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20話

少し物語が動きます

 一日目。

 まずは重たい荷物を置くべく別荘の中へと案内してもらう。

 

「こ、これが別荘……」


 そう声を漏らしたのは川崎だった。

 それはここにいる誰もが思っている事だった。


 玄関から入ってすぐに広がるのはホテルのエントランスではないかと思うレベルの空間が広がっており、左右に廊下があり各部屋がある。

 同じような空間が二階にもある。


 エントランスを突き抜けると男女別の大浴場があり地下への階段を行くとボウリング場といったその辺のホテルよりも豪華な仕様である。


「あの……俺達こんないいところに泊まっていいんですかね……」

「許可はとっているわ。それに一流のシェフも呼んでるらしいからご飯も楽しみにしてて頂戴!」


 最早楽しみが海以外になりつつあるが、目的を忘れてはいけない。

 俺たちはあくまで海を楽しみにきたのだ。


「とりあえず部屋の鍵を渡しておくわ。その鍵の番号の部屋を使って頂戴」


 渡されてたのは俺と川崎で同じ部屋。絵美、藤崎さん、安田さんで一部屋だった。

 なんでもこういったイベントは夜寝る前の話で盛り上がるから一緒の部屋にしたらしい。

 その気持ちはわかるけど川崎と2人一緒の部屋にされてもな……


 渡された部屋の番号は105号室。

 いやもう完全にホテルじゃないかと思いつつ部屋に入ると、ダブルベッドが二つ並びそれでも広く感じるほど広い部屋だった。


「ダブルベッドだぜ。まさかこんなベッドを独り占めできる時がくるなんて思わなかったぜ」


 川崎の目は輝いていた。

 このレベルのホテルを取ろうと思ったらいくらかかるのだろうか。

 少なくとも学生の俺達じゃ無理だろう。


「とりあえず着替えるか」

「そうだな」


 海が目の前という事もあり部屋で着替えて海で集合という事になっていた。


「神崎……おまえやっぱりかっこいいよな」

「どうしたんだいきなり気持ち悪いな」

「顔もよくてそれだけ体もバキバキとか……本当にずるいやつだ」


 海パンに着替えた俺の体を見ながら川崎はそう言った。

 男に体をまじまじと見られるのははっきり言って気持ち悪い。


 男というのは着替えるのが早いもので、速攻で着替え海へと向かおうとしたらエントランスでスーツを着たお年寄りから声をかけられた。


「神崎さん、川崎さん。申し遅れました。この三日間みなさんのお世話をさせていただきます、執事の高田と申します」

「ど、どうも」


 人生初の執事に何度目からわからない驚きを隠しつつ俺と川崎はなんとか挨拶を返した。


「女性の御三方はしばらく時間がかかるそうなので先に海でお待ちいただくよう言われております」

「わかりました。ありがとうございます」


 元よりそのつもりだった俺たちはそのまま海へと向かった。

 目の前に広がるどこまでも続く大きな海に思わず叫びたくなるのを抑え、俺たちは砂浜に横になった。


 心地のよい風が体全体を包み込む。

 人も程よく少なく、思い切り遊べそうだ。


「お待たせしましたー」


 初めにでてきたのは安田さんだった。

 ピンクの水着が可愛らしく、おしとやかなイメージの安田さんとは違った良さがでていた。


「俺、もう死んでいいかもしれない」


 案の定、川崎は安田さんの水着にノックアウトしていた。

 これを拝みにきたと言っても過言じゃないからな。


「春人さーん」


 手を振りながらこちらにむかってきたのは藤崎さんだった。

 イメージ通りの黒い水着が大人の雰囲気を出している。

 筋トレをしているおかげかお腹が周りが絞れておりこころなしか腹筋も割れている。


「どう春人さん。私の水着!」

「とても似合ってますよ!」

「そう? そう言ってもらえたら海にきた甲斐があったわ」


 俺の言葉で喜んでもらえるならいくらでもほめよう。

 本当に綺麗だしね。


「お待たせ」


 頬を赤くしながらこちらに歩いてきたのは絵美だった。

 オレンジ色の水着がよく似合っていた。

 俺の中間考査の努力が今実った。


 やっぱり海、最高だ。

 絵美はこちらを見て何か言いたそうだった。

 そういえば言い忘れていたことがあったな。


「絵美、似合ってるぞ」

「そう……ならよかった」


 頬を赤くしてそっぽを向く絵美がどこか可愛らしく感じた。

 これも水着効果だろうか。


 なにはともあれ、三人の水着姿を拝めて我は満足なり。


 ***


「海と言えばビーチバレーね!」


 そう言って藤崎さんはビーチボールを持ってきた。

 チームは俺と絵美。

 川崎と安田さん。

 そして審判が藤崎さん。


 1ゲーム終わったら審判を一人ずつ回していくという事に決まった。

 

「神崎……お前は俺の師匠だ。だが、今ここでお前を超える!」


 川崎の渾身のサーブが放たれる。

 俺は力を受け流し上へと上げる。


「絵美、トスを頼む」

「わかった!」


 絵美の綺麗なトスがネット際に放たれる。


「川崎、残念だが俺を超えることはできない」


 俺の渾身のアタックが川崎と安田さんの間に決まる。

 その後も、俺と絵美の一方的な試合になり終了した。


「な、なぁ。神崎が強いのはわかるが、高山さんも上手すぎない?」

「妹の練習に付き合わされた時があったのよ」


 なるほど。

 確か真帆ちゃんも相当バレーが上手いと聞いた。

 その相手をしていたら上達するか。

 俺は、中学の頃の体育しかしたことがないが。


「じゃあ次は私の番ね」


 そう言って藤崎さんは俺の横にきた。


「高山さんは安田さんと組んでちょうだい」

「わかったわ」


 結果を言ってしまうと、俺たちの圧勝だった。

 俺が本気を出したわけじゃない。

 藤崎さんが強すぎたのだ。


「どうして……藤崎さんそんなに強いのよ」


 息切れしながら絵美はそう言った。


「町内会のおばちゃん達のバレーに時々参加してるのよ」


 えっへんと胸を張りながら藤崎さんはそう言った。

 町内会というレベルを越してるレベルに見えたが町内会のおばちゃん達のレベル高すぎないか。


「もう一回よ! 藤崎凛!」

「受けて立つわ」


 二人の間にばちばちとした何かが見える。


「俺は休憩しようかな」

「私も……」


 俺と安田さんは消えるようにコートを後にした。


「じゃあ川崎君審判続行して!」

「は、はい!」


 二人の命令に逆らえるはずもなく川崎は審判続行だった。


 ***


 絵美と藤崎さんの一騎打ちを見ながら俺と安田さんは少し離れたところで休憩していた。


「神崎さんお疲れ様です」


 そう言って安田さんは飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとう」

「そういえばこうして話すのは初めてですね」


 安田さんは笑顔でそう言った。


「そうだね」

「私女子のみんなに自慢しちゃお」

「何を?」

「神崎さんとお話したことです!」


 俺と話したことくらいを自慢できるのかな。

 と素直に思ってしまった。


「女子の中では神崎君は崇められているんですよ! 話しかけてもらえたらそれから一週間以内に幸せなことが起こると言われてます」

「ははは、俺は神様か何かかな?」


 いつのまにそんな大それたことになっていたんだろうか。

 

「あと高山さんです」

「絵美?」

「それです! 神崎さんは高山さんのこと下の名前呼びますよね。しかも呼び捨てで! お昼もいつも一緒ですし、体育大会も高山さんの家族と一緒でしたし、みんないいカップルだと言ってますよ」

「でも俺達付き合ってるわけじゃないしな」

「え? 付き合ってないんですか?」

「うん」


 みんなに言われるけど、そんなに付き合ってるように見えるのだろうか。

 そもそも付き合うとはなんだ?


「じゃあ、神崎さんは高山さんの事好きじゃないんですか?」

「絵美の事? 好き……か」


 好き。

 それはきっと異性としてという事だろう。

 でも俺にはその感情がわからなかった。


 好きとはなんだろうか。

 確かに一緒にいると楽しい。

 でもそれは川崎だって同じだ。


 なら、それは友達としての好きじゃないだろうか。

 

 ビーチバレーが終わり、日も沈みかけ今日は別荘でご飯となった。

 出てきた料理は見るからに美味しそうな料理ばかりでこれを無料で食べていいのかとみんな言っていた。


 でも俺はご飯の時も、お風呂の時もただ好きという事について悩んでいた。


 そして、疲れもたまっているだろうという事で各部屋で寝ることになった。

 俺はベッドに入ってもずっと悩んでいた。


「なぁ神崎。何を悩んでいるんだ?」


 川崎は消灯した部屋で突然そう言った。


「悩んでるように見えるか」

「あぁ、ご飯の時からずっとな」


 ばれてしまっていたようだ。

 なら少し恥ずかしいが相談させてもらうとしよう。


「なぁ川崎、好きってなんだ」

「はぁ? それは異性に対してか?」

「そうだ」

「神崎……おまえ本当に彼女できたことないんだな。まぁ俺もだけど」

「恥ずかしながらな」


 作ろうと思えば作れた。

 そこで思い返してみれば俺は好かれることはあっても誰かを好きなったことがあるのだろうか。

 答えは否だった。


「難しいな。俺の場合だとずっとその人の事が思い浮かんでしまうかな。四六時中その人の事を思ってしまう」

「安田さんの事もそうなのか?」

「まぁ……そうだな」

「そうか」

「高山さんの事で悩んでるんじゃないのか」

「あぁ。昼間に安田さんから言われてな。絵美の事好きじゃないのかって。でも俺には好きって感情がよくわからないんだ」

「そっか……でもそればっかりは自分で見つけるしかないかもしれないな」

「そういうもんか」


 結局俺は好きについてわかることはなかった。


***

高山絵美視点


「恋バナよー!」


 藤崎凛は突然そう叫んだ。


「いいですね! 恋バナ」


 安田さんもノリノリだった。 

 私も恋バナがしたくないわけじゃなかった。

 安田さんの話も聞きたかったし。


「じゃあ安田さん! 率直に聞くわ! 川崎さんの好きなところはどこ!」


 藤崎凛は単刀直入に安田さんに聞いた。


「え……えぇ」


 顔を一瞬で赤くしてうねうねする安田さん。

 それだけ川崎君の事好きなんだと思った。


「明るいところとか。引っ張ってくれるとことか……全部です!」

「ふむ……これは恋する乙女ね」


 藤崎凛は顎に手を当て頷いていた。


「2人がひっつくのも時間の問題ね……じゃあ次高山さん。あなたはどうなの?」


 藤崎凛は次に私を指名した。

 私は……


「私は……春人の事が好き」

「それは知ってるわ。じゃなくて私が聞きたいのはどうしたいのかよ」


 どう……したいのか?

 そりゃ付き合って……

 あれ?

 付き合ってどうしたいの?


「知ってると思うけど私も春人さんの事が好きよ」


 藤崎凛がそういうと安田さんがびっくりしてベッドから転げおちた。


「ふ、藤崎先輩もそうだったんですか」

「えぇ。この1か月半ほど春人さんと結構遊んだし夏休みに入ってからも春人さんがジムにいく時間を見計らって時間を合わせて行くようにしてたし、たくさんお話もした。でも、どれだけお話しても高山さんと話してる時が春人さん一番いい笑顔するの。私はどうしても見比べてしまうの。やっぱり勝てないかって。」


 私は何も言えなかった。

 私も春人と話してる時は本当に楽しい。

 でもそれは、所詮仲のいい友達止まり……


「でもいいの。春人さんと出会ってから色んな事に挑戦するようになったの。不思議なものでね、一度探してみたらその辺に楽しいことは転がってるの。春人さんはそれに気づかせてくれた。それだけでもう十分かなって。もちろん春人さんに求められたら今すぐにこの体を差し出すくらい好きよ。でもわかってしまうのよねー。春人さんは高山さんの方が好きなんだって。そこには私には超えれない壁があるんだって」


 そう言った藤崎凛の目はどこから悲しそうで、それでいて楽しそうだった。

 

「で、高山さんはどうしたいの?」


 そこで藤崎凛は話を戻した。

 私がどうしたいかと……


 でも答えはでてこなかった。


「はぁー。なら私が教えてあげるわ。あなたは春人さんの思いを確かめたいのよ」


 そうかもしれない。

 私は春人の想いを知りたいだけなのかもしれない。

 私の事が好きなのか、そうじゃないのか。


「でもあなたは踏み出せない。それは今の春人さんとの関係が壊れるのを恐れているから。違うかしら?」


 悔しいけど、藤崎凛の言ってることは正しかった。

 自分が逃げるだけ。

 一歩踏み出せば変わるはず。ただ、その方向が今よりもマイナスに行ってしまった時を恐れて動けない。


 自分でもわかっていた。

 それでもどこか今の関係でいいやと自分を抑えこんでいた。


「どうするかはあなた次第ね。もたもたしてたら本当に私が奪っちゃうわよ」


 私次第。

 わかっている。


 それでも私は後一歩を踏み出せる勇気が湧いてくる気はしなかった。


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