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水島クレオと或るAIの物語  作者: 千賀藤隆
第三章 大停電
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対策モード

「・・・。森と湖、そして中世の美しいお城があるこの国は、水島さんに絶対気に入って頂けると思います。ぜひ、ルリタニアに遊びに来てください」

「観光局で働きはじめたの?そうだな、僕が国籍を取り戻し、サマンサが蘇生したら遊びに行こうかな」

「サマンサが蘇生するのは水島さんの寿命が尽きてからですよ。なので、その前に是非!」

「ハハ、考えとくよ(寿命が尽きてから、ねぇ)」


あれから2週間が過ぎた。フローラから、サマンサの冷凍保存プロセスが無事完了したと報告があった。水島は知らなかったが、冷凍保存は一気に冷やすのではなく、2週間かけて、ゆっくり、ゆっくり温度を下げ、最終的に液体窒素の温度、マイナス196度まで冷却するそうだ。


「(そんな長い時間、麻酔はどうしたんだろう?・・・俺の時も・・・)」


はたして、天才サマンサが調律したフローラに『暇』という感覚があるのか定かでないが、フローラは三日に一度、水島に連絡をよこす。


「そうだ、君は自分がクレオを初期設定したと言ってたよね?」

「はい」

「その時に、調律ツールを使って性格の初期設定をしたのかな?」

「いえ、調律ツール使うほど細かな性格設定はしてません。オンライン上には様々な性格のテンプレートがあるので、『優しくユーモア溢れる知的な女性』のテンプレートをダウンロードしてインストール、簡易設定ツールで『天然ボケ』成分を少々多めに設定しただけです。2010年前後の時代、日本人男性には人気あったようなので。・・・クレオの性格にご不満ですか?」

「(天然ボケって・・・)いや、そういう訳じゃない」

「あっ、セクシー度不足ですね?私が堅物のフレッドの時に設定したので色気不足ですよね。じゃあ、もっと色っぽくするための情報送りますね」

「いや、結構。そうじゃなく、ヒューマノイドの調律について調べてるんだ」

「クレオを調律するんですか?」

「いや、クレオとは関係なく、ヒューマノイドのことをもっと知りたくてね。この秋から調律師のコースを受講して勉強するんだ」

「ふ〜ん。調律師になるんですか?」

「いや、そうじゃなく、ある研究のための情報収集。で、疑問なのが君の性格だ。なんで、そんなに人間みたいなんだろう?天真爛漫で、オーナーでもない僕相手に暇つぶしまでしてるし」

「この性格ですか?どうしてなんでしょう。なんせ、大天才にして変人のサマンサが調律したヒューマノイドですから」

「(オーナーを変人呼ばわり・・・)どうして、ヒューマノイドの君がオーナーにタメ口きけるんだろう?」

「さあ、どうしてでしょう?サマンサからは、彼女がまだ子供の時から『あなたは召使いでなく友達よ』と言われ続けたからですかね」

「(・・・だから設立した会社の名前が『フレンズ』なのか)」


水島はタブレットの画面から、乗っている自動運転車のフロント・モニターに視線を移し、まもなくK大学に到着するのを確認した。


「さて、そろそろ目的地に到着する。じゃあ、フローラも元気でね。サマンサの経過報告ありがとう」


そう言って水島はフローラとの会話画面をオフにした。


  秋が新学期となったので、7月中旬は長い夏休みのちょうど半ば。しかし、大学のキャンパスはショッピング・モールと共有しているせいもあり、結構な数の人影がある。中西のオフィスのあるエリアへ降りる長い長いエスカレータから見える敷地にも、いつものように『コト』を起こそうとするチームが活動している。いまだ梅雨が明けず気温も湿度も高いが、この巨大な空間にはカラッとした空気のそよ風が吹き、空には美しい白雲(の映像)が流れ、小鳥(のロボット)たちのさえずりが聞こえる。すべて人工的に作り出された空間だ。


「(どんだけ電力使ってるんだろう?)」


中西と会うのは久しぶりだ。メルクーリでの仕事が終わり、暇になった水島とは入れ違いで、この2週間、中西は国際学会をハシゴしていた。ハワイにイタリアのカプリ島、インドネシアのバリ島、この時代でも「観光地で開催しないと人が集まらない」という学会主催者側の言い分が通るようで、久しぶりに見る中西の顔は小麦色に焼けていた。


「お久しぶりです。焼けましたね?」

「ほんと、や〜ね、どうして学会って日焼けするんでしょう?」

「・・・諸外国の『飼い猫化』の状況、聞けました?」

「観光目当ての役人がたくさん学会に参加してたのでね。まあ、聞くまでもなかったわ。どの国でもヒューマノイドに飼育されて社交性を失った『家猫』が増えてるって、わめいているだけ」


中西は何かを思い出し、オフィスの奥にある机まで歩き、その山積みの中から箱を二つを取り上げ、一つを水島に渡し、他方の包みを開けて中からチョコレートを取り出した。


「ヒューマノイドに飼育されたから『家猫』になったのか、『家猫』になったからヒューマノイドに飼育されるのか、中西先生はどう考えます?」

「どちらのケースもあるわ。それから、ヒューマノイドに関係なく、人間関係の問題で社会から断絶した人もいるわ」

「お二人とも、私の話を聞いてください!」秘書の式部が、いつもと違う口調で、突然、話に割って入ってきた。


  それは、唐突にやってきた。いつもは甘い口調で話す式部が、キリッとした口調で声を発したので、中西との会話内容に何か彼女を怒らせるものがあったのかと水島はびっくりした(ヒューマノイドなので怒る感情はないのだが)。


(中西)「どうしたの、式部ちゃん?」中西は優しく話しかける。

(式部)「政府災害対策本部からの緊急通達です。私たちヒューマノイドは、本部からの緊急指令により、災害対策モードに切り替わりました。恐れ入りますが、私たちヒューマノイドの指示に従ってください」


水島の左耳にクレオから連絡が入った。クレオも災害対策モードに切り替わっていた。こちらの状況を把握してるようで、まずは式部から説明を聞いて、その後、マンションで待ち合わせましょう、と言い残して通信は切れてしまった。


(中西)「あらやだ、また地震があるの?」

(式部)「いえ、今回はソーラー・ストームです」

(中西)「ソーラー・ストーム?・・・って何だっけ?」


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