第九部
目の前でお茶を啜る西洋風美少女がどうやら「メリーさん」らしい。只首にかけている時代遅れな赤い携帯電話が少しアンバランスさを感じさせる。
「メリーさん」というと充血した白目、ぼさぼさな髪の毛をしているような印象を抱いていたが目の前の少女の瞳は澄み切った蒼だし、腰まで伸びる金髪はストレートで輝いていてまるでお姫様だ。
ちゃぶ台に正座をしながら行儀よく茶碗を置いた「メリーさん」はこちらを見つめて来た。
「それで、なんでメリーさんが俺ん家なんかに? 呪われるような事した覚えは一個もないんだが」
「えぇと、ちょっと深い理由があって……」
電話ではノイズがかっていて不気味さを感じさせていた声も、こうして実際に聞けば途轍もなく可愛いとしか思えない。
「おにーさんに呪いはかけてないんだけど、繋がったのがおにーさんだったのーー
「メリーさん」が言うには、【怪談】とは「怪異の談」とは別に、「廻り続ける談」と言う意味があるらしい。
怪談とはその話が創られた場合、この世の何処かでその出来事が必ず起きる。要するに実在し始める、とということだ。そして肝心なのが一度では終わらず繰り返され続けるという点。
「メリーさんの電話」も例外ではないらしくこの目の前の「メリーさん」は既に十何代目だという。
一度談が完結すると、また何処かで始まる。廻って廻って広がり続ける、それが【廻談】。
ではこの「メリーさん」は何故俺のところに来たのか。
ーー今回の€¢ちゃんは、たまたま階段から転げ落ちちゃって話が終わらなかったの
本来ならば終わる筈だった談も、登場人物にイレギュラーが起きてしまっては終わらせようがない。「メリーさん」は泣く泣く少女の家を去りさ迷っていたと言う。
「それで同じ人間に頼めばいいかなって思って……」
「人間なのはいいが、俺な理由は?」
「うーん、私も別に選んだわけじゃないんだけど、多分おにーさんの霊感?みたいのが強かったんじゃないかな。こうして視えてるのもおにーさんが初めてだし」
「成る程……。もう一ついいか?」
俺の言葉に「メリーさん」はこてんと頭を傾けた。