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25話

 夏休みに何事もなかったのように2学期は始まった。

 表面上は何も変わらなった。

 しかし、気持ちの変化はあった。

 いや、気づいたというべきだろうか。

 

 もちろん絵美との弁当交換も何も言わずとも継続していた。

 俺はなるべく今までと同じように接した。

 そんな日々でも本当に楽しくて、絵美の笑顔を見るだけでこの関係でいいやと考えてしまう。

 

 でも、わかっているんだ。

 心のどこかでいつかこの気持ちに決着をつけなければならないって。

 今はその思いを先延ばししてるに過ぎない。


***


「2学期ってなにもないよなー」

 

 川崎は1限目の授業が終わった後、そう言った。

 確かに2学期は長いくせに特に行事が有るわけではないような気がする。

 もちろんテストはあるが。


「強いていうなら球技大会くらいか」


 川崎はそう呟いた。

 球技大会は中学校でもあった。

 高校でもやはり球技大会はあるのか。


「その前に生徒会役員の入れ替わりだよなー。俺たちの学年から誰が執行役員になるんだろうな」


 執行役員は今の藤崎さんのポジションだ。

 といっても生徒会なんて面倒くさいポジションはやりたくはない。


 でも、球技大会は少し力を入れてもいいかもしれない。

 絵美にいいところをみせれるかもしれないから。

 

 そんなこんなで、何もない日々がただただ過ぎていった。


***


「親父、母さんとの昔話聞かせてよ」


 今日は金曜日で珍しく親父がマンションに来ている。

 そして、作ったカレーを食べながら俺は呟くようにそう言った。


「どうしたんだいきなり」

「いや、なんとなく……」

「そうか……お前もそんな年頃か」


 父さんは優しい表情をしながら語るように口を開いた。


「母さんと俺はな、どっちも負けず嫌いだったんだよ」

「あーわかるかも」


 父さんも母さんも些細な事でも譲らなかった。

 それは昔からで今でもきっとそう。


「それでな、学生の頃からずっと競い合ってたんだ。テストとか、進学先の学校とかな。俺はずっと互いを切磋琢磨できるいいライバルだと思っていたんだ。だけど、いつからか俺は母さんの事を好きになっていた。本当にいつ好きになったかはわからない。でも気づいたら好きになってた」


 まるで今の自分の話をされているようで、俺は親父の話に聞き入っていた。


「それで?」

「告白したさ。ストレートに好きですって」

「うん」

「そしたら振られた」

「え?」

「そして3日後に告白された。母さんから」

「なんだそりゃ」

「あなたに先手を取られたのが悔しいって言ってたな。それで俺たちは付き合い始めて大学を卒業して、俺からプロポーズした。そして今でもどっちがよりビッグになれるか勝負してる最中だ」


 なんか、俺と絵美に似てるようで似てないような。

 そんな気がした。

 でも、俺には告白する勇気なんてない。


「悩んでいるのか?」


 親父は優しくそう呟いた。

 

「あぁ」


 隠しても仕方ないと思った。

 恥ずかしかったけど、どうせ見抜かれてるんだろうと思った。


「今は十分に悩め。父さんも昔はたくさん悩んだ。告白する時だって悩みに悩んださ」

「どうして、告白しようと思ったの。怖くなかったの?」

「怖いさ。男なのに告白する時、声が震えちゃってさ。振られたときはそのまま死のうとまで考えたよ。でも、勇気を出してよかった」


 勇気を出してよかった……か。

 俺も勇気を出せるなら。どれほど楽か。


 人生で初めて俺は壁というものを体験してるのかもしれない。

 そんな俺を父さんは優しくなでてくれた。


「なんだよ、気持ち悪いな」

「いや、おまえもそうやって悩む時が来たんだと思うと嬉しくてな」

「やめろよ、そういうの」


 ただ恥ずかしい。

 高校生にもなって親父に頭を撫でられるのが。

 でも、不思議と気持ちが楽になった気がする。


「昔は死んだ魚のような目をしてたのにな」

「いつの話をしてるんだよ」


 そんな話を親父と笑いながらした。

 親父には敵わないな。


 そう思った――


「そういえば母さん年末年始帰ってくるらしいから覚悟しておけよ」


 帰り間際に親父はそう言った。


「え? まじ?」

「なんせ一年ぶりだもんなー。これはすごいことになりそうだな」

「俺の年末年始……オワタ」

「はっはっは! まぁ楽しみにしておけよ! じゃあな」


 親父はそう言ってマンションを出て行った。

 母さんか。

 あの人が帰ってくると俺の自由がなくなるんだよな。


 でも、本当は楽しみにしてる自分がいる。


***


 9月ももうすぐ終わりを迎えるころ。

 現3年生である生徒会役員の任期が終了し、2年生に世代交代する時期がやってきた。

 もちろん、生徒会選挙というものが存在する。

 藤崎さんは執行役員ということと、生徒からの信頼から文句なしの生徒会長候補だった。


 執行役員は基本挙手制で、俺たちの学年からも二人誰かが立候補したらしい。

 物好きもいるものだくらいで俺は聞いていた。


 生徒会選挙が始まると、藤崎さんともう一人の執行役員だった人が断トツの票で生徒会役員となった。


 立候補したもの好きな二人と生徒会が推薦した生徒が書記となり生徒会に加わり新生徒会が結成された。


 新生徒会の初めての仕事は球技大会。

 10月に入り、新生徒会が発足した3日後に今年の球技大会は男子はソフトボール、女子はバレーボールと知らされた。


 そうと決まった日から、俺はバッティングセンターに通い始めた。



 

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