37話
「久しぶりだね、神崎君」
コートに身を包み、ニット帽をかぶったその女性は、大きくなってはいたが間違いなく西条 あかりだった。
俺は、空いた口が塞がらずしばらく西条を見ていた。
「どうしたの春人?」
絵美が心配そうにそう言った。
しかし、絵美の言葉すぐに俺の頭から抜けていった。
「西条……?」
俺の意識は目の前の西条に向かっていた。
「覚えていてくれたんだ」
「当たり前じゃないか」
「もしかして……この子がこの前言ってた?」
「そう、西条 あかりだ」
****
俺と絵美、そして西条 あかりは近くのベンチに3人で座った。
「本当に久しぶりだな西条」
「神崎君もね」
西条の笑顔は小学5年生の時から何も変わらなかった。
同時に俺の小学5年生の時の記憶がすーっと流れてくるようだった。
「神崎君、明るくなったね」
「そうか?」
「そうだよ! それもあなたのおかげかな?」
西条は絵美に向けてそう言った。
「わ、私?」
「だって2人はお付き合いしてるんでしょ?」
西条の言葉に俺と絵美は目を合わせ顔を赤くした。
「あの神崎君が女性とお付き合いかー。なんか想像できないなー」
「そりゃあの時の俺もこんな俺を想像してなかっただろうよ。西条は今どうしてるんだ?」
「今は、病院に入院してるんだ。少しくらいの外出なら大丈夫だけどね」
「そう……なんだ」
つまり、まだ病気は治っていないという事だろうか。
でも、明るい笑顔も変わっていないしこの様子なら大丈夫そうだ。
「あ、ええっと神崎君とお付き合いしてるそちらの女性の方の名前は?」
「あ、ごめんなさい私、高山 絵美です!」
「高山さんね。私は西条 あかりです。よろしくね」
「お前たち初対面みたいな言い方だけど、小学校同じだからな」
「え? そうなの!?」
西条が目を見開き驚いていた。
「まぁ人数も多かったし面識なかってもおかしくないもんな」
「そういえば、小学生の時にすごくかわいい女の子がいるって聞いたことがあるけどもしかしてその子が高山さんなのかな」
「さぁな、俺はボッチだったしそんな噂知らない。ただ絵美は可愛いのは確かだな」
「もう……やめてよ」
絵美は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「お暑いねー」
西条はニヤリとしながらそう言った。
「そろそろ私病院に戻らないと。この病院にいるからよかったまた顔を出してくれると嬉しいかな」
「おう! 絶対来るよ」
「ありがとう! じゃあね!」
西条は笑顔で俺達に手を振り病院へと向かった。
「明るい子だったね」
絵美はぽつりとそう言った。
「あぁ。何も変わってなかった」
その日は、そのまま絵美と2人で帰った。
***
次の日
放課後、絵美がバイトという事もあり絵美を家まで送った後、俺は西条の病院へと来ていた。
受付らしきところで西条の病室を聞き、西条の元へと向かった。
俺はネームプレートで最上の部屋であることを確認してドアをノックして病室へと入った。
どうやら西条の部屋は個室らしい。
「よお!」
「あ、神崎君来てくれたんだ」
「あたりまえよ。これ、よかったら食べてくれ」
何を渡せばいいかわからなかったのでとりあえずよさげなゼリーを渡しておいた。
「ありがと!」
ベッドの上にいるとは言え表情から見てやはり元気そうだった。
俺はその様子をみて本当に安心していた。
それから、西条と俺のこれまでの話をしていると部屋のドアが開いた。
「あかりー? あら、あなたは?」
入ってきたのは西条をそのまま大人っぽくしたような女性の方だった。
俺は一発で西条のお母さんだと分かった。
「あ、神崎 春人と言います。西城さんとは小学校が一緒で」
「あなたが神崎さんね」
「俺の事をご存知で?」
「えーだってあなたの事はあかりから……」
「もーお母さん言わなくていいからー」
そう言って西条は顔を赤くして言葉を遮った。
「とりあえずお母さんは出ていくから2人で楽しんで」
「もーそんなんじゃないからー」
西条のお母さんは顔をニヤニヤしながら部屋を出て行った。
「ごめんね神崎君」
「あー俺は全然かまわないぞ」
それから俺はさっきまで話していた俺の小学6年生の頃から今に至るまでの話をした。
「だから、今こうしていられるのも西条のおかげなんだ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
一通り話し終え俺は西条にそう言った。
俺は、ずっと西条に言いたかったんだ。
西条のおかげで俺は変われた、だからありがとうって。
「今日はそろそろおいとましようかな」
「今日はありがとね」
「あぁ、また来るよ」
辺りも少しずつ暗くなりつつあるので俺はそのまま家へと帰る事にした。
***
そして、その週の金曜日。
俺と絵美はまた西条の病院に来ていた。
絵美が来るのは初めてか。
「絵美まで付き合わせてすまないな」
「いやいや全然大丈夫だよ! 私も仲良くしたいし」
西条の部屋をノックして俺と絵美は部屋へと入る。
しかし、そこに西城はいなかった。
部屋を出てもう一度ネームプレートを確認するが、間違いなくそこは西条の部屋だった。
「あれ。どこかで診察でもしてるのかな」
待っていても仕方ないので受付に戻って西条の場所を聞こうと思い、部屋を出ようとすると西条のお母さんが部屋の前にきた。
「あ、どうも」
俺と絵美が挨拶するも、西条のお母さんは少し表情が暗かった。
「神崎君、今日も来てくれてありがとね。でもごめんね、今日はたぶんあかりと会う事はできないと思うの……」
その表情に少し疑問を抱きながら俺は西条のお母さんがそういうならと今日のところは病院を出ることにした。
「折角来てくれたのにごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ! また来ますね!」
そう言って俺と絵美は病院を後にした。
***
次の日、連日で申し訳ないと思いつつも昨日の西条のお母さんの表情が気になった俺と絵美は病院へ向かう事にした。
西条の部屋をノックして部屋に入ると、俺は手に持った西条に渡すつもりだったお菓子を地面に落とした。
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