疑念
三人集まって話し合いを始める。
「一晩たってみて、昨日の神話と魂の旅はどうでしたか? ナギさんの方は聞いた事あるでしょうから先にアルテミシアさん」とパラスが訪ねた。
昨晩のお姉ちゃんのことを頭から追い出し、真面目モードに切り替える。
「私の魂の中に何かがいるっていうのは、なんだか不思議な気持ちです。『憤怒』と名乗っていた割に悪い印象は受けなかったかな?」
「そうですか。神話の方は?」
「歴史の記憶をほとんど忘れてしまった私のために説明していただいたのはわかるのですが、それが今の私たちの状況とどう関係するのですか? 『憤怒の獣』の話出てきませんでしたし」
「その件を説明する前に問います。都合のいい話だとは思いませんでしたか?」パラスの眼差しは真剣だった。
「都合が良いってのは、神聖メア帝国にとってってことですか?」
「そうです」
「歴史を自分に都合の良いように修正するなんて自然なことじゃないですか?」
「やはりあなたはそう考えますか」
あなたは、と言われたので、ナギの様子を伺う。頭の上にハテナの乗ったような顔だった。
「ナギさん、歴史は誰がどうやって管理しているか知っていますか」
「歴史の記録者神官が厳正に管理していると。一度焼失してしまったがために、今度は二度と失われないように、すべてを石に書き記しているって、昔母から聞いたわ。歴史の記録者神官は二度と過ちを繰り返さない。ただ一つの正確な歴史を紡ぐ、それが歴史の記録者神官の役目だと」
「はい。模範解答です。というわけで、この国でまともな教育を受けた人間は歴史の改ざんが当たり前、などという発想は持っていないのですよ。さて、あなたはいったい何者なんでしょうねぇ」パラスの笑みは不気味だった。
ナギがパラスの方を見ていう。「私の妹をいじめるなら私が許さない」
「うーん、いいですねぇ。愛ですねぇ。まあ、そういうわけで、ですよ。私たちは、歴史は都合よく書き換えられたものだと考えています」
「私たち?」
「書き換えられた?」
私とナギが同時に言った。
「アルテミシアさんいいところに目をつけますねぇ。しかし、私たち、が誰なのかの説明は後に回しましょう。ナギさん、あの歴史にはおそらく嘘が混ざっています。どこがどう嘘なのか、という具体的なことはわかりませんが、デッドロックが裏切り、メアがそれを倒すまでの話、何か違和感があるでしょう?」
「気にしたことはなかったけれど」とナギ。
私は深く考えに沈んでいた。
「そうそう。それで憤怒の獣ですが……、」
私たち二人の注目が再びパラスに集まる。
「神話の中で落とされた五柱の神々、そのいずれかであると考えられます」
「ということは私には神が宿っているのですか?」私は意外と落ち着いていた。
「そうです。物分りが早くて助かる」
コンコン、と戸を叩く音がした。
「入っていいですよー」とパラスが答えた。船員が一人入ってきてパラスと何事かを話すと、パラスは言った。
「魔法使いの祖グリモが島にこもったって件覚えてますか? 今から着くのがその島、「マレフィカ・グリモ」です。もう間も無く到着です」




