白薔薇公深き尊敬の主衣通姫(グラミス公レヴァレンシアそどおりひめ)と月光(ムーン・ライト)アレサス
「あなたが門番をしていたということは待っていてくれたということで良いのかしら?」とナギ。
「もちろんです。魔法使いの弟子ナギ。放浪の魔法使いと離れて隠居していたあなたの住む森が突然天下焔壁に包まれたのです。親魔法使い派の我々は非常に困惑しておりました。ご無事で何よりです。それで本題に移る前に、そちらの従者の方は?」
「この子は従者じゃないわ。私の妹アルテミシアよ」
「妹、アルテミシア、そうですか……。
まだ……。
いえ、差し出がましいことは言いません。アルテミシア、よろしくお願いします。アレサスです」
「彼は、月光の異名で呼ばれているの。この国の人狼の中では最高の騎士よ。月光はこの国で最高の人狼に与えられる称号よ」
「しかしあなた」とアレサスが私を見る「|同胞(人狼)にしてはらしくないので、少し気になっていたのです。まるで普通の人間のような歩き方でしたので。失礼ですが、あなたはどちらの里のご出身で?」
「里? えーと」と私は言葉を濁す。
「記憶が混濁しているようなの。アルテミシアのことも含めてあなたに、そして、|白薔薇公(グラミス公)深き尊敬の主衣通姫にお目通し願いたいの。
「わかりました。今すぐ謁見を手配します。実はあなたがご無事で現れたら即座に謁見を手配する手はずになっております。しかし、城内には敵もおりますゆえあなたの能力をお借りしたい。あなたの美しき銀髪は非常によく目立ちますし、私の動きも見張られている可能性がありますゆえ」
「わかりました。すぐに参りましょう」
ナギは私に言った。
「偽名を使う必要はなさそうね。我慢して付いてきてね」
「うん。お姉ちゃん」
私たち三人は夜の闇に溶け込みながら白の方へと向かった。ナギの魔法のおかげか途中で出会う誰も私たちを気にかけなかった。
街の中は意外と高い建物が多い。6階建てくらいなら普通にある。多くが、城と同じく純白の素材でできていた。綺麗に成形されているので、これは魔法の力なのかもしれない。各階に人が住んでいるなら、この街は相当に人口が大きな街だろう。
街の中は騒然としていた。人々は、天下焔壁の噂で持ちきりだった。話に聞き耳を立てていると。商人の王神殿が何者かを狙って使ったのだという噂が立っていた。もともとは鍛冶の神が作った術だが、準備にお金がかかりすぎるために、商人の専売特許となっているようだということもわかった。
白の通用口から中に入ると、城は中まで純白だった。
「美しい」私はボソッと口にする。
「そうでしょうとも。私はこの城にお仕え出来て光栄です」
階段を何度も登って登ってやっと大きな扉の前にたどり着いた。
それでは隠密の術を解いていただけますかな。
「『我は凪を従えるもの。一陣の風よ再び吹け』」
解かれましたな。それでは中へ。
門がギーッと開く。
中には兵士が100人ほど左右に分かれて立っている。中央の玉座には白雪の肌を持った黒髪の女性が座っていた。
「さ、中へお入りください」
中ほどまで言ったところで兵士が一斉に武器を構える。
「反逆者ナギをお連れしましたぞ」アレサスがよく通る声で叫んだ。