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修羅

「先にお見せした方が早いので、中に入りましょう。と言っても私はそこの改札(ゲート)をくぐる権限を持ち合わせていないので一人で入っていただくことになりますが」

「わかりました」

「ここから先はあなたの心の奥底の領域。何かがおかしいと感じたら即座に引き返して戻ってきてくださいね。もし中で虜になれば私はあなたの魂ごとすべてを破壊しなければなりません。それはお互い本意ではないので、お気をつけて」


「魔法とかないんですか? 敵に対して使えるような」と私が問うた。

「先ほども言いましたが、この中はあなたの魂の奥底の領域。すべてあなた自身です。あなたの魂を傷つければ必ずあなたに返ってきます。それは相手もよくわかっているのであなたに危害を加えることはしません。ただ、あなたの魂の主導権を握ろうとするだけです。もし主導権を渡せば幽閉されるのはあなたです」


「それでも行かねばなりませんか?」

「あなたの心に巣食うもの、その正体を見ておかなければ」


 改札の向こうはいつもより暗い。電気が付いていないようだ。さっきまでもっと明るかった気がする。


「行きます」

「はい。お気をつけて」


 改札をピッと抜けた。途端に空気が変わる。凛と張り詰め緊張感がああるのに温度自体は上がっている気がする。目の前の階段を降りる。一段、また、一段と降りるにつれて周りがどんどんと暗くなっていく。だんだん、だんだんと見える範囲が狭くなっていき、最後の一段を踏み出す直前には、自分の手さえ見えなくなった。それでも手すりに沿って最後の一段足を下ろした。


すると……


段はなかった。


踏み外してそのまま私は落ちていった。



気がつくと私は無明の中に立っていた。目の前には大きな何かがいる。


「「我が同胞、小さき獣よ。目が覚めたか」」


「あなたは?」


「「我は修羅。

全てを破壊する者。我が歩くと世界が崩れる。右手に炎を宿し、左手に雷を宿す者。あらゆる希望は我が前では意味を成さぬ。いかなる剣も我を刺し貫くことはできぬ。我が怒りは神をも落とし、あらゆる者に死をもたらす」」


ちょっと泣きたくなってきた。


「「恐れることはない、とって食いはせぬ。我が手足は枷にはめられそなたの体につなぎとめられている。我が心は静寂に包まれ、怒ってはおらぬ」」


「あなたの名前は?」


「「我か? 我は『イラ』『怒髪天』『ハシラ』などと呼ばれることが多い。すべて『憤怒』という意味だ」」


「しかしあなたは今、穏やかに見えます」


「「そうだ。こんなに平穏な心になったのはいつ以来だろう。もし我を抑えるこの力がなければ我が怒りはそなたを食らい尽くしていただろう」」


「あなたは何に怒っているのです?」


「「裏切りだ。神々の間で裏切りは珍しいことではない。しかし、あの裏切りは決して許さぬ」」


 目の前の何かがグルルルルと唸る。


「「いや、この話はやめよう。そなたを消し炭にしてしまいそうだ。そろそろ帰るがよい。我が魂はそなたと共にある。もし困ったことがあれば我の名を呼ぶがよい。機嫌がよければ助けよう。

 ではまた会おう、小さき獣よ」」



グラッとして目が覚めた。

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