この結末は似合わない。
それはもう、幸せな時間でした。
遊び心で踏み出した一歩は、思ったよりも大きく進んで私はこうして彼に自分が生まれたことを祝われている。一歩が生んだその罪は、消して許されることがないであろう大きさになった。彼は私が生まれてきたことを、よかったことだというのだ。
涙が止まらなかった。
罪悪感かそれとも虚しさか、もしかして嬉しさか。それを判別しても、きっと私は生まれないほうがよかった。
彼は、私のことを一般人だと思っている。
恐ろしい。私が演じている理想の女性は、彼の横で不器用に泣いている。目の前のケーキを頬張ってその幸せを噛みしめて……まるでもう二度とないことのように受け止めている。それは、私にとって惜しくも欲しいもので手に入らないものだった。
彼は知らない。私に家族がないことを。彼は知らない。私が愛の一つも知らないゆえに、彼に返せないということを。彼は騙されている。彼を私は騙している。
生まれてこなければよかったと何度呪おうと今私はここにいる。
神様は意地悪だ。どんな御伽噺も悪者は排除されてしまうのに、何故悪者を生むのだろう。いっそ生まないでくれたなら、だれも悲しくはないのだ。
それでも仕方ない、私は生まれてしまった。神は私を産み落とした。
それならば、いっそ私のことは忘れてほしい。私という悪者が存在するこの物語だけはまだ続いていてほしいのだ。いっそ、終わらないでもいいではないか。最期を決め忘れた御伽噺の1つくらい許してくれてもいいだろう。
もう少し、見逃してくれればいいのに。
服を隔てて隠された傷は、私のことを悪者だと言っている。彼はこの服をいつ取り去って暴いてしまうのだろうか。
悪者が幸せになって、お姫様も現れずに王子様は悪者に恋をするなんてあってはならないのだろうか。
今ここで死んでしまえたら、彼のお姫様に生まれ変われるだろうか。そんな勇気は持ち合わせてないのだけれど。
こんなつまらない誰も読まないような話を、1つくらい置いておいてください。悪者も、悪者として生まれたかったわけではないのです。
ページをめくるこの目が怖くてたまらない。いっそ目覚めたくない。この物語の悪者が生まれた不幸なこの日で止まってしまいたい。
「安心して、大丈夫だよ」
「ありがとう」
あぁ、今日だけはお姫様の夢が見たい。明日、目覚めたその時はきっと最悪の存在になれるだろうから。
どうか、続きを書かないで。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
https://twitter.com/Rui0123amamiya にて短編をUPしたり、いろいろしてます。
よければ他のも読んでください、作者ページを見てみてね!