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水島クレオと或るAIの物語  作者: 千賀藤隆
第二章 AIのある暮らし
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玉手箱

目覚めると波の音が聞こえた。時差のせいか、昨夜はレストランから帰ってくると強烈な睡魔に襲われ、シャワーも浴びず、すぐに寝てしまった。どうやって寝たか記憶はないが、一応、パジャマには着替えたようだ。壁に表示された時計は、まだ午前3時50分。もう一度、眠りにつこうと目を閉じるが既に頭は冴えてしまった。とりあえず、部屋の電気は点けずにトイレに行く。手を洗いながら、鏡に映る自分の顔に目を向ける。蘇生直後は、あの乳濁色のジェルのせいか少女のような白肌だったが、日にも焼け、髪もひげも伸び、だいぶ44歳という年齢相応の顔付になってきた。


  洗面スペースの電気を消して寝室に戻る途中、ふとリビングの中を見渡し、壁に寄せた食卓用の椅子にパジャマ姿のクレオが静かに座っているのを見つけた。頭を下げた格好で髪の毛が顔を覆っているので、彼女が起きているのか寝ているのか分からなかった。水島は音を立てずに静かに近寄り、そっと膝をついて下から覗いた。親指と人差し指を合わせ、掌を上に向けて太ももの上に軽く乗せている姿は、まるで瞑想しているかのようだ。水島はそっと立ち上がって寝室に戻りかけたが、テーブルにぶつかり音を立ててしまう。


「水島さん、もう、お目覚めになったんですか?」

「ごめん、起こしちゃったね。こんなところで何してるのかな、と思って」

「スリープ・モードで充電してました。あと90分ほど、充電を続けていいですか?」

「そこは充電場所なんだ」


クレオは立ち上がって椅子の上の丸い薄い敷物を持ち上げた。それはワイヤレスの充電器だった。


「そんな固い椅子の上で何時間も座っていたら皮膚に良くないだろう。この部屋はツインなんだから寝室のベッドを使いなよ」

「いいんですか?実は人工筋肉も少し圧迫されていて」

「もちろん。マンション借りる時も君のベッドを用意しよう」


水島は使っていないベッドへクレオを連れ、布団をまくり上げ、クレオが持つワイヤレス充電のシートを敷いた。


「さあ、乙姫様、ゆっくり休んでください」

「ありがとうございます」そういって、少し照れた表情をしながらクレオはベッドに横になった。

「充電器は機能してるかい?」

「はい、バッチリです」


水島がクレオに布団をかけてあげると、クレオは手で布団の端をつまみ、顔を半分隠しながら言った。


「あのぉ、浦島太郎の話を調べました。玉手箱は開けないほうが良いと思います」

「・・・うん、そうするよ」


水島はクレオの頬を軽く撫でてから、自分のベッドに向かう。ふと、バゲッジ・スタンドに目をやると昨日着ていた服やジーンズが綺麗に畳まれていた。「(俺じゃないな。昨夜はパジャマに着替えず服のまま寝ちまったようだ)」寝室の電気を消してベッドに入ると、今度は、すやすやと眠りについた。

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