第十部
場面は変わり男とメリーさんが出会って二日後、とある病院の病室。
その病室は個室で、今四人がその部屋にいた。
頭を包帯でぐるぐる巻きにされながらベッドに横たわる少女、その様子を不安そうに見守る二人の若い男女、そして白衣を着た医者。
「怪我自体重くないですし、恐らく障害が起こることもないと思われますのでいつ目覚めてもおかしくない容体です」
医者が立派な髭を撫でながら少女の両親へと伝える。その仕草には非常に貫禄があり、思わず頷いてしまいそうな覇気を漂わせていた。
「そうですか……。私達の家は幅が広い階段で、手摺も付けてあるのにまさか転落するなんて思いませんでしたよ」
ハハハ、と苦笑いをしながら医者に答えたのは父親。しかし笑ってはいるがその表情に安堵の色を見つけ出すのは非常に容易なことだった。
「何かあったのかしらねぇ……。部屋も荒れてたし」
「……この子も案外間抜けなところがあるからな。単に足を滑らせただけだろう」
心配する母親、事故だと決めつける父親に医者は遠慮がちに話しかける。
「お二人は今夜どうされますか? 泊まっていかれるなら毛布などを出しますので」
「わざわざお気遣いありがとうございます、先生。でも今日のところは旅行の後片付けなどをしたいので一度家に帰りたいと思います」
やんわりと断った父親に医者は「分かりました」とだけ言って病室を出て行った。
「さて。まあこの子の顔色は悪くはないし俺たちも早く家に戻ろうか。大分日も落ちてきたから、な」
「そうね……。でももうちょっとだけ……」
母親は愛しい我が子を撫でながら目を細めるーー
五分後、部屋にはベッドに横たわる少女一人だけが取り残された。