第2話 女の子にいきなり声をかけるのは、勇気がいる
「どこ見てんのよ!」
いきなり悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。
さっきまで俺は自室のパソコンの前に居たはずだ。
ついでに言うとキングとかいう幼稚っぽい名前のガキが送ってきた挑発的なメールに真摯に向き合ってURLをクリックして勝負をするんだと思っていたんだ。
勝負しませんか?っつー文面からしたら何かのゲームとかでってニュアンスが多少含まれていると思ってたんだが、現状を見て俺は、死ぬほど後悔した。
その場所は中世の貴族が住んでいそうな立派な部屋だった。全体的に茶色ががった部屋だがどこか優雅でお洒落で上品な感じ。
すごく高そうな絵も飾っており、無職ニートには買えないな、なんて思っているのも束の間
「何キョロキョロしてんだよ!」
さっきからやたらうるさく俺をとばっちめる声が聞こえてくる。
見やるとそこには天使のような幼く整った顔立ちに似合わない甲冑を着た女の子がいる。
背丈は俺よりやや低いぐらいだ。
俺が中肉中背の平均的な成人男性の体格、阿部サダヲさんに似てる顔。
対して、彼女は華奢でスタイルも良く、キュっとしまったお尻、豊満なバストを持っていて童顔で天使みたいだ。
いかんいかん他人とすぐ自分を比較するのは俺の悪い癖だ。か
だがだからこそ現状が理解できず混乱している。パニックになって女の子の体に目が行くのは男としてしょうがない部分だと思う。
「見るなよ!気持ち悪い」
また少女の罵声。いかん転職繰り返して変にメンタル強くなったせいか女の子の罵声につい、ありがとうございます!と返してしまいそうになる。
意を決して俺は最大の疑問を少女へ問う。
「君どこから来たの?」
「こっちの台詞だわ!話かけてくるなよ。怖いから」
やばい、下手なナンパみたいになってしまった。しかも彼女の警戒心もMAXになってしまった。
だが、突然のことにびっくりして怯えているわけではないみたいだ。
この場は何とか情報収集に励みたいところだが、少女が汚物を見るような目で俺を見てくる。
ごめんよ、悪気は無いんだ。と心底心の中で謝りつつ少女の警戒心を解いてみることにした。
「俺は葉山小太郎。27歳のフリーターだ。君は?」
さすがに無職とは言いづらくてフリーターと言ってみた。フリーターの概念が通じるか分からないが。
「変な名前!私はラオネ。17歳。これから戦争に行くのに随分とまあ落ち着いているわね。」
17歳でこの神スタイル、将来有望だな。などと思いながら聞いていると聞き慣れない単語が出てきて唖然とした。
「戦争!?どこと?つーかここが何処だかもわからないんだけど」
「此処はノエル帝国。今は他国がうちの領土を奪いに来てんのよ。古呆けた貴族にこんな良い土地は勿体ないって」
「他国と揉めて戦争になって、今から自分の国の領土を奪いに来るってことなのかな?」
俺は夢オチを願いながら、祈るような思いで聞いた。
「そうそう。飲み込み早いじゃない!あなたのこと変な格好で気持ち悪くておっさんくさい奴だと思ってたけど頭まで悪いわけじゃないみたいね」
天使みたいな顔してなんつー毒を吐く奴だ。少しは歯に衣着せて物を言ってもいいじゃないか。
俺のメンタル弱かったら逃げ出してるぞ。
内心そう思いながらもふと疑問に思う。
「もしかして怖いのか?」
「べ、別に怖くなんかないし、震えてるわけじゃないから!あなたが気持ち悪いだけだから!」
この子もしかして戦うのが初めてで、だから俺に会った時も語尾が荒くなってたのか。緊張して強がってたのか。だからこそいきなり現れた俺に警戒心を抱いていた。
誰だってそうか。初めての戦争の前にいきなりオッさんが現れたら吃驚する。
「なあ、ラオネはどんな武器を使うんだ?」
自然と、なるべく相手を怖がらせない口調で、優しく問いかけてみた。
「槍よ。お父様に教わったの」
ラオネは、自分の身の丈程はあろうかという槍をどこからか持ち出してきた。
「大き過ぎないか?ちゃんと扱えるのか?」
「馬鹿にしないでよ。少し離れて見てなさい。」
その光景は、異様だった。高校生ぐらいの少女が甲冑着て、槍捌きをこれでもかと、見せつけるのである。
おっさんに。ただ俺は羨ましいと思った。父親に教わった槍捌きを披露している彼女は活き活きして、楽しそうなんだ。
そこには、さっきまでの戦争を怖がっていた少女なんていなかった。
「かっこいいな!」
素直に感動した。とても17歳の娘がこんな芸当を出来るなど思ってもいなかったから、つい聞いてしまった。
「親父さんは一緒に戦わないのか?」
少し暗い顔になってラオネは呟いた。
「お父様は戦死したわ。」
やばい、これ聞いたらダメなやつだ。やっちまった!
「ごめん。なんていうかその…」
「気にしないで。お父様は最後まで勇敢な方だったから。」
いや、こんな幼い子供を置いていって死んでしまったら勇敢も何もないだろう。とか思っていたが、親父さんの直伝の槍捌きを披露してくれたラオネを悲しませるようなことは言えなかった。
「そうだ!あなたにも槍の扱い教えてあげようか?」
「え?まあ特に断る理由も無いから、教えてくれ」
そのなんつーか、そんなに目を輝かせて活き活きとした表情で俺に会話してくれる女性はリアルにいなかったから、チョロいもんである。
かくして、俺が異世界へ転移してからいきなり槍の扱いを17歳の女の子に教わるというなんともいえない状況に落ち着いた。