第三部
日が沈み、レースのカーテンがついた窓からは橙色の光が差し込んでいた。
既に夕暮れ。時刻にすれば四、五時といったところだろう。少女の、少女らしく飾られた部屋の中でその部屋の持ち主は今透明な割と大きめの箱の中身を漁っていた。
「んー、やっぱり無いかぁ……。メリーさんには随分一緒に遊んで貰ったんだけどな……」
少女が今探しているのは、小学校に入るか前からその数年後くらいまでお気に入りだった小さな人形である。
母親に買って貰った人形に少女が付けた名は、メリーさん。
ストレートな金の髪の上にフェズと呼ばれる黒い帽子を乗せ、茶色っぽいセーターを萌え袖にして着こなすその人形は少女を大いに魅了した。
くりくりの蒼眼も、雪のように白い顔も。膝下まであるお洒落なブーツも、首からかけた赤い携帯電話も。
メリーさん、メリーさん。
少女はいつもそう言いながらおままごとやらお着替えごっこやらを楽しんでいた。その様子は微笑ましいもので、両親も愛らしい我が子の姿にその人形を買い与えたことに満足する。
出掛ける時でも肌身離さず持ち歩くようになり、寝るときも一緒。そんなメリーさんはーー
いつしか消えていた。
たまたま風邪で寝込んでいた少女にメリーさんが消えたことは気付けず、両親は別の玩具を慌てて買い与え……。
かくして【メリーさん】という存在は少女の中で色褪せていったのだ。
一部一部が短めですがお許しを