映画のポスターが貼ってありじっくり拝見したかったが
電気が止められている館内ではそれは無理な相談だった
先ずは映画館でも一般人には滅多に見られない映写室に向かった
映写室は二階にあり軋む階段にビクビクしながら登っていくと数部屋先に表札があった
中を覗くと拍子抜けする位がらんどうだった
金目になる機材とかは真っ先に処分したのだろう、フィルムのカスや何かの書類が散らばっていた
床にあったフィルムのカスとかを手に取って懐中電灯で照らしたりしていると
ツレの1人が小声で「おい…」と皆を呼んだ
元は映写機が顔を覗かせていたであろう壁の切り込み、ツレはそこから下を覗いていた
皆で覗き込んでみると真っ暗な座席の中央辺りに誰か座っている様な影が見える
良く考えれば明かりもない下階の様子が見られる訳もないのだが
「おい、下に降りて確認しようぜ…」
勿論全員一致でそっと階下に移動しドアに巻かれたチェーンと南京錠を静かに外しそっと中を照らした
埃臭い館内の座席、中央辺りに確かに誰かがいる
「誰だ‼」と声を掛けた瞬間ツレの1人が悲鳴を上げて入り口にダッシュした
全員釣られて猛ダッシュ、訳も分からず外に飛び出した
真っ先に最初に逃げたツレに非難が集中したが荒い息を吐いて会話にならない
落ち着かせる為に自販機でジュースを買って飲ませたら漸く落ち着いた様だ
当然逃げた理由の尋問から再スタート
「何でいきなりバックレてんのよ?」
と皆から問い詰められるとソイツは軽く身震いした(様に見えた)
ツレ「だってよ、確かに誰かいたよな?」
友人「あぁ、いたよ。泥棒かも知れない」
ツレ「ソイツ、どっから入ったんよ?」
…尋問してた俺らが今度は凍り付いた
入り口には全てチェーンが巻かれ南京錠で施錠されていた、裏口等も同様だろう
となるとアイツは施錠も解かずに中に?しかも真っ暗な館内で座って??
ヤバい‼となって全員コンビニまでダッシュした
翌日鍵を借りて来た友人は顔を腫らして登校してきた。
施錠せずに帰宅したのがバレて地主のおっちゃんにぶん殴られたらしい
かくして俺らの探検は面白おかしくアレンジされ拡散し、件の心霊スポットへと昇華した
その映画館も数年後、アホDQNの花火で焼失し今は拡張された道路と相まって面影すらない
あの時、確かに存在したあの人影は一体何者で何の未練があって客席に佇んでいたのだろう?
今となっては知る由もない




