第十五部
「私が女の子の家に行く理由はね……。……お、おにーさん」
なぜかきょろきょろと部屋を見渡す「メリーさん」は、顔を赤くしてちょいちょいと俺にハンドサインを出してきた。
「恥ずかしいから……」
……誰もいないだろうに、なんてツッコんだ奴は非リア確定だな。
そう大きくないちゃぶ台のため、俺は身を乗り出して耳を「メリーさん」へ寄せる。
「その、えっと……、……また遊びたいから、だよ」
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元々メリーさんが「少女」のところから消えた理由、それは失くした、でも捨てた、でもない。
ある休日両親と共に出掛けた「少女」は疲れのためか次の日に風邪をひいてしまったのである。そう重くはなく一日安静にしていればすぐに良くなるくらいの風邪。
泣く泣く学校を休んで寝込んでいた「少女」の家に、その日の夕方友人がお見舞いに来た。とはいっても小学校低学年のお見舞いなど精々プリントを渡すくらいであり、その友人も五分ほどで「少女」の部屋を退出する。
しかし友人が玄関を出ようとしたところ玄関に放置されていたメリーさんに目を止めてしまう。
「少女」はその前日、帰りの電車内で寝てしまったため父親におぶさって帰って来た。その時もメリーさんから手を離すことはなかったが、家に着いた後に父親がメリーさんを「少女」の手から取りそのまま置きっ放しにしてしまったのだ。
友人も善悪を判断できる年ではない。己の欲望に囁かれるままメリーさんを持ち帰って自分の物にしてしまった。
それから数年後友人はあっさりメリーさんを捨ててしまったわけで、「メリーさん」は「少女」の所へ戻ろうとしたのである。