7話
中学時代、俺はテスト勉強に必死になることはなかった。
日ごろから授業の復習をしていたし、テスト週間はテスト範囲をさらっと復習するだけ。
それだけで1位をとれていたから気にすることはなかった。
しかし、今回ばかりはそういう訳にもいかない。
あの高山さんとの勝負。それも勝ったらなんでも言う事を一つ聞く。そんな報酬を知らされて全力を尽くさない男性はこの世にいるのだろうか。
テストの範囲を復習するだけではだめだ。必ず全教科100点を取れるようにどんな応用問題がきてもいいように理屈から理解しなければならない。
俺は、人生で初めて真剣にテスト勉強に打ち込んだ。
***
高山さんとの勉強会から4日が経った。
簡潔に言うと、俺は勉強に行き詰っていた。
これ以上何を勉強したらいいのか。
テスト範囲何が来ても解ける気しかしない。
にも関わらず不安が俺の中に渦巻いていた。
新しい勉強法を考えるも全く思い浮かばない。
自分でどのような形式で問題が出されるかを予想したり、応用問題を自作したりと色々な事を試した。
そしてもう手は尽きた……はずなのに。
(どうしてこうも不安になってしまうんだ!!!)
休み時間に俺は一人自分の教室をたたきつけ苦しんでいた。
そんな俺に川崎は声をかけてきた。
「どうしたんだよ神崎。薬でもやってるのか」
「あぁ。むしろ薬よりたちがわるいかもしれない」
「おい……本当に大丈夫か……それよりさ!」
川崎は満面の笑みで肩を組んできた。
「来週テストだろ! 今日俺の家で勉強会やらないか? ついでにお泊り会だ」
「なんでそんな……いや、まてよ」
そんな時間はないと思ったが、俺が川崎に勉強を教えることによって復習にもなり勉強になるのではないかと思った。
高山さんにも教えたが正直緊張しすぎて全く覚えていない。
「わかった! やろうか」
「よっしゃ! じゃあカラオケぺんぺん前に19時に集合な!」
「わかった」
カラオケぺんぺんか。
フリータイムが驚くほど安いと我が西高の生徒に大人気のカラオケ屋らしい。
今度、高山さん誘ってみようかな。
高山さんって歌上手いのかな。
そんなことを考えているといつのまにか残りの授業は終わり放課後になっていた。
19時に集合という事もあり、家に帰って泊まりの準備と軽くご飯と風呂を済ませてから近くのスタボで勉強をして時間をつぶしカラオケぺんぺんへと向かった。
「お! きたか神崎!」
集合場所へと着くと、川崎ともう一人男子がいた。
なんとなく見覚えがある気がするが思いだせない。
「こうして話すのは初めてかな。同じクラスの遠藤だよ。今日はよろしくね」
「あぁ、神崎だ。今日はよろしくな」
そういえば前の方の席にいたような気がする。
メガネが印象的でやんちゃな川崎とは対照的で真面目そうな人だ。
「じゃあ全員集まったし行くかー!」
「あぁ」
カラオケ屋から歩いて5分ほどしたところに川崎の家はあった。
住宅街にある大きいわけでも小さいわけでもない家だった。
「「おじゃましまーす」」
「あぁ上がってくれ。家には妹しかいないからそんなにかしこまらなくてもいいぞ」
「そうか、わかった」
家には妹しかいないという言葉から何か複雑な家庭環境があるのかと思ったが、わざわざ聞くのも野暮だしやめておくことにした。
「あぁ、別に親がいないってわけじゃない。父さんも母さんも海外出張が多いから家を空けることが多いだけだ。」
「そうだったのか」
何かを察したのか川崎は自分からそう言ってきた。
そう言わせてしまったのはどこか申し訳ない気がした。
そのまま俺たちは川崎の部屋へと行き、だべることも無く勉強をした。
川崎は、普段はやんちゃだが、こういう時はまじめらしい。
1時間ほど勉強したところで休憩することになった。
そして、俺は今日この勉強会にきて正解だったと確信した。
30分を超えた頃から俺が川崎に勉強を教えることになった。
そして人に教えることによって違う側面から考えることができたし、教師の立場ならこういう問題を出したいだろうなと考えることができた。
遠藤は俺がおしえるまでもなくできたので、一人黙々と勉強していた。
そして俺たち3人は背を伸ばし横になっていると部屋のドアがこんこんとノックされた。
「おにい、お茶持ってきたよ」
そう言って入ってきたのは川崎の妹だった。
長い髪を後ろで束ねてまるで天使のように可愛らしい子だった。
それと、中学3年生とは思えない成長した胸は男の誰しも視線を奪われるだろう。
「ほう、川崎と違って可愛らしい子じゃないか」
「おい神崎何か一言余計じゃないか」
部屋に入ってきた川崎の妹はお茶が入ってコップが3つのったお盆を下に置くと俺と目があった。
「え? カッコイイ……ええと妹の川崎 彩音といいます。いつも兄がお世話になっております」
前半何を言っているか聞こえなかったがなぜか俺の方をむいて自己紹介されたのでこちらも自己紹介することにした。
「神崎 春人と言います。こちらこそ川崎君にはいつもお世話になっているよ。それにしても礼儀のいい子だね!」
「え、ええとそれじゃあ、私はこれで! ゆっくりしていってくださーい!」
俺が自己紹介を終えると彩音ちゃんは顔を真っ赤にして急いで部屋を出て行ってしまった。
「あんな急いで出て行って嫌われてしまったかな」
「いや、むしろその逆だと思うけどな……神崎、やっぱりお前はずるい」
「え? どういうことだ?」
俺が川崎に疑問をぶつけても首を横に振るしかしない。
遠藤の方をみても目をつぶってうんうんと頷いているだけだった。
俺には二人が何を考えているのか全く理解できなかった。
それからさらに1時間ほど勉強して勉強会は終了となり、布団をひいて俺たちは寝ることにした。
各々布団に入って電気を消し寝ようかと静かになったところで川崎がその静寂をかき消すように発言した。
「なぁ神崎」
その発言は俺に向けられたものだった。
「なんだ?」
「最近、というより入学してから高山さんと仲いいよな」
「え? なんでそう思うんだ」
俺と高山さんが二人でいるところはみんなには見られていないはずだ。
もしかして階段で二人でご飯を食べているところをみられたのか。
「そりゃ毎日昼休みに高山さんが教室を出て行った後に、神崎がその後を追いかけるように出て行くんだから気づくよ。クラスのみんなもちょくちょく気づき始めてるぜ。なぁ遠藤」
「あぁ」
「そうだったのか」
ばれないように二人時間をずらして出て行ってたのだがそれも効果はなかったのか。
「否定しないという事は昼休みは二人一緒にいるってことか」
「あぁ、そうだ」
別に隠す必要はないと思っている。
元々高山さんは貧相な食事をみんなに見られたくないという理由からあの階段でご飯を食べているし、今はそれなりに立派な弁当を食べてるから問題ないはずだ。
「で、二人は付き合っているのか?」
「いや、付き合っていない」
「え? 毎日二人でご飯食べてるのに付き合っていないのか?」
「あぁ、そうだが」
それが何かおかしいのだろうか。
仲が良かったら一緒にご飯を食べるくらいなんらおかしいことはないはずだ。
「じゃあ、神崎は高山さんと付き合いたいとかないのか?」
「高山さんと……?」
川崎にそう言われて俺は考えた。
そもそも付き合うとは何だろうか。
好きとはなんだろうか。
俺は今まで、告白されてきたことはあっても誰かを好きになったことはないような気がする。
じゃあ俺は、高山さんの事好きなのだろうか。
高山さんと恋人同士になれって言われても嫌な気はしない。
でも何だろうか。
自分の心の中で明確化できてないものがあって、それが少し引っかかる。
「すまない……わからない」
「全く……高山さんがかわいそうだ」
「どうして高山さんが?」
「神崎がかっこよすぎるからだよ」
俺は川崎の言葉の意味を理解できなかった。
その川崎の言葉が脳にこびりつき、あまり眠ることができなかった。
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