第十四部
一体どれくらいの時間が経過しただろうか。数秒だったのかもしれないし、数分だったかもしれない。右斜め前の「メリーさん」は祈るように目を閉じており、まるで聖母のようである。
唐突に、人形を持つ手に動きがあった。勿論「メリーさん」の合図である筈。「メリーさん」の口は一切動いていなかったため、電話は思念のようなものでしているのかもしれない。
「ふううぅぅぅぅ」
俺はゆっくり息を吐き、扉をスライドさせる。
狭い病室の中ベッドで上体を起こしたままの「少女」と視線が交錯した瞬間、
「……ぇ?」
という呆けた声が聞こえた。
そのまま暫く見つめ合っていると、「少女」の視線が自然と俺の身体に移り、手に移る。
「あっ!!!」
俺が持つ人形を見た瞬間、「少女」から驚声が上がった。
「お、おじさんそれどこで……!」
(っ!?!? お、おじさんだと!? 失礼な、俺はまだ二十歳だぞーー)
「んっんー! まず俺はおじさんじゃない。そして、この人形は御察しの通りメリーさんだ」
年下の女子に怒るほど俺の精神年齢は低くない。咳払いをし、順々に説明していく。
「あ、ごめんなさい……」
「どこで、と聞かれたがそれはまあ本人から聞いてくれ」
「ほ、本人って……」
言葉を遮るように人形を「少女」に渡す。軽いそれを「少女」は重いもののように受け取った。
「じゃあ俺はこれでさようならだ」
「えっ? ちょっ……」
慌てたように引き止めてくる「少女」を無視しながら踵を返して扉を開く。すると、扉の前にいた「メリーさん」と目が合う。
「これでいいか……?」
小声で話しかけた俺に笑顔で頷いた「メリーさん」はその口を「待ってて」という風に動かした。俺は後ろでしまった扉に背を預け、目を閉じる。
ーープルルルル、プルルルル
とても小さな音だが病室の中から着信音が聞こえだしたが分かった。