18話
期末試験。
多くの学生にとってそれは邪魔なものであり、近づくと憂鬱になるものである。
しかし、期末試験を終えると授業も午前授業になる上に夏休みという一年で一番長い長期休みに突入する。
つまり、期末試験は学生にとって壁なのだ。
体育大会終了後。
気が抜けた生徒達は3週間後に迫るテスト期間など考えもしないのだ。
しかし、現実は甘くない。
時間が経つにつれその時は来るのだ。
***
「今日からテスト週間だから部活動はなしだ。各自帰って勉強するように」
教師から死の宣告を受けた川崎は打ちひしがれていた。
「大丈夫か。川崎」
「テスト……そんなのもあったな……」
「安田さん? だっけか。調子はいいのか」
「あぁ。おかげさまでな。先週の日曜日も遊びに行ってきた」
体育大会以降、川崎といい感じの女の子が安田さん。
勝手なイメージだが、おしとやかな子だと思う。
なんだかんだで二人は上手くやってるらしい。
「で、遊びに夢中になってたら勉強なんてしてなかったと」
「はい、仰る通りです」
「自業自得だな」
「なぁ神崎……」
「なんだ?」
このタイミングで川崎から俺に提案することなんて一つしかない。
「勉強会……やらないか?」
やっぱりな。
今回の俺も勉強に抜かりはない。
すでに今の授業までの内容、そしてテスト範囲は網羅している。
今回も100点だろう。
「わかった」
「よっしゃあああ!」
「ただ、一つ条件がある」
「なんだ?」
「泊りがけの勉強会は金曜日にするとして、それまで毎日付き合ってほしいところがある」
「あぁ、部活もないし構わないが」
「わかった。なら一旦帰って運動できる服をもってあのカラオケ屋の前に集合だ」
「なんかスポーツでもするのか?」
「体は動かすかな」
その後、家に帰り運動できる服を持ち川崎と合流した。
「で、どこにいくんだ?」
「まぁついてきてくれ」
***
「フィットネスジム……?」
そう、俺が川崎を連れてきたのはジムだ。
自宅の器具でずっと筋トレをしてきたがジムの方が器具も多く集中できる。
川崎を連れてきたのはジム仲間がほしかった。
ただそれだけ。
「軽く体をいじめて気持ち良くなれば勉強も捗るさ」
「そ、そういうものなんか?」
半信半疑な川崎を無視してジムへとはいる。
ここは使用する度に料金を払うシステムで一日300円と格安ながら広さも十分、器具も揃っている上に客も意外と少ない穴場なのだ。
受付を済ませた後、更衣室で着替える。
ストレッチスペースでストレッチを終えた後、まずはベンチプレスやってもらおうとベンチコーナーに向かうと予想外の人物がいた。
「藤崎さん!」
「あら、春人さん。と……」
「あ、川崎といいます」
「川崎さんね」
なんと藤崎さんがベンチプレスをしていたのだ。
「藤崎さん筋トレしてるんですか?」
「えぇ。あれから趣味を見つけるために色々してたのだけど、これが一番しっくりきたわ」
藤崎さんのイメージに合わない。
が、俺にとっては全然ウェルカムだ。
「よければ二人とも一緒にやりませんか」
「ぜひ!」
俺より先に返事をしたのは川崎だった。
なぜやる気になったのかはわからないが、やる気がでたのならば問題ない。
その後、2時間ほど筋トレしたところで、終了し2時間ほど近くのお店で勉強することにした。
「よかったら藤崎さんも勉強しませんか」
「そうね。春人さんがいるなら行きましょう」
一年上の先輩だが、だからこそよりよい教え方を学べそうだ。
近くのスタボで勉強を開始した。
案の定藤崎さんは教え方がすごく上手だった。
特に英語に関しては教師よりもわかりやすかった気がする。
川崎も今日だけで結構理解できたと思う。
金曜日までこの生活が続き、勉強会をする頃にはとっくにテスト範囲を網羅できていた。
そして4日間にわたる期末試験が終了し、生徒たちは無事壁をぶち破った。
赤点をとったもの以外だが。
次の週。
中間試験の時と同じく現国が最後に返される。
もちろん今のところ現国以外100点だ。
「神崎さん」
「はい!」
俺は自信に満ち溢れた表情で答案用紙を受け取った。
答案用紙を受け取り、自席に座り点数を確認した。
***
「もーずるい! そんなの勝てないじゃん!」
絵美は例の階段で駄々をこねていた。
なんせ俺は今回もオール100点。
そして絵美は数学だけ98点でそれ以外100点
「詰めが甘いのだよ」
はっはっはとまるでル〇ーシュを彷彿させるような笑いで絵美を煽る。
「次、私がオール100とったら私の勝ちでいい?」
「あぁ、構わないぞ」
これが強者の余裕なのだ。
「で、私をどこに連れまわしてくれるの?」
連れまわされる方なのにも関わらず絵美は笑顔だった。
しかし、そんな笑顔でいれるのも今の内だ。
「今週の土日どっちか空いてる?」
「土曜日なら」
「わかった。じゃあ土曜日また駅前に集合で。大丈夫、絵美には地獄をみてもらうから金は俺が出す。覚悟しておくんだな」
「えぇ……なんか怖いなー」
この土曜日、本当の恐怖を味わうことになるんだ。
覚悟しておくんだな。
***
そして土曜日になり、絵美と朝の9時に駅前で集合した。
事前に電車の切符も買い準備万端だ。
「お待たせー」
俺は前回の反省を生かし30分前に待っていた。
絵美が来たのは俺が来てから10分後。
待ち合わせ予定時刻より20分も早い。
「早いね春人」
「ちょっと早く起きすぎただけだ」
「そういう事にしておこうかなー」
これから地獄を見るというのに絵美はテンションが高かった。
「絵美、これは罰ゲームなんだぞ」
「わかってますー。で、どこにいくの?」
「まぁ、とりあえず電車にのろう」
電車に乗る前に目的地に言って逃げられても困るしな。
そして、電車が到着し俺たちは電車に乗った。
そのタイミングで俺は目的地を言った。
「あぁ、今日の目的地は負死急ハイランドだ」
負死急ハイランド。
日本で最高峰の絶叫マシンを取り揃え、しかもお化け屋敷まで最高に怖いと有名なアトラクションパークだ。
そして俺は前、絵美と話していて絶叫マシンが大の苦手だという事を知っている。
「え……」
俺がそういうと絵美は顔を真っ青にした。
「ワタシ……カエル」
残念だな。もう電車の中だ!
『次はー○○ー』
次の駅に到着すると絵美は真っ先に降りようとしたが俺は絵美の腕を逃がさないようにバッとつかむ。
「逃がさないぞ」
「あぅ……」
なぜか顔が真っ赤になった絵美は少しおとなしくなった。
しかし、いつ抵抗されても困るので、俺はずっと絵美の手を握っていた。
そして、電車に揺られること30分。
駅から見える絶叫マシンの数々に絵美はまた顔を真っ青にしていた。
「イヤだ」
感情のこもっていない声で絵美はつぶやいた。
「言っただろ。これは罰ゲームだ」
俺は今、ここ最近で一番げすい顔をしているだろう。
さぁ絵美。たっぷり悲鳴をあげてもらおうか。
***
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
「いい加減受け入れることだ!」
「なんでそんなもの用意しているの?」
絵美が指を指しているのは俺が持っているファストパスというもの。
今日は土曜日、人が多い事はわかっていた。
しかし、絵美には一つでも多くのアトラクションにのってもらいたい。
そんな時のファストパスだ。
一般入場の人よりも優先的にアトラクションにのることができる。
事前にインターネットで予約ができる為、予約しといたのだ。
「それはせっかくだし、たくさん乗ってもらいじゃん?」
俺は満面の笑みでそう言った。
そして今並んでいるのは超高飛車という乗り物だ。
落下角度が余裕で90度を超える一番怖いと言われてる乗り物だ。
一発目に一番怖いやつに乗れば、大丈夫だろう。
「ひどい……ひどすぎるよ……」
残念ながらもうすぐ順番だ!
そしてとうとう俺たちの番がきた。
「私生まれ変わったら鳥になるんだ……」
絵美の精神は発車する前から壊れていた。
しかし、無情にもジェットコースタは発進した。
暗闇の中を徐々にスピードを上げ急降下して何回も回転する。
「どうだー絵美ー! 楽しいかー」
ものすごいスピードで走る中、絵美の表情は固まっていた。
あー限界こえちゃったか……
しかし、このジェットコースターここからが本番なのだ。
少しの休憩時間を挟み、徐々に昇る。
頂上までいくとパーク内を一望できるいい景色が見えるのも束の間、落下角度120度を超える急降下が待っているのだ。
そして、とうとうその時がきた。
徐々にのぼり一緒に乗っている他のお客さんも小さな悲鳴をあげている。
「イヤ……イヤ……イヤ……」
どうやら絵美は最悪のタイミングで魂を取り戻したらしい。
頂上まで上り詰めたジェットコースターは少し止まった。
2秒後、ものすごい勢いで急降下する。
心臓が口からでてくるんじゃないというくらいの浮遊感。
「イヤああああああああああああ」
本日初の絵美の悲鳴をいただいた。
この声が聴けただけで今日は成功だ。
2分半ほどの地獄を味わい無事生還した。
「楽しかったな絵美!」
「私……生きてる?」
あぁ生きてるぞ。
心配しなくていい。
その後もありとあらゆるアクラクションを乗った俺たちはいつのまにか絶叫マシン耐性がついていた。
「なんか最後の方は楽しかったかも」
時刻はもうすぐ17時を過ぎようとしていた。
「そうだな」
来週の終業式を終えると夏休みだ。
今からワクワクが止まらない。
「ねぇ春人」
「ん?」
パークの退場口を出て駅に向かいながら絵美はぽつりとつぶやいた。
「なんだかんだ今日は楽しかったよ」
「そうか。なら罰ゲーム失敗だな」
まぁでも、喜んでもらえたならよかったかな、なんて。
「夏休みの海も楽しみにしてるね」
「あぁ。俺も楽しみだ」
ビッグイベント海。
これの為に生きてきたと言って過言じゃない。
そして次週。
終業式が終わり、とうとう夏休みがやってきた。
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