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38話

「西条……?」


 俺はすぐさま西条に近づいた。

 この前までの元気な姿の西条ではなく、鼻にチューブを当てられ今もしんどそうだった。


「かんざき……くん?」


 ゆっくりと目を開け俺の方を見る西条。

 俺は思わず西条の手を握る。


「こんな姿見せたくなかったのにな……ははは」


 そう言って西条は力なく笑った。

 俺はそんな西城をみて更に強く手を握る。

 

「ごめんね、神崎君……来てくれて悪いんだけど、少し……しんどいから……寝ようかな」

「あぁ……俺達はまた来るから」


 西条がゆっくりと目を瞑り寝息を立てたことを確認して部屋を出ようとするとそこには西条のお母さんがいた。


「神崎君、少しいいかしら」


 俺はゆっくりと頷き西条のお母さんの後をついていった。




 病院のとある一室で俺と絵美と向かい合うように西条のお母さんは座った。


「今日もありがとね。そちらは神崎君の彼女さん?」

「はい、高山 絵美と言います」

「そう、2人ともありがとね」

「いえ」

「見てもらった通り、あかりの様態はあまりよくないの。神崎君と会ってから少し戻ったのだけれど昨日急にね……」

「そうだったんですか……」


 暗い雰囲気がその場を支配する。

 流石にこの状況で明るくなんてなれない。

 聞きたいことは山ほどある。

 でも、それを聞いていいのか、聞いてしまっていいのかと思っている自分がいる。 


「あかりは少し前までこことは違う病院にいたのだけれど、あかりの強い要望でここの病院がいいって言い始めて急遽この病院に来たの。それから毎日少しだけ前の橋でどこかを眺めていたのだけれど、きっとそれは神崎君を探していたのね」

「俺を……?」

「えぇ、あかりはずっと神崎君の話をしていたわ。神崎君の話をしてる時のあかりは本当に嬉しそうだった。だから、私からお礼を言いたいの」

「いえ、俺はお礼を言われるような事はなにも」

「いえ、神崎君のおかげであかりは強く入れたの。だから、本当にありがとう」


 お礼が言いたいのはこちらだった。

 俺は西条のおかげで変われたと言っても過言ではない。


「よかったら帰る前に一度だけ顔を見ていってあげて」

「わかりました」


 俺はゆっくりと西条の部屋に入り、西条へと近づく。

 すると、西条はまたゆっくりと目を開けた。


「悪い、起こしたか」

「いや……大丈夫だよ」


 やはり西条の声に力がない。

 

「なんで……そんな暗い表情(かお)してるの? 明日になったら……また戻るから……」

「そうだな! そうだよな!」


 一番つらい西条がこんなに頑張ってるんだ。

 俺が暗い雰囲気を出してどうするんだ。


「あ、そうだ、ちょっと高山さんと2人で話したいから……神崎君は……」

「あぁ、わかった」


 その後、俺は言われた通り部屋から出て2人の会話が終わるのを待っていた。

 20分ほどたったくらいだろうか、絵美が部屋から出てきた。


「お待たせ」


 絵美が笑顔でそう言った。

 その目は泣いた後なのだろう、少し赤くなっていた。


「西条さん、今日はもう寝るみたい」

「そっか……じゃあ今日のところは帰るとするか……」


 そう言って俺と絵美は帰ることにした。

 きっと明日になったら元気な西条が見れると信じて……


 ***


 しかし、その思いは届くことはなかった。

 次の日、病院に行くともう西条はいなかった。


 話を聞くと西条は海外の病院へ昨日の夜に移ったらしい。 

 何故、何も言ってくれなかったのだろうと思い外のベンチで空を見ているとスマホにメッセージが飛んできた。


 相手は絵美だった。


『今日時間ある?』


 俺はすぐに返事をして絵美と合流した。

 合流した俺と絵美は絵美の要望で俺の家で落ち着くことにした。


「春人、今日はもう病院に行った?」

「あぁ、でも西条はいなかった」

「うん」

「驚かないんだな」

「聞いてたから」


 どうやら昨日2人で話してる時に聞いていたらしい。

 じゃあ、どうして俺には言ってくれなかったのだろうか。


「春人にはまた絶対元気になってから会いに行くから、それまで待っててって」

「そっか……」


 西条がそういうなら大丈夫なんだろう。

 またふと現れて元気な笑顔を見せてくれるだろう。


「それにしても昨日は長い間西条と話していたけど、何を話していたんだ?」

「えー、それは言えないかなー。女の子同士の話だもん」

「なんだよそれー。気になるじゃないかー」

「ダメ―これだけは言えないもん」


 まぁでもきっと悪いことじゃないだろう。

 だって、絵美は笑顔だし。

 なら、俺は待っていようかな、またふと西条が現れるその時を。


***

高山絵美視点


 時は遡り、昨日の病院の事。

 西条に言われ西条と部屋で2人きりになった時の事。


「いきなりごめんね……」

「全然大丈夫だよ!」

「神崎君とは……いい調子?」

「うん……絶好調かな」


 私がそういうと西条さんはにこっと笑った。


「そっか……神崎君から話は色々聞いたよ……高山さんと出会った経緯も」

「そう……なんだ」


 発端は私のいじめ……なんだけどな。


「神崎君は……暗い過去のはずなのに……楽しそうに話してた。それはきっと……今高山さんといるのが楽しいから……」


 私は黙って西条さんの話を聞いていた。


「神崎君……久しぶりに見ても変わってなかった……昔となにも……」

「でも、春人は昔と変われたって」

「神崎君は何も変わってない……昔は……自分の意思を表に出さなかっただけ……ふとした仕草や……思考も前と同じ」

「そう……なんだ」


 笑顔でそういう西条さんを見て私は少し羨ましいとおもってしまった。

 だって、その春人を私は知らないのだから。

 自業自得なんだけれど。


「羨ましいな……私の知らない春人知ってるんだもんね」

「ふふ……私も羨ましいかな……私の知らない神崎君を……あなたは知っている」

「そうかもね」


 そう言って私達は笑いあった。


「ねぇ、西条さん。あなた春人の事好きなんでしょ」

「わかっちゃった?」

「バレバレよ」

「流石だね……」

「春人は鈍感だから大変よ」

「高山さんも……苦労した?」

「私も大変だったし、きっと春人も大変だったと思う」

「そっか……やっぱり羨ましいな……」

「西条さんも元気になってアタックしまくりましょ!」

「ふふ……正妻の余裕ってやつ?」

「バレたか!」


 そういって私達はまた笑いあった。

 

「実は……今日の夕方から……海外の病院に行くの」

「そう……なんだ」

「そこで……すぐに良くなって……神崎君……奪っちゃうから」

「あらあら、これは負けてられないわね。春人はそのこと……」


 そこまで言うと西条さんは首をゆっくりと横に振った。


「次、神崎君と会う時は……私が元気になった時……」

「そっか……」


 きっと西条さんは色々悩んで春人に言わないって決断をしたんだと思う。

 だから、私は西条さんの決めたことには何も言わない。


「私が……元気になったら……神崎君……奪っちゃうから」

「奪えるものならね!」


 そう言って私達はまた笑いあった。


 それが私と西条さんの話した内容の一部。


 でもそんな西条さんを見てたらこれからも大丈夫だろうと思えた。

 だってあんなにも強い意志を持った眼をしていたから。


 

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