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水島クレオと或るAIの物語  作者: 千賀藤隆
第一章 蘇生
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リハビリ

はじめの1週間、リハビリも水島の病室でなされた。他の人間と一緒の空間で活動するには、まだ免疫力が十分回復していない、というのがその理由だ。

  リハビリでも、脳波スキャナーが再び活用された。ヘアバンド型の脳波スキャナーの読み取り装置は、まだ頭髪の少ない水島の頭にすっかり馴染み、いつも水島の頭に巻き付いている。脳内に埋め込まれた脳波センサーが脳の微弱電流を使って駆動しているのに対し、読み取り装置はバッテリー駆動のためヘアバンドにしては重いが、髪が少ない分、その重さを程良く感じる。リハビリでは電極素材が織り込まれた布地で作られたリハビリ専用のウェアを身に付ける。見た目は少しタイトなスポーツウェアだ。デザインは水島には少し奇妙に見えたが、この時代では普通のデザインなのだろう。

  人間の身体は、体の表面から電気的な刺激を加えることで、かなりの動作をコントロールできる。例えば、腰の特定の部分と太ももの特定の部分、そして、膝の上の特定の部分に適切な強弱、タイミングで微弱電流を流すと、本人の意思とは関係なく足が上がる、といった具合だ。つまり、コンピュータ制御でリハビリ専用ウェアから身体の特定部分に電流を流すことで、足を上げたり曲げたり、手を上げたり下げたり、人間を操り人形のようにコントロールできる。水島のリハビリでは、専用ウェアの電流を制御するコンピュータはもちろんクレオだ。


「僕は、文字通り、君のマリオネットだね」


水島がそう言って口を開けて表情を固めてマリオネットを装うと、クレオは電流を流すたびに胸の前で水平に広げた両方の手のひらを動かして人形を操る振りをした。「(一体、どうやったらコンピュータがこんなユーモアを持てるんだ?退院したら、是非、知りたい!)」クレオが人間っぽい振る舞いを見せれば見せるほど、水島のリハビリへのモチベーションは高まった。


  リハビリを始める前に、クレオは水島に足を上げたり、曲げたり、横に広げたりすることを何度も繰り返し要求した。もちろん、その時の水島には、そんな動作はできない。ただ、そうすることで、例えば、水島の脳内で「足を上げるぞ」と思った時に脳波がどういうパターンになるかクレオ(=コンピュータ)が学習することができる。クレオは水島の脳波をモニタリングしているので、水島が頭の中で「足を上げるぞ」と思った瞬間を脳波のパターンで認識し、まさに、そのタイミングで足を上げるための電流をリハビリ専用ウェアに流す。そうすると、水島にしてみれば、まるで頭で思ったように身体が動いたと感じる。実は、この方法は歴史が結構長く、水島が死んだ2016年に米国の研究チームが最初の成果を発表している。事故で胸から下が麻痺し、腕も肘から下が不随になった患者の脳にセンサーを埋め込み、動かない肘から下に多数の電極を付けてコンピュータで電流を制御することで、患者が不随になった手でボトルを持ち上げて中の飲み物をグラスに注いだり、クレジットカードを親指と人差し指の間に挟み、細いカードリーダーの間に通すなど、かなり複雑な動作ができることを証明した。


  1週間が経った。専用ウェアを着たリハビリ以外にも、連日、様々な装置を使って筋肉を動かすトレーニングをし、神経系を活性化させる薬を身体に打ち込み、筋肉を取り戻すための筋肉増強剤を投与した。毎日、午前中に3回、午後は就寝までに5回、計8回流動食を流し込んだ。そのおかげか、水島の下半身も少しだが動くようになった。

  その日の最後のリハビリが終わるとシャワーを浴びる。リハビリを始めるまで気が付かなかったが、ベッドの左斜め後ろはバスルームになっていた。イリーナ(例の白人の看護婦)が部屋にやってきて、今日も同じ会話を始める。


「水島さん、今日もすごい汗ですね」そう言って、イリーナは服を脱がせ始める。

「じゃあ、私は外に出てますね」そう言って、クレオは部屋を出る。


水島を素っ裸にすると、イリーナは水島を軽々と抱き上げてバスルームに運び、バスタブ付きのロボットの上に水島を寝かせる。こいつは中々快適な装置だ。リクライニング・チェアーのように角度がついたバスタブの底に横になると、あっという間にお湯が首まで溜まり、ジャグジーで泡風呂になる。四方八方から水や泡が噴き出し、背中もお尻も洗われる。同時に備え付けの2本のロボットアームで、1本は頭を洗い、他方は顔に水が掛らないように目の上を覆う。それが終わると顔を洗われ、「ヒゲを剃りますか」と聞いてくる。まだ、剃るようなヒゲも生えてないので断ると、しばらく音楽がかかりくつろぎの時間となる。その後、ジャグジーの水が引き、シャワーで全身の泡が落とされ、次いで髪だけでなく、全身を熱風で乾かされる。最後に上から大きなタオルをかけられて待っていると、ほどなくイリーナが入ってきてベッドまで運び、水島に新しい下着とパジャマを着せる。


「お風呂は、いかがでしたか?」

「うん、とても快適だった」


イリーナとは、7日間、毎日同じ会話を繰り返している。おそらく、一人で多くの患者の面倒を見ているのだろう、水島の部屋にいる時間はいつも1分以下だ。魔法のようにテキパキと水島の服を脱がせ、また着せた。

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