BAR「ポーション」
横浜市野毛。
JR桜木町駅の改札を出たら、デートスポットとして名高い「みなとみらい」に背を向け、西口へ向かう。
その先には、無機質で洗練された東側とは対照的に、情緒と危うさに満ちた古き良き横浜が広がっている。
高級マンションと場外馬券場が向かい合い、赤ちょうちんの居酒屋とオシャレなブティックが並び合う。
そんな雑多な街の路地裏にたたずむ雑居ビルの3階に小さなBARがある。
古いエレベーターの扉が開いた先には、木製の重厚な扉。
その扉を開けると、カウンターの奥から1人の若い男が出迎えてくれる。
スラリとした長身に人懐っこい柔和な笑み。
通称ジェイク。
言葉使いはいつも丁寧で、立ち振る舞いも上品。
その穏やかさから想像に難くなく、彼は元神官なのだ。
ただの神官ではない。
この世界とは異なる世界、剣と魔法が支配する世界の神官だった。
聞く人が聞けば驚くだろう。
彼は、あの100年戦争を終結させた勇者パーティーの一員なのだ。
最後の魔王戦で戦死した後、気付けば、この世界のバーテンダーに転生していたという。
そんな元英雄が酒を振る舞う店には、必然的というべきか、同じ世界からの転生者が客として集う。
転生者たちは今宵も美酒に酔いながら、思い出話に花を咲かせる。
それは、懐かしき剣と魔法の世界の物語。
店に足を踏み入れた客には、ジェイクの朗らかな声が降りそそぐ。
「ようこそ、BARポーションへ」
◇
カウンターに6席と2人がけのテーブル2つというこぢんまりとした薄暗い店内。
BARポーションに一歩踏み入れてたマリルは、他に客がいないことを確認してから、いつもと同じようにカウンターの一番奥の席を目指した。
「今日は疲れたわ」
マリルはため息交じりに言いながら、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
長い黒髪が顔にかかるが、マリルはそれをはね除けようともせずに、うなだれている。
「日曜日なのにお仕事だったのですか?」
マリルの前に手際よくおしぼりを置きながら店の主でバーテンダーのジェイクが、その疲れ具合を見て心配げに聞いた。
これまで、マリルがこの店にやってくるのは、客が少ない日曜日の深夜と決まっていた。
今宵もいつも通りの曜日だが、来店する時間は5時間も早い。
それに、その服装もいつもと異なっていた。
いつもはTシャツに細身のジーンズといったカジュアルな格好で来店するのだが、今日に限っては黒いパンツスーツを着ている。
「せっかくの休日だっていうのに、モンスターペアレントにつかまっちゃたのよ」
マリルはようやく顔を上げると、うざったそうに髪の毛を払いのけた。
目元が涼しげな端正な顔が現れた。
「まったく、文句があるなら平日の放課後に来いっていうのよ。なんで保護者の事情に合わせて、私が貴重な日曜日を潰さなきゃいけないのよ」
マリルは剣と魔法の世界からの転生者だ。
ジェイクと同じように髪の毛と瞳が黒くなった以外は元の容姿のままこの世界にやって来た。
マリルはこの世界では、早乙女麻希という名前の女性25歳として近くの小学校で教師の仕事に就いている。
「3時間よ、3時間」
マリルはまたため息をついた。
「音楽会の日程を変えろ、っていう無理な要求を聞いて、無理だって納得させるまでにかかった時間」
マリルが疲れ切ったように首を回してから、あきれたように口を開いた。
ジェイクはそんなマリルに向かってほほ笑むと、いたわるように話しかけた。
「それは、大変でしたね」
「そうなのよ。しかも、日程を変えろっていう理由が、保護者が仕事で休めない日で鑑賞できないから、なのよ! こんな自己中心的な考え、信じられる?」
「愛する子どもの晴れ舞台を見たい、という親心は決して悪いものではありませんよ」
「だからって、日程を変えられるわけがないじゃない。他の人の迷惑も考えなさいってことよ。非常識だわ」
「その人は今日、自分の気持ちをしっかりと聞いてもらって心が落ち着いたはずです。保護者の方は納得して帰られたのでしょう」
「……まあね」
「それは良かった。教師として良い仕事をなさいましたね」
嬉しそうにほほ笑むジェイクに向かって、マリルは別の意味でため息をついた。
相手の悪いところではなく、良い面を見いだしていくとは、いかにも元神官らしいと思ったからだ。
マリルとしては、積もり積もった今日の不平不満を聞いてもらえるだけで良かったのだが……。
まあ、最後に褒めてくれて気分が良くなったので、許してあげようとマリルは思う。
今日の苦労が認められたことで、心に溜まったガスが一気に抜けたような気がする。
そして、こうして心が軽くなると、刺激を求める喉の感覚が自然と高まってくる。
「ジェイク。いつものオレンジのやつちょうだい」
「かしこまりました」
ジェイクはマリルに会釈をすると、背を向けてカクテルを作る準備を始めた。
その背筋が伸びた後ろ姿を見ながらマリルは思う。
――姿勢の良さは転生しても変わらないな。
マリルは、まだ幼かったジェイクの後ろ姿を思い出す。
マリルとジェイクは、元の世界では幼なじみだった。
領主様の館から馬で3日もかかる山奥の小さな村が2人の故郷。
ジェイクは12歳のとき、神官としての素地を認められ、村を出て遠くの街の神学校に入った。
そして、マリルも15歳のときに神の啓示を受け、村を離れることになる。
あの日、新月の晩、何かの声に導かれて庭に出たマリルを迎えに来たのは、闇夜にうごめく無数の魔物だった……。
「お待たせしました。カクテル『オリンピック』です」
ジェイクの穏やかな声にマリルの思考は一気に現在に引き戻された。
カウンターに置かれたカクテルグラスは、オレンジ色の液体で満たされている。
甘い柑橘系の匂いが鼻を突く。
小さなグラスを手に取り、傾けると、口の中にオレンジジュースの甘みとオレンジリキュールのほろ苦さが同時に溢れた。
そんなオレンジの味の後からブランデーのコクが追いかけてくる。
カクテル「オリンピック」
マリルはこの店では、最初にこのカクテルを飲むと決めていた。
オレンジの味が強いので飲みやすい一方で、ブランデーによってしっかりとお酒の刺激も味わえることが気に入っている。
ジェイクとこの世界で再会した最初の夜、一番最初にジェイクがお勧めしてくれたのがこのカクテルだった。
マリルがお酒の味を覚えたのはこの世界に転生してからだが、元の世界にはこんなにおいしい飲み物は絶対になかったと断言できる。
「はあ、生き返るわ。仕事の嫌なこともこの一杯があれば忘れられるわね」
「それは、良かったです」
いつの間にか店の入口にいたジェイクが少し大きめに声を上げた。
「ねえ、ジェイク。今晩は私の話し相手になってよ」
マリルはわざとらしく大きくジェイクを手招きした。
「他のお客が来るまででいいからさ」
「今晩はもうお客さんは来ませんよ」
マリルがBARポーションに訪れることが多い日曜日深夜は、他の曜日や時間帯に比べると客が少ない。
ジェイクはその理由をマリルに聞いたことはないが、他の客との交流を避けていることは明らかだった。
元の世界でのマリルの身分、立場を思えば仕方のないことだとジェイクは思う。
しかし、客足が遠のく深夜までにはまだ時間がある。
だから、今晩はマリルがゆっくりと飲めるようにと、ジェイクは先ほど店の扉に「reserved」の札をぶら下げたのだ。
「そんなことして売り上げ的に大丈夫なの?」
「旧友のために店を使うのです。神様も文句は言いますまい」
他の客には申し訳ないが、今宵ばかりは許してもらおうとジェイクは思う。
なにせ、今夜はジェイクにとって特別な夜なのだ。
「じゃあ今日は丁寧語は禁止ね。お客と店主じゃなくて、幼なじみ同士で飲みましょう」
「私の話し方は神学校入学前からこんな感じです。それはマリルが一番知っているでしょう」
ジェイクはカウンターの奥に戻ると、マリルの前に5種のチーズとナッツが入った小皿を置いた。
マリルは小皿からアーモンドをつまみ上げると、口に放り込んだ。
「そうね、あなたは本当に変わらないわ。羨ましいぐらいにね。ねえ、ジェイク。今晩はちょっと昔話をしましょうよ」
「どのような昔話ですか」
「懐かしき我らが剣と魔法の世界について」
「それは珍しいですね」
ジェイクは本気でそう答えた。
マリルはこの店で話す話題といえば、職場の愚痴以外では、担任をしているクラスの児童たちがどんなにかわいらしいかについての自慢話ばかりだったからだ。
BAR「ポーション」の常連には、剣と魔法の世界からの転生者が多い。
彼らはジェイクが同類だと知ると、せきを切ったように元の世界の思い出を語りたがるものだが、マリルは違った。
ジェイクとマリルが元の世界について話したことは一度しかない。
それは、この店で再会した初めての夜だけの出来事だった。
「知ってた? 今晩は新月なのよ」
オリンピックをもう一飲みしたマリルが天井を仰いだ。
そこには打ちっ放しのコンクリートの天井と、飾りについた木製の梁があるのみだ。
しかし、マリルが見上げるそこには、まるで新月特有の深い闇夜が広がっているかのようにジェイクには思えた。
「今でも時々ね、あの新月の晩に外に出なかったら私はどうなっていたのかなって思うの」
「啓示を受けた夜のことですか?」
「そう。あの晩。邪神からの啓示を受けた夜よ」
マリルは残りのオリンピックを一気に飲み干すと、名残惜しそうにカクテルグラスのふちを指でなぞった。
「あの晩、魔物たちのささやきに気付かずにベッドに寝たままでいれば、翌朝はいつものようにママにたたき起こされて、パパと弟たちと一緒に羊の放牧に出かけていたんじゃないかって。そんな、いつも通りの生活がずっと続いていたんじゃないかって」
「神の啓示から逃れられる術を人は持ちません。たとえそれが邪神の啓示だとしても」
「そうね。逃れられない運命だったと思っているわ。でもね、時々考えてしまうのよ。1人の田舎娘としての人生はどんなだったろうかって。魔王ではなく」
マリルは元の世界では魔王だった。
15歳になったマリルは、その新月の夜に邪神からの啓示を受け、魔王として目覚めた。
そして、あまねく魔物たちの王として君臨したのだ。
新たな王を得た魔物たちはその力を増幅させ、各地で大攻勢に出た。
90年間も続き、ようやく人間の勝利で終わろうとしていた対魔物との戦争は、魔王として覚醒したマリルの出現で再び混迷を極めた。
マリルは、人間にとって忌むべき呪われた存在になったのだ。
「この世界で再会したときに言ったと思いますが、あなたに罪はありません。罪があるとすれば、あなたを救えなかった私たちにあります」
ジェイクはあくまでも優しくそう言うと、冷蔵庫から再びオレンジジュースを取り出した。
そして、シェーカーにオレンジリキュールとブランデーと一緒にそそぎ、2杯目のオリンピックを作り始めた。
マリルと再会したあの晩、マリルは始めて飲んだカクテルの味に驚き、感動し、朝までずっとオリンピックを注文し続けた。
ジェイクはあの晩を思い出しながらシェイカーを振る。
なによりも、ジェイクはこの記念すべき夜を、このカクテルでマリルを出迎えると決めていたのだ。
「罪はないか……ジェイクは優しいわね。でも、あの人も、勇者ロイもそう思ってくれていたのかしら」
マリルは背筋を伸ばしてシェイカーを振るジェイクを見つめながら、元の世界ではいつものその隣にいた細身でわんぱくなもう1人の幼なじみの男の子の姿を思い出していた。
「ロイは元気に暮らしているのかな……」
「元気でないロイを想像できますか?」
「できない」
久しぶりにロイの笑顔を思い出したマリルは、その思い出につられるかのように口の端を上げた。
ほほ笑むマリルの前にある木製のコースターに、ジェイクは再びカクテルグラスを置いた。
マリルは2杯目のオリンピックを、今度は少しだけ口に含む。
2杯目は少しブランデーのコクが強く感じられた。
でも、そのアルコールの刺激が今は心地良い。
ジェイクはマリルが一息ついたのを見て、ゆっくりと話し出した。
「ロイはあなたを打ち倒すべき敵だとは最後まで思っていませんでした。ロイが私を神学校から連れ出して冒険に出た目的は、あなたを魔王という宿命から救い出すためだったのですから」
「魔王城の玉座の間で、その話は聞いたわ……でも……」
「そうですね。でも、結局はロイの願いは叶わなかった。ロイは勇者として、そしてマリルは魔王としての宿命から逃れる術を持たなかった。と言いますか、10年ぶりに再会した途端に口喧嘩が始まって、あれよあれよという間に強力魔法が飛び交う喧嘩に発展したのには、さすがに驚きましたが」
「……あのときは巻き添えにして悪かったって思ってるわ」
マリルは申し訳なさそうに上目遣いでジェイクの様子をうかがってから、ペコリと頭を下げた。
ロイとの大喧嘩の最中、マリルが放った黒い雷の呪文が2人の間に入っていさめていたジェイクに直撃したのだ。
それが原因でジェイクは帰らぬ人となった。
「その謝罪は前にも受けましたよ。いいんですよ。死んだおかげで、私はこうして転生し、多くの人に癒やしを提供できる念願の職に就けたのですから」
「私も転生できて良かったって思ってる。元の世界では文字も読めなかった田舎娘が教師に転生するとは驚いたけれど、子どもたちと過ごす毎日はとても素敵だわ」
ジェイクはマリルの自然な笑顔を見て幸せな気持ちになる。
故郷の村に居たときから、マリルは小さな子どもが好きで、よく弟たちや近所の子どもたちの世話を焼いていたのを思い出したのだ。
ジェイクの知る限りでは、剣と魔法の世界からの転生者の多くは、元の世界では叶えられなかった思いを果たせる職をこの世界で得ている例が多い。
「信じてもらえないかもしれないけれど、ロイの剣が私の胸に現れた邪神を貫いたとき、私はとても幸せだったのよ。ああ、これでようやく魔王としての宿命が終わるって」
「信じますよ。マリルを解放したのがロイで本当によかったです。たとえ、それがあなたの命を奪う結果になったとしても」
「そうね。私もそう思うわ」
マリルはにこりとほほ笑むと、再びオリンピックに口をつけた。
マリルにとってロイは初恋の人だった。
魔王となってからもその想いが消えることはなかった。
そして、今でも……。
マリルは自分の恋心が久しぶりにときめきだしたのを感じた。
もちろん、もう叶わぬ恋だということはわかっている。
マリルは勇者ロイに敗れ、こうして異世界に転生してしまったのだから。
それでも、ときには叶わぬ恋心をこうして思い出すのも悪くないとマリルは思う。
そう思えるのは、ジェイクの人柄とともに、この素敵なカクテルのおかげのような気がした。
「そう言えば、ずっと気になっていたんです」
ジェイクがマリルの少し赤くなった頬を見て言った。
「魔王マリルを倒した後、勇者ロイはどうなったのでしょうか」
「うん?」
「故郷でまた牧人に戻ったのか、それとも……マリルは気になりませんか?」
「それは……」
気になるどころではなかった。
でも、マリルは知りたくはなかった。
人間の仇敵である魔王を打ち倒した英雄が、故郷に戻って牧人になるなどあり得ないからだ。
ロイは英雄として諸国を凱旋し、どこぞの姫君と結婚して一国の主にでもなったに違いない。
子どもの頃からずっと好きだった人が、自分ではない別の人と結婚して幸せに暮らした結末などマリルは知りたくはなかった。
「別に気にならないわ。ロイならどこでも元気に暮らしたはずですもの。それでいいじゃない」
マリルはグラスに残ったオリンピックを一口で飲み干すと、「次はもう少しアルコールが強いカクテルをちょうだい」とジェイクに注文した。
ジェイクは黙ってうなずくと、三杯目のカクテルを作るためにマリルの前を離れた。
――やっぱり、ロイのことになると素直でいるのが難しい。
マリルは転生してもそんな自分が変わらないことに、少し嫌気が差した。
転生前にロイと魔王城で対峙したときも、そうだった。
玉座の間にたどり着いた勇者パーティーの先頭にロイの姿を見つけたとき、本当はマリルはロイの元に駆け寄ってその胸に跳び込みたかった。
しかし、自分の為に命を懸けて勇者と戦う部下たちの手前、そして魔王の宿命を背負う者としてそんな青臭い感情はすぐに捨て去った。
それが魔王として、いいや、責任ある立場の大人として当然の行為だと思ったからだ。
しかし、ロイは違った。
10年ぶりの再会だというのに、つい昨日にお別れしたときのように、子どもの頃と同じ笑顔でこう言ってのけたのだ。
『こんな所で何やってんだ、バカ。村に帰るぞ』
ロイの緊張感の欠片もないひと言に、大人として魔王として必死に頑張ってきたマリルは怒りを覚え、つい子どものころのように感情にまかせて反論してしまった。
『魔王になっちゃたんだから、帰れるわけないでしょ! バーカ!!』
そこからは、勇者パーティーも魔王軍の部下たちもドン引きの口喧嘩に発展し、ついにはお互いに魔法を打ち合うまでになってしまった。
――もっと素直でいられれば。結果は違ったのかな。
マリルは今日になって何度目かのため息をついた。
もっと自分の気持ちを素直に口にできれば、あのとき、恥も外聞も捨て、見違えるようにたくましくなったロイの胸に跳び込んでいれば、好きな人と結ばれて幸せな物語の結末を迎えられたかもしれない……。
――次に会ったら、いっそ素直に言ってやろうかしら。好きだって。
マリルがそんなありもしない妄想にふけっていると、ジェイクが新しいカクテルを差し出してきた。
小さなカクテルグラス。
その中には見慣れた淡いオレンジのお酒。
「またオリンピックなの?」
「ええ、今晩は特別な日ですから」
「特別な日?」
「そうです。だから、今晩は絶対にオリンピックです」
マリルは小首をひねった。
ジェイクの話している意味がまったくわからなかった。
ジェイクはマリルに向かって淡々と語りかける。
「それぞれカクテルには、そのカクテルが表す言葉があるんです」
マリルは花言葉の存在は知っていたが、カクテルにも似たようなものがあると初めて知った。
「オリンピックのカクテル言葉って何?」
「待ち焦がれた再会、です」
マリルはその言葉に合点がいった。
だから、ジェイクとこの店で再会したとき、ジェイクはこのカクテルを勧めたのだ。
でも、とマリルは再び首をひねる。
「私とジェイクはもう再会を果たしているじゃない」
「この一杯は、マリルとある転生者のための一杯です」
ジェイクがいつものような柔和な笑みを浮かべた。
そのとき、BAR「ポーション」の扉がゆっくりと開いた。
マリルは開かれた扉を見つめ、驚きのあまり声を失った。
扉を開いた長身のたくましい男は、マリルを見つけると少年のような笑顔を浮かべてこう言った。
「こんな所で何やってんだ、バカ」
その途端、マリルは弾けるように立ち上がり、扉を開けた男の胸に思いっ切り跳び込んだ。
ジェイクは、しっかりと抱き合う幼なじみ2人の姿を幸せな気持ちで見つめながら、新しいカクテルを作り始めた。
今度は自分の分と、そして、ロイの分のオリンピックを。
ここはBAR「ポーション」。
剣と魔法の世界からの転生者が集う店。