第十二部
唐突に暗闇から戻って来た。少女はそんな感覚を朧げに感じる。それからは段々、段々と意識が鮮明になりーー
少女の目が開く。
(んん、ここどこだろう……?)
見慣れぬ天井、見慣れぬ布団、見慣れぬ部屋。
見慣れぬ窓、見慣れぬ景色、見慣れた愛機。
「そうだ、私階段から落ちて……!」
バッと身を起こした少女は不安そうに辺りを見回す。とはいっても狭い個室であり、目に入るのは扉と布団と窓だけであった。
「助かった、の?」
◆
「えーっと四階の一〇三室か」
俺は患者の入院情報を見ながら「少女」の個室を探す。それを確認して備え付けのエレベーターに乗った後、「メリーさん」に話しかけた。
「メリーはどんな風に会うつもりなんだ?」
「メリーさん」は俺の問いに少し考え込んでから口を開く。
「やっぱり電話、かな。そもそも普通の人とは電話じゃないと話せないから」
「……そうだったな」
「部屋の前で電話をかけるから、おにーさんは私の合図で部屋に入ってくれる?」
ああ、と返すと、エレベーター内には沈黙が訪れた。
チン! という音が静寂を切り裂く。どうやら四階についたようだ。
「一〇三室は……あの一番奥だな」
「メリーさん」は頷いてとことこと足を進め始めた。俺も彼女に追従して歩く。たまたますれ違った看護師さんから奇妙なものでも見るような視線を感じたが、気にせず人形を握りしめる。
その内「少女」が入院している筈の病室の前へ着いた。扉には £* €¢ のプレートが飾られている。恐らく「少女」の名なのだろう。
「「少女」は起きたのか?」
「うん。ついさっき意識を戻してあげたらもう目が覚めてると思う。じゃあ人形が動いたら入って来てね」
振り返らず俺にそう言った「メリーさん」は、首にかけた赤色のガラケーを大切そうに開き耳に当てた。