39話
3学期
始まったと思いきやあっという間にもう終わりを迎えようとしていた。
特にイベントがあるわけでもないこの学期は、学校にも慣れたという事もあり気が緩みがちだ。
しかし、学校行事というイベントがないというだけであって、世間ではあるイベントがある。
そう、バレンタインデーである。
2月14日
バレンタインデーという存在を完全に忘れていた俺は、特に気にすることも無く絵美と教室に向かっていた。
教室に入っても特に雰囲気がいつも違う訳でもない……訳ではなかった。
明らかにクラスはざわついていた。
俺は不審に思いながらも自席へと座り、1時間目の準備をしていた。
「あ、あの……!」
すると、一人の女の子が俺に話しかけてきた。
「ん? どうしたの?」
「これ!」
そう言って女の子は俺にチョコレートを渡してきた。
「え?」
そのままチョコを受け取ると女の子はキャーと言いながら顔を赤くしてどこかへ行ってしまった
「やっぱりこうなるんだな……」
前の席にいた川崎は何かを察するかのようにそう言った。
なんでチョコレートなんだと思い前を向いて黒板を見てる時に、今日の日付が目にはいりようやく俺は理解した。
今日がバレンタインデーであると。
それから、休み時間の度に大量の女子が押し寄せ俺にチョコレートを渡してきた。
どうやら、俺にチョコを渡すことでこれから自分にも幸運が訪れるという噂が広がっているらしい。
本当に迷惑な噂だ。
「ていうかなんでそんな噂が広がってるんだよ」
「神崎と高山さんという美男美女カップル、そんな2人のイチャイチャを見てると心が浄化されていくよう……そこから派生していったらしいぞ」
「いや、意味わかんねーぞ!」
どう派生して俺にチョコを渡すと幸運が訪れるという事になるんだよ。
と、そんな噂が広まったせいで放課後まで俺はありとあらゆる女子に占領されていた。
「なぁ絵美ってば」
お昼休みは一緒にいたとはいえご飯を食べ終えるとすぐに他の女子に引っ張られてしまい今日1日あまり絵美と話せていない。
という事で、帰り道一緒に帰ってはいるのだが、絵美が一言も話してくれない。
「仕方ないだろ……なんか変な噂が広まってしまったんだから」
俺がそういういとぷくっと頬を膨らませた絵美がこちらを見た。
「今日はバレンタインなの! 彼女である私が一番春人といたいの! わかる!?」
「も、もちろん俺もだよ……」
絵美の鬼気迫る発言に思わず後ろに後ずさる。
「あ! じゃあたまには変わった事しようか!」
俺はあることを閃き絵美の手を掴み、来た道を戻り街中へと戻ることにした。
「たまにはこういう遊びもいんじゃないのか」
俺達が来たのはゲームセンターだ。
思えばこういった街に出て遊ぶというのは意外と少なかった。
だからこそ、ゲームセンターとかで遊ぶのは少し新鮮だった。
「私ゲームセンターとかあまり来たことないからよくわからないな……」
「それは任せろって!」
それから俺達は色々なゲームをした。
リズムゲームからUFOキャッチャーからホラーゲーム。
そして、何気に初めてとるプリクラ。
「何これ、春人の目おかしいじゃん!」
絵美が笑いながらプリクラに映った俺を見ていた。
「べ、別におかしくはないだろう……」
しかし、実際見てみると少しおかしかった。
不自然に目が大きいというか。
それから、俺たちはクリスマスの時に来たベンチに座っていた。
「今日は楽しかった!」
不機嫌だった絵美もいつのまにか元に戻っていた。
「あ、そういえばこれ!」
そう言って絵美は俺にチョコを渡してきた。
「遅くない?」
「別に渡さなくても私が春人の事好きなの分かってることだし」
絵美のその発言に不覚にもドキッとしてしまった。
俺はそのままぎゅっと絵美を抱きしめた。
「え? な、なに?」
「なんとなく」
そう言って1分ほど、俺達は抱きしめあった。
街中でみんなに見られていたが、不思議と恥ずかしさはなかった。
「やっぱり俺の彼女は自慢の彼女だな」
抱きしめ終えた俺は絵美の顔をみてそう言った。
すると、絵美はすぐに顔を真っ赤にした。
「は、春人だって自慢の彼氏だもん」
絵美がそう言って俺も顔を赤くする。
なるほど、確かに言われるとすごく恥ずかしい。
「まぁそのなんだ……これからもよろしくな」
「こちらこそ……」
付き合ってもう3か月が経とうとする俺達だったが、まるで付き合ったその日のような雰囲気が流れ、ぎこちなく手をつなぎ家へと向かうことにした。
これからもこんな関係が続くようにと祈りながら。
***
復讐を目的とした入学だったが、気が付けばもう1年が経つ。
今日からもう2年生。
復讐相手はいつのまにか恋人になっておりかけがえのない人物となっていた。
奇跡的のも俺と絵美は同じクラスだ。
しかも、川崎と安田さんまで同じクラスと誰かが操作したのではないかと思うほどだった。
「今年もよろしくな神崎」
「こちらこそよろしく! 川崎!」
何気ない日常がこれからも続くかもしれないが、そんなこれからの何気ない日常が楽しみだ。
もし、何かあったとしても乗り越えられると思う。
1年前の俺とは違うのだ。
今は俺の心強い味方がたくさんいる。
だから、何があっても大丈夫だろう。
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