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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(霊)一美


専門学校へ進学して間もない頃、全てが新鮮で楽しかった

当時学校では非常階段の踊り場が喫煙所で新しく出来た友人達とよくダベって過ごした


その中に一美という女の子がいた。

彼女は煙草を吸う訳ではないが友達の付き添いで踊り場に来ていたらしい

特に意識する訳でもなく普通に接していたのだが数ヶ月程過ぎた頃に彼女が学校に来なくなった


専門学校はフェードアウトする学生も多く残念ではあるけれど良くある事と話していたのだが

それから数週間経って仲の良かった女友達から彼女の訃報を聞かされた


何でも地元に里帰りした時にDQN達に暴行されそれを苦に自殺をしたらしい

彼女の母親が携帯に残っている連絡先を手繰って女友達にも生前のお礼を伝えてくれたらしい


人生これからって時に何か可哀想な偶然が重なっちゃったんだな…

とその日の踊り場は一美の話で持ちきりだった


翌日学校に行くと有志数名で線香だけでも上げに行く様な流れになっており

華麗にスルーしようと試みたが女友達に捕まって見事失敗した


「アンタ知らないだろうけど一美、アンタの事好きだったのよ」(だから線香は当然)


うーん、知るかよ…と言う本心は顔に出さず一応多生の縁理論で有志に参加する事となった


学校の最寄り駅から電車で30分程、都心にしてはまだ緑が多い住宅地に彼女の実家はあった


インターホンを押すと少し間があった後玄関からオバサンが出てきた

髪はボサボサ、服もだらしなく着ていてまだ若そうなのに全く生気が感じられなかった


今回の発案者でもある女友達が名前を告げるとその場に泣き崩れてしまった


皆でオバサンを支える様に家に上がらせて貰うと悲痛さが漂う様な空気に皆閉口した


ダイニングの脇の和室に設けられていた仏壇に焼香をさせて貰い、失礼させて貰おうとしたら


「あの…これ良かったら持って帰って」と写真を渡された


学校の踊り場、皆がおどけて写っている


「この写真ね、一美が間際まで持っていた写真なの」


話を聞くとその写真を訪れた人に形見分けのつもりで焼き増ししたらしい


女友達は全員すすり泣きしていて野郎共も居たたまれなくなっている


「オバサン、この写真大切にしますね」


女友達はオバサンの手を握りながら何度も頷いていた


それから数日後、未だに沈んだ空気を振り払おうと飲み会が行われる事になった


学校は西新宿だったので遊ぶには事欠かない、俺達は歌舞伎町でボーリングしたりカラオケしたりしてうさを晴らした


「一美も歌うの好きだったよね…」


女友達が突然しんみり一美との思い出を話す

そしてテレビで見たのだろうか、一美のお母さんから貰った写真をソッとテーブルにあるメニュー立てに立て掛けた


それから暫く代わる代わる歌っていたのだが突然女性陣が悲鳴をあげた


「何だ?どうしたんだよ?」


「か、一美の顔が…」


メニュー立てに立て掛けられた集合写真、

笑顔で写っていた一美の顔だけが歪んでクチャクチャになっていた


俺達は怖くて写真を放置してカラオケ屋から出てそのまま解散した


後日、カラオケ屋から忘れ物の電話があり渋々写真を鶏肉行くと元通りに笑った一美が写っていた

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