case.1
「ん?お~い」
前方から人影が手を降りながら近付く。
「む」
「むー?」
リージュが布津の真似をして眉間に皺を寄せる。
果たして、前方からの人物は皇であった。
「皇か」
布津は速度を落とすとゆっくりと近付く。
「よお、今日は休みじゃなかった…その子どうしたんだ?」
「あぁ、まいg…」
「まさか隠し子か!?」
布津が言い終わる前に皇が詰め寄る。
「お前は何を言っているんだ」
真顔で布津が返す。
「なんだ」
つまらなそうに皇が唇を尖らせる。
「まいごでもないでち」
次いで、布津の背中でリージュが抗議の声を上げる。
律儀に皇の真似をして唇を尖らせた。
「お前らな…」
ひきつった顔の布津を尻目に、二人が会話を始める。
「キミかわぅぃぃね~!いくつだい?」
「ちゃらおにこたえるとしじゃありまちぇん」
「つれなぁーい!」
何処のチャラ男とナンパされてる女子か、と内心思いつつ布津が口を開く。
「皇、裏葉はアジトに来ていたか?」
「ん?あぁ、何か買い出しに行くとは言ってたけど、じきに戻るんじゃないかな?」
「そうか」
「確かピータン在庫切れしてたーとか言ってたぞ」
またも布津の顔がひきつる。
「ピータン…帰らなくていいか?」
「何でだ?」
「いや…アレ苦手でな…」
若干青ざめながら布津が返す。
「いや、俺に聞くなよ…つかその子、どうするんだ?警察にでも連れてくのか?」
「む、いや…」
「まさか誘拐でもし…」
バキッッッ!!
「なんで何も言わずに殴るん!?」
女の子座りしながら皇が頬をさする。
「お前が人聞きの悪い事を言うからだ」
青筋を立てて布津が怒りの籠った眼で皇を睨む。
背中ではキャッキャッとリージュが手を叩く。
「ごめん…」
目に涙を浮かべながら皇は謝罪を口にすると、やおら立ち上がる。
「んじゃあ、アジトに連れてくのか」
「訳アリだ。やむを得ん」
皇は頷くと、携帯を取り出す。
「分かった。裏葉ちゃんには早く戻るよう伝えておく。気を付けてな」
ニッ、と笑うと携帯を発信する。
「頼んだ」
短く答えると、布津は歩き出す。
「あれはおなかまさん?」
背中のリージュが問う。
「…あぁ。必要な仲間だ」
「そう…」
リージュはそう言うと目を伏せた。