布津
「その子供をどうするつもりだ」
もう既に味わい慣れた耳鳴りを無視しながら布津は男に問う。
「うるせぇっ!このガキが刺されたくなかったらとっととどっかへ行きやがれっ!」
男はナイフの刃を幼女の首筋へと当てる。
「止せ」
「早く消えやがれ!こっちは気が長くねぇんだよ!」
男が怒鳴る。
(仕方あるまい…能力を使う…ん?)
布津が違和感に眉を潜める。
…違和感の正体。幼女。
何故ここに居た、などという簡単なことではない。
(ФωФ)
そう、幼女はこんな顔をしていた。
まるでこれから楽しいことが起こるのを期待しているかのような、爛々とした目。
澄ましたような口元。
明らかに普通の反応とは違っていた。
(なんだ、この子供は)
異様な光景に、顔が引き吊る。
「聞こえてんのか!!」
そこへ聞こえてきた男の怒声で、我に帰る。
「…分かった、子供は解放しろ」
クルリと男に背を向け、声を投げ掛ける。
(3…2…1)
内心カウントする。
「おう、そのまま大通りまで向かえ」
男が吐き捨てるように呟く。
(…0)
不意に、布津の姿が掻き消えた。
「!?なん…」
ゴッッッッ!!
後頭部に衝撃。視界が暗転する。
「きゃっ」
崩れ落ちる男に驚き、力の緩んだ腕から幼女が慌てて逃げ出す。