27話
高校生になってから二度目の中間考査。
恒例となりつつあるテストの点数対決は今回も無事開催される事となった。
親父達も昔はこんなことしてたのかな、なんて思うと少し恥ずかしくなった。
もちろん、今回も俺は全力だった。
なんなら高校卒業までオール100点なんてものも……と思っていたのもついさっきまでのこと。
俺は毎度最後に返される現国のテストの点数を見て震えていた。
「98点……だと!」
なんと漢字ミスという凡ミスを犯してしまった。
見直しは行ったはず。
いや、間違えたという事はどこか気が抜けていたに違いない。
しかし、本来ならばもっと悔しがるはずなのだがその時の俺は何故かそこまで悔しがることができなかった。
前回までなら、絵美に権利を執行できないことに相当落ち込み悔しがっていたと思う。
でも、もし今回負けてしまっても絵美にどこかに連れまわされるのならば、それはそれでいいかななんて思っているのかもしれない。
ま、言い訳だけど。
***
例のごとく俺はお昼休みにテストをもってあの階段へと向かっていた。
到着すると絵美が渾身のドヤ顔で俺を見ていた。
その瞬間、「負けたな」と思った。
「春人! 早く交換しよ!」
「あぁ」
俺は絵美にテストを渡し、俺は絵美のテストを見た。
予想通りオール100。
相当努力した結果だろう。
何故だろうか。
俺は悔しさよりも嬉しさの方が強かったんだ。
「私の……私の勝ち! やっと春人に勝てたー!」
子供のように喜ぶ絵美を俺は悔しがる素振りを見せながらも微笑みように見ていた。
「で、俺は今回どんな罰ゲームを受けるんだ?」
「それなんだけど私、春人の嫌いもの知らないんだよね。だから春人の嫌いなもの教えてよ!」
嫌だ、と言いかけたがこれはむしろチャンスなのかもしれない。
あえてここで俺の好きな物を言えば罰ゲームにならずむしろご褒美になるのではないかと。
いや、それはダメだな。
勝負に負けたのだから潔く罰ゲームを受けるべきだろう。
かといって、嫌いなものなんて言われてもなかなか浮かばないものだ。
「嫌いなものなんて浮かばないな……」
次の瞬間、俺の足の下にかさかさと何かが動いた。
俺は驚き足を上げると、なんとそこには小さなゴキブリいたのだ。
俺はゴキブリを見た途端、体の芯から震えた。
そう、俺は大の虫嫌い。
ゴキブリなんてみるだけで気持ち悪くなる。
絵美の方を見ると、俺の方を見てニヤッとしていた。
「春人は虫が苦手かー。なるほどなー」
「え、絵美は大丈夫なのか?」
「何回ゴキブリを見てきたと思ってるの。これくらいなんてことないもん」
俺はこの日ほどゴキブリを恨んだことはない。
実質、俺の罰ゲームが決まったようなものだ。
***
その週の日曜日。
絵美に駅に9時集合と言われ向かった。
いつも通り集合し一駅先に今日の目的地があるらしく向かうと大体予想していた通り、昆虫博物館のようなものだった。
生きてる虫から標本まで色々あるらしい。
「さぁ、行こ!」
絵美は何故かご機嫌だったが、俺は本当に嫌だった。
受付を済ませ中に入ると、モンシロチョウをはじめ様々な虫の標本があった。
ゴキブリを見た時は震えたが、昆虫の標本は別になんとも思わなかった。
「あ、あれ? 春人なんともないの?」
俺が表情を変えずに眺めているからか絵美は俺にそう言った。
「うーん別に何とも思わないかな」
「な、なんでよー!」
「俺に言われてもなー」
絵美にとって好ましくない結果となったらしいが、俺は構わず先に進む。
ある程度進むと次はカブトやクワガタといった種類の昆虫がいるエリアに来た。
俺が唯一かっこいいと思える虫である。
と言っても他の虫をみても何も思わないあたり、俺がダメだったのはどうやらゴキブリだけだったらしい。あ、あと蜘蛛もだめだな。
オオクワガタを見つけた俺は早歩き近づきじっくりと見ていた。
「やっぱりオオクワガタはかっこいいな」
絵美は少し離れた位置にいた。
「絵美? 見ないのか?」
「い、いい……」
俺は心の中でにやりとした。
この反応は絶叫マシンの時と同じ、苦手なものの時にする反応である。
俺は絵美の手を掴みこちらに誘導した。
勢いで手を掴んだ俺は、その事実を掴んでから気づき顔が熱くなった。
「か、かっこいからクワガタ見ようぜ……」
「う、うん」
そう言って絵美は俺の横に来てオオクワガタを見たが1秒と持たなかった。
「もしかして絵美……」
「カブトムシとかクワガタは苦手なのよ……」
素直にアホじゃないかと思ってしまった。
昆虫博物館なんだからいるに決まってるじゃないか。
まさか自分で自分の首を絞めるとは。
その後、特に嫌な気もせず、むしろ珍しい昆虫が見れて満足していた。
絵美はそんな俺の様子にご不満なようだった。
「も、もう昆虫はいい!」
「そうか。じゃあどこいく?」
「うーん……」
どうやらこの後の事は考えていなかったらしい。
まさか一日昆虫博物館の予定だったなんて。
「じゃあ、春人の家!」
「え? 俺の家?」
「私の家でもいいんだけど、今日妹の友達遊びに来てるから」
「お、俺の家かー」
「私がテスト勝ったんだよー」
「わかった、わかったよ」
俺は正直絵美を家に入れたくなかった。
だって、自分の気持ちに気づいた今、自分の部屋に二人きりって色々と耐えれないと思うんだ。
しかし、そんな思いも虚しく気が付けば俺が住むマンションの前に来ていた。
俺のテンションと反比例するように絵美は鼻歌を口ずさむほど機嫌がよかった。
家に入ると絵美はリュックから包みに入った大きめな箱を取り出した。
「お腹空いたしご飯食べよ!」
包みの中は二人分の弁当だった。
中身は俺の好きなハンバーグから手の込んだ料理までたくさんあり時間をかけてくれたことがわかった。
家で食べる絵美の弁当はいつもよりも美味しく感じた。
それに今日はずっと二人きりでいるのに家に帰ってきてから緊張しっぱなしだった。
いや、緊張が増した、とでも言うべきだろうか。
目の前にいる女の子に「好きだ」その一言が言えれば終わる話なのに相変わらずその言葉は喉の奥で止まっている。
いつまでもこんな関係を続けていてはだめだ。
そんなのはわかっている。
だからこそ、俺は決めた。
告白することも、告白するタイミングも。
「絵美、期末考査は負けないからな」
「私だって負けないよー」
俺の期末考査にかける想いは今まで一番強い。
俺の人生がかかってると言っても過言ではないから。
***
決心してからというものの、気持ちが軽くなったせいなのか、時の流れは早く中間考査が終わったばかりというのに気が付けばもう、期末考査間近となっていた。
同時にはそれは2学期終了を知らせるものであり、クリスマスの訪れを知らせるものでもあった――
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