狢の巣穴(バッジャーズネスト)
墓穴は地下水道につながっていた。3人で地下水道に降り(開けてくれた人には挨拶した)、暗くて狭い道を歩く。私が体を奪われる前の大きさだったら身をかがめなければならなかっただろうな、などと考える。今の私の大きさなら別段問題はない。
地下水道の壁に大きな穴が空いていた。パラスはその中に入る。私とナギもその中に続いていくと、そこには広大な地下空間が広がっていた。
地下空間の中には50人ほどの人々が行き来している。座ったり、カードに興じたり、商談していたりだ。全員に共通しているのは、黒いマントと、左腰(一部の人は右腰)に下げた同じデザインのナイフだ。体に傷痕のある人や、酒瓶を手にした人も多い。
パラスはローブを脱ぎ捨てた。意外と露出の多い服を着ていた。
「私の妹を犯罪者の巣窟に連れてきたということですか?」
ナギが真っ先にパラスを問い詰めた。大きな声だったので、部屋中の人から睨まれる。(そりゃ、犯罪者呼ばわりされていい気分しないよお姉ちゃん)
「犯罪者の巣窟呼ばわりとは滑稽だな。静寂の魔女ナギ。その犯罪者のおかげで五体満足で居られるというのに。我々の協力がなければ君たち二人はとうに捕まっていただろうに」部屋にいる中で一番貫禄のある、隻眼のおっさんが声をかけてきた。よく見れば、ナイフの鞘が金色だった。階級を表しているのかもしれない。
「こんな逃げ場のない場所でそんなことを言われても信じられません」ナギは強気だ。
「そんなことを言いなさんな。ここにいる人たちは犯罪行為もするが基本的にはいい人さ。実際に何もしてこないだろう? 君の親友は魔法で攻撃してきたというのに」とパラス。
「まあ、あなたがそう言うなら……。でも、妹に悪影響が出たらと思うと……」
「まあ、妹さんの事は私の管轄ではないとして、だ。私の目的は、二人を逃すことさ。そのために狢の巣穴の協力を得た。ここにいる人々だって二人を受け入れることで相応のリスクを負っているんだ、ガタガタ抜かすんじゃないよ」
「まあ、そういうわけだ、嬢ちゃんたち。ここにいる奴らは確かに脛に傷を持つ奴らばかりだが、仁義に厚く、堅気に手を出すようなことはしない。その辺は、傭兵や賞金稼ぎとは違うのさ。一応言っておくが、今回の賞金は、あんたが生きてさえいれば良い。どういうことかわかるか? 傭兵やイカれたやつらに捕まったら、手足の一二本なくなったり、純潔を失ったりしても文句は言えないということさ。そんな奴らにくらべれば俺たちははるかに紳士だぜ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はマリウドだ。よろしくな。一応狢の巣穴のリーダーをやっている」
「おしゃべりはそこまでにしましょう。お二人には私と一緒に神聖メア帝国を出て頂きます」とパラスが言った。
「どういうこと? 国を出るって?」とナギ。
「あなた方の状況をお話ししましょう」パラスはそういうと地図を出した。
「まずは、ナギ、あなたにかけられた嫌疑は、首都メアのはずれにある裏切りの主神神殿跡地にある、絶対禁足区域呪魂監獄に侵入し、少なくとも一体の悪魔を解放したことです」
「そしてあなた、アルテミシアと名乗ってるんでしたっけ? あなたはその悪魔というわけです」
「私の可愛いアルテミシアが悪魔なわけがないでしょう」とナギが吐き捨てる。
「本当に胸に手を当ててそう言えますかね。アルテミシアさん」パラスは私の目をじっと見る。
「まあいいでしょう。そういうわけで、あなた方二人の状況は極めて悪いです。完全に国賊ですからね。絶対禁足区域呪魂監獄といえば、ナギさんは聞いたことがあるでしょう」
「昔話の中だけの話だと思っていた。何十、何百という悪魔が幽閉されていると聞いたわ」
「そうです。それゆえ、その地は何人たりとも立ち入り禁止。門の封を解くことすら許されない。絶対に開いてはいけない扉なんです」
「それが開いたのがおそらく4日前です」
「開いた?」
「外からなのか中からなのか、どうやって開いたのかそういったことは一切不明。ただ、少なくとも一体の悪魔がその入口を通って地上へと侵攻した。これが真実です。10体くらいの悪魔が出てしまったのではないか、という恐ろしい予測もあります」パラスは飄々と続ける。
「いずれにせよ、その犯人。是が非でも捕まえようというのが人情というものです」
「ここまでで質問ありますか?」




