プロローグ
逢魔時--現在で言うところの午後6時頃であり、昼と夜が移り変わる時刻。読んで字の如く妖怪やら幽霊やら取り敢えず怪しいものに出逢いそうな時間ということらしい。
なんとも禍々しい名前がついたものだが案外馬鹿にしたものでもない、実際自分が何かに巻き込まれるのはこの逢魔時だったような…
だがこの時間に出逢うのはそういったものだけとは限らない、ある人曰く『運命とはそこら辺に転がっているもの、いつそれを拾うかは時の運』ということ。
居残りをくらった放課後、不意に聞こえた歌声に耳を澄ましてしまったことにより、どうやら俺はその運命を拾ってしまったらしい。それは幸運だったのか不運だったのかはこの時の俺は深く考えていなかった。
只々聞こえて来るその歌声に屋上という舞台に誘われた。
ーーいやその声の主は誘う気などなかったのだろう、だとしてもその歌声にはそれほどの魅力があったのだと思う。
錆びついたドアが軋む音を立てて開かれると一人の少女がそこにはいた。ヘッドホンをつけーー何を聞いているのかはわからないがおそらく今口ずさんでいる歌なのだと予測ができる、彼女はこちらには気付いていない様子だった。
彼女が歌い終わると俺は自然と声が漏れた。
この時声を掛けてしまったのは彼女の歌に対する感動と驚き、そして好奇心に負けた自分がいたからだ。
だがこの時声を掛けたのは間違いだったのかもしれない。
何故なら。
「私の歌が聞こえるの?」
彼女はそう言った。
あたかも聞こえていないのが当たり前で、聞こえているのが異常な様な、そんな言い方をしたのである。