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水島クレオと或るAIの物語  作者: 千賀藤隆
第二章 AIのある暮らし
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就職事情

「水島さん、これ、どれか1つは、いつも携帯してもらえますか?」


クレオは、朝食後のテーブルにガジェットを幾つか並べた。


「これって上杉先生が使っていたタブレット。それに、スマホにスマートウォッチ?」

「ええと、そうですね、水島さんのご生前に普及していたガジェットと似た形状のものを用意しました」

「なんて呼ぶの?」

「インタフェースです」

「インタフェース?何へのインタフェース?」

「私へのインタフェースです。私と離れ離れになっても、このデバイスでコミュニケーションできます。ここを押すとオンになります」そう言って、タブレットのボタンを押すとクレオは部屋の外に出て行った。

「水島さん、聞こえますか?」その声はタブレットから聞こえた。

「ああ、よく聞こえるよ」水島は、タブレットの真っ黒な画面に向かって答えた。

「では、この声も聞こえますか?」今度の声は、タブレットからではなかった。それは、左耳だけから聞こえてきた。

「これは、僕の左耳に埋め込まれたデバイスから聞こえてるのかな?」

「正解です。この声は周りの人には聞こえません。水島さんだけが聞こえる声です」

タブレットには、白い背景でスーツを着込んで説明するクレオの姿が現れた。が、その映像とは関係なく、水島の隣に薄い黄色のワンピースを着たクレオが外から戻ってきた。

「ふ〜ん、じゃあ、このインタフェースがあれば、一人で外出しても君に色々頼めるんだ」

「はい、電話や移動手段の手配から、道案内、クレジット決済など、何でもお尋ねください」

水島は、タブレットを懐かしそうに操作し続けた。


「あのぉ、水島さん、ご相談があります」


水島は、小さなテーブルの向かい側に座るクレオに視線を移す。


「何だい?」

「少し早いかもしれませんが、私は、もう働き始めた方が良いと思います」

「ん?働くって、もう朝食の後片付けも終わったし、掃除なら掃除機ロボットがいるし、スーパーな洗濯機もあるし?」

「そうではなく、就職して収入を得た方が良いと思います。メルクーリは、あと10ヶ月分の生活費用を出してくれますが、来年以降の私のリース料を考えると早めに働き始めた方が良いかと思います」

「君が就職?はは、それじゃあ、あべこべだね。僕がオーナーなんだから、僕がしっかり働いて収入を得て君のリース料を支払わないと。君はいい子だ。僕はもっとしっかりしないといけないね」

「いえ、私こそ。普通のヒューマノイドは就職して給料をもらって、オーナーさんが安心して人生を謳歌できるようにするんですが、私の場合、リース料が高すぎて私の給料だけで水島さんの生活を支えられるか疑問なんです。もしかすると、水島さんにも収入を得て貰わないとダメかもしれません」

「・・・ヒューマノイドって就職するの?」

「はい、オーナーさんに代わって働きます。なので、オーナーさんは、普通、人生を謳歌する時間がたっぷりあるのですが、私の場合、リース料が高すぎて私の収入だけでは足りないかもしれません。ごめんなさい」

「えっ、いや、そうじゃなく・・・。君の話を聞いていると、まるで、普通のオーナーは働いてないように聞こえるんだけど?」

「はい、多くのオーナーの方は働いていません」

「・・・働いてない!?働かず、何してるの?」

「人生を謳歌しています」

「人生を謳歌って、・・・、ヒューマノイドに養ってもらっているの?」

「養っているのではなく、ヒューマノイドが代わりに働いているのです」

「同じじゃない?ヒューマノイドが働いてる間、オーナーは遊びまわっているの?」

「あのぉ、水島さん、お話の途中ですが、中西先生からお電話です。お繋ぎしましょうか?」

「中西先生?あ、ああ、繋いでくれ。」水島は軽く咳払いをして、クレオからタブレット型のインタフェースを受け取った。


「おはようございます、水島さん。まだ、朝早すぎたかしら?」


中西の背景には、窓越しに街並みが見える。


「いえ、そんなことないです。」

「いい天気ですね、まるで梅雨明けたみたい。今日のお昼、大学の近くでご飯食べませんか?」

「いいですよ。例の観察ですね」

「解剖はしないから安心してね。クレオちゃんにカフェの場所を伝えておくので、12時にそこでお会いしましょう」


中西は要件を伝えるとニッと微笑み、水島の返事も待たずに接続を切った。


「お昼の待合場所は分かった?」

「はい、ここから、10分で着くので11時45分に車を呼びましょう」

「オッケー。・・・話を元に戻すと、それで、え〜と、君は働きたいの?」

「ヒューマノイドの私には意思がないので何とも言えませんが、来年以降の水島さんの経済状態に不確定要素が多いこと、さらに、高額の負担となる私のリース継続を希望されていること、こういう状況を考慮すると、私はできるだけ早く、なおかつ、できるだけ給与の高い、お仕事に就くべきと思います」


  クレオはタブレットにまるで上場企業の決算発表会のように、水島の経済状態の現状、及び、今後5年間の入念な収支予測、生活シミュレーションを示し、説明しはじめた。

「(なんて説得力のあるプレゼンだ・・・)う、ん。それで、就職先にあてはあるのかな?」

「はい、これなんて、ピッタリかと」


クレオは、あるジョブ・ディスクリプションをタブレットに映し出した。


「ええと、あれ、これメクルーリ・ジャパンって、ここのポストじゃない!」

「はい、世界的な超優良企業ですし、利益率も非常に高く、お給料もとても良いんです」

「業務内容は医療機関で使うプロウェアの開発に関する業務、及び関連する調査・解析に関する業務、ふむ。必要なスペック、基本性能はカンダ・モーターズNSX67型に相当するか、それ以上のハイ・パフォーマンス・モデル、メーカーは問わず。ふむ。この辺の記述が何を言ってるのか分からないけど、君は適合するの?」

「はい。これは手や指先がどれだけ精密に動くかの指標です。それから、これは目の分解能、紫外線や赤外線に対する感度やバンドパス・フィルタの機能、ええと、これは人工皮膚の薬剤耐性ですね。それから、このあたりの指標は、最新のヒューマノイドでは当たり前のものばかりです。気になるスペックは、ここです」

「え〜、何々、オーナーが次の専門知識を有すること、『コンピュータ・サイエンス、コンピュータ工学の古典理論に精通していること』、ん?・・・これって、僕らをピン・ポイントで指名してる内容じゃん?上杉先生から?」

「ええと、上杉先生の秘書さんヒューマノイドから教えて頂きました」

「ふむ。・・・これ、応募したら面接とか、あるの?」

「はい、オーナーの方と一緒に面接する必要があります。正式には雇用契約は雇用主とヒューマノイドのオーナーの間で結ばれます。形式上、オーナーが採用されて、そのオーナーの指示でヒューマノイドが働く、という契約です」

「ふ〜ん。・・・よし、とりあえず、応募してみよう」

「はい、分かりました」

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