白薔薇城(グラミス・キャッスル)
歩き始めて一時間ほどで炎の壁は消えた。諦めたのか、森を燃やし尽くしたのか……、二人とも何も言わなかった。
白薔薇城は透き通るように純白な城だった。月明かりの元でもその白さは際立っている。
私たちは城門の近くへとたどり着いた。
「私は今からディアーナと名乗るね。ナギって名前は危険だろうから」とナギが言った。
「わかった」
二人で城門のへと歩いていく。城門は堅牢な石造りに、分厚い一枚板二枚をはめ込んだ、両開きのものだった。時間が時間だけに中に入る人が多い。大きな荷車を引いた商人や、いかにも旅人といった感じの大きな荷物を抱えた人々。
私たちもその中に混じって進む。ほとんど手荷物がなく、服の木で作られた服を着ている私たちはいかにも目立ちそうだった。
城門の前では幾人かの衛兵が待ち構えている。
衛兵が私たちに声をかけてきた。
「そこの女性二人、しばし待たれよ」
呼び止めたのは、左腕に腕章をつけた衛兵。
「そなたらは、森に住むものだな。天下焔壁の難を逃れて、この白薔薇城を訪れたと見える。詳しい話を聞かせてほしい、兵士の詰所にご同行願おう」
私はナギの袖をつかんだ。
「わかったわ」とナギが答えた。
三人で石造りの廊下を歩く。不思議と石に囲まれているというのは不思議と落ち着く気がした。
「こちらだ」と兵士が木でできた扉を開ける。
中は殺風景な部屋だった。部屋の真ん中には木製のテーブルが一つ。その周りには、背もたれのない木製の丸椅子がいくつも並んでいる。テーブルの上には、地図らしきものが広げてある。中では、兵士二人が椅子に座って、チェスのような遊戯に勤しんでいた。
「森に住むものを見つけたので事情を聞く。すまぬが外に出てもらっても良いかな」と腕章をつけた衛兵が問うと元々部屋の中にいた二人は、「はい」と返事をして出て行った。
これから何が始まるのだろうか。事情を聞かれても何も答えられないぞ、と私が身構えていると。
「お願いします」
と腕章の衛兵が言った。
ナギが小声でつぶやく。
「『我は全てをかき消すもの。我らが痕跡一切は寂滅する。』」
「纏え!『不可知の衣』」
「静寂の魔女ナギご無事で何よりです」
「久しぶりね。アレサス」