22話
戻れることなら学生、できれば高校に戻りたい。
そう思ったことはないでしょうか。
3日目
自分の気持ちに気づいてしまった俺は結局なかなか寝付けなかった。
5人で朝食を食べ終えた後、せっかくなので地下のボウリング場でボウリングしてから帰ろうということになった。
朝食を食べる為に食堂にみんな集まった時、もちろん絵美もいるわけでまるで一晩のうちに俺じゃない何かに変わってしまったのかと思うくらいに絵美を見ると胸の鼓動が早くなった。
「春人、おはよう!」
「お、おはよう」
普段してる挨拶をするだけなのに、緊張して上手く呂律が回らない。
流石にこの調子だと不審がられてしまう。
なんとか平静を装わなければならない。
ご飯を食べ終え、俺はみんなでボウリング場へ移動する。
もちろんボウリングは俺もしたことあるしアベレージは180ほどだったはず。
これが低いのか高いのかは知らないけど。
しかし、その日の俺はアベレージを大きく下回った。
大体120から130、といってもみんなと大して変わらなかったが。
でもみんなとボウリングは楽しい。
楽しいはずなのにどうしても絵美の表情を気にしてしまう。
今までも楽しんでもらえてるのだろうか、とかある程度は気にしていたが昨晩を境に明らかに増えた。
絵美の方をちらっと見ては視線があって、視線があうとさっと視線を外してしまう。
まるで自分が自分じゃないように感じてきた。
そんな自分に戸惑いつつ、気が付けばボウリングは終了し、部屋へと戻り帰宅の準備をしていた。
「神崎、なにかあったのか?」
川崎はカバンに荷物を詰めながらそう言った。
「どうしてだ?」
「いや、今日の朝から挙動不審というか心ここにあらずって感じだ」
「そんなことないと思うけどな」
「そうか。ならいいんだけど」
なんだかんだ川崎は鋭い、というより俺がそれだけ分かりやすいという事だろうか。
朝食の時も、ボウリングの時も俺は絵美を気にしていた。
そう思われても仕方ないかもしれない。
帰宅の準備を済ませ、別荘を後にする。
「三日間本当にありがとうございました」
「いえいえ、よければ来年もお越しください」
別荘の人たちに挨拶をし、船へと乗る。
俺は疲れが残っているのか、それとも考えることをやめたいのか。
眠さが残っていたため、船で寝ることにした。
***
目を覚ますと、もうすぐ到着というところまできていた。
と言っても今からバスで2時間かかるのだが。
「春人、疲れてるの?」
寝起きの俺に絵美は声をかけてきた。
それは俺にとって不意打ち以外のなにものでもなかった。
「い、いや大丈夫だ。少し寝てましになった」
「そう、この三日間たくさん遊んだもんね」
いつもの絵美の笑顔のはずなのに。
どうして俺の心臓は俺の意志とは別にこうも鼓動が早くなるのか。
これが恋というものなのか。
人間の体というのは実に不便な体だ。
それからの俺は船の中でもあえて絵美と遠ざけるように行動した。
近くにいることが耐えられない。
少し頭を冷やす必要がありそうだ。
バスも絵美と少し離れた席に座りずっと窓から外の景色を眺めていた。
そして約4時間かけ俺たちは戻ってきた。
戻ってきたと実感した途端、どっと疲れを感じた。
ほかのみんなもそうだったのか、バスを降りると少し会話をしてすぐ解散となった。
俺はぼーっとしたまま家に帰った。
家に帰り荷物をその辺に置き倒れ込むようにベッドに横になった。
目を閉じると、この三日間の思い出が流れてきた。
その思い出の大半が絵美の笑顔だった。
船やバスでは絵美を避けていたのになぜだろうか、こうして冷静になってみると会いたくなってきた。
前までこんなことなかった。
いや、自分では気づかなかっただけでそう思っていたのかもしれない。
中間考査で絵美を海に誘ったのも、期末考査の結果で遊園地に連れて行ったのも、どこかで俺は絵美といたいとおもっていたのかもしれない。
この三日間の旅行はその気持ちに気づいたに過ぎないのかもしれない。
そこで俺は気づいた。
まだ8月の初旬。
夏休みはまだまだある。
学校が始まるまで絵美と会えない?
そう思うとまた胸が苦しくなった。
絵美を遊びに誘えばいい。
三日前の俺なら容易に誘えただろう。
でも今の俺には無理だ。
川崎の気持ちがここにようやくわかった。
確かにこの気持ちに気づいてたら俺も絵美と二人きりでの海はハードルが高かったかもしれない。
しかし、ここで引いてもこの胸の苦しさはとれない。
どうするか悩んでいた時、あるイベントを思いだす。
夏祭りである。
確か2週間後に市街地の方で祭りがあり花火大会もあったはずだ。
これしかない。
俺はスマホを手に取り絵美にメッセージを送ろうとする。
しかし、なんて送ればいいのか思うつかない。
2週間後の夏祭り一緒にいかないか?
それでいいはずなのに、それじゃいけない気がする。
30分ほど悩んだ末、答えは出ずにとりあえずメッセージを飛ばすことにした。
『三日間お疲れ!』
送信ボタンを押した後、いきなりこんなメッセージでよかったのかと少し後悔した。
しかしすぐに返事が返ってきた。
『お疲れ様! 楽しかったね!』
さて、これはどう返すか。
『楽しかったな! いきなりなんだけど2週間後にある夏祭り一緒に行かない?』
本当にいきなり誘ってよかったのだろうか。
悩んだ30分が勢いによって押し切られた。
『いいよ! みんなも一緒?』
みんなというのは川崎や藤崎さん、そして安田さんだろう。
しかし、今の俺はあの5人じゃなくて絵美と二人で行きたかった。
『いや、絵美と俺だけだ』
メッセージを送信するとすぐに既読が付いたがなかなか返事が来なかった。
もしかして、二人は嫌だったか。
それはそうか。
ついさっき5人で楽しい旅行をしたのにあの5人で行きたいに決まってるよな。
俺は冷静さを失っていたかもしれない。
なんて後悔しているとスマホから通知音がなった。
『いいよ! 楽しみにしてるね!』
そのメッセージを確認すると、俺は自然とガッツポーズが出た。
自分でも驚くほど自然に、そして気づけば俺はニヤけていた。
そこで俺は我に返った。
なんでガッツポーズなんてしているんだ、気持ち悪い。
いつも通り遊びに誘っただけ、それだけじゃないか。
表面上では俺は平然を装っていた。
でも、この高揚感だけはどうしても抑えることができなかった。
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