騒音使い(ノイズ・マスター)と無間の静寂(ペレンニス・マギス)
煙と埃が吹き飛び、家の外に立つケンが見えた。
ケンは大砲のような大筒を背負った小柄な男で、熟練の戦士というよりは村の青年といった感じだった。
「賞金稼ぎと言ったかしら。賞金稼ぎが私に何の用? 賞金をかけられるようなことをした記憶はないのだけど」
「今朝、貴様には商人の王の神殿から4500ゴールドの賞金がかけられた。静寂の魔女ナギ」
「賞金? どうして?」とナギは戸惑う。
「理由など知ったことではない。我が村の復興資金となってもらう」
その間私は、室内を見回し武器になるものを探していた。歩くのが精一杯とはいえ、壁を拭きばすほど力のある者を相手に丸腰でいるのはなんとも間抜けに思えた。本棚の板あたりがちょうどちょうどよいだろうか。今の細腕で持てるだろうか?
「アルテミシア、大丈夫よ。私がなんとかするから」
とナギはいったが、ナギの小さな体でどうこうできる相手には見えない。どうするか戸惑っているうちに、ケンは大筒を構えた。「お見せしよう騒音使いケンの一大必殺技」
ケンは詠唱を始めた。
「『音よ。その全てを我は受け入れる。我音とともに歩むもの、音よ我に力を貸せ』」
同時に、ナギも同時に詠唱を開始する。
「『我は全てをかき消すもの。我が力の前では全てが静止する。我が力の名は、」
ケンは大筒の端をこちらに攻撃の構えをとる。
「吹きとべ!『大音声の爆弾』」
「『無間の静寂』」
二人が同時に何かを行った。これはおそらく魔法の類だろう。私は自分が吹っ飛ばされることくらいは覚悟した。目をつぶって耳をふさぐ。
…
…
…
何も起きなかった。いつの間にか目の前にいたナギが私の手を取る。
「逃げるよ、アルテミシア。歩ける?」
「『我は全てをかき消すもの。我らが痕跡一切は寂滅する。』」
「纏え!『不可知の衣』」
やはり何も起こらない……ように感じた。しかし、ケンの方を見ると様子がおかしかった。あちこちを振り向いている。もしや私たちを見失った?
「ねえ、ナギ……」
「説明は後、私を呼ぶ時はお姉ちゃん、わかったら逃げるよ」
私はそれ以上何も言わなかった。
ケンは、私たちを狙うのを諦め、そこかしこに筒を向けている。結局あの筒はなんだったのだろうか?
そうこうしていく間に、私たちは、空いた穴から家を出、遠くへ向かう。
後ろを振り返るとケンは意を決したのか、家の中へと入ろうとしていた。