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ギルドに勇者はたむろするもの

 城塞都市レーベルディンから出発して1日後。エースはグラムを走らせ帝都ディアトリスの周辺部についた。建物は整然と建ち並び、街道は広く、人々や騎車の往来も激しい。


 ディアトリス帝国においては、魔鎧騎(ルーン=アーマー)を受領できるのは、貴族のみ、となっている。そして、騎車を使った運送業は、貴族が独占しているのだ。つまり、今、街道を走っているのは基本的に貴族の騎車である。もちろん、すべての貴族が魔鎧騎(ルーン=アーマー)を持てる訳ではない。また、魔鎧騎(ルーン=アーマー)を持つ貴族は兵役などの義務を持つ事になる。また、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の修理、整備費用は自己負担。必ずしも儲かる訳ではない。


 にもかかわらす、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の所持を求める貴族は多い。単純に、高い戦力として欲する貴族も多い。傭兵ギルドのランクにおいてはAランクの戦力に値するだけに、貴族の権力、ステータスを表すものとして。また、ひとつの理由として……


 いま、エース達は、街道沿いの傭兵ギルドにやってきていた。


 城塞都市レーベルディンを出発した際に、資金を稼ぐ為に受けたAランク輸送依頼の完了の報告を済ませにきたのだ。依頼人と荷物は商店に送り届け、後の処理をバーンに任せて、ギルドの建物に入る。


 中には何人かの男たちがたむろしていた。装備のほとんどが皮鎧である。魔法力場による防御力が高いため、重く動きにくい金属鎧はほとんど使われないし、人気がない。


「よう、坊主たち、このギルドは初めてか?」


 たむろしている男の一人が話しかけてきた。くたびれた皮鎧だが、身のこなしは軽い。ベテランの傭兵なのだろう。


「いえ、2~3回は来てますが」


 エースは答える。男はエース達を見てすぐ顔色を変えた。


「この位置だと、レーベルディンにいくのか?」


「いや、そっちから来たんだ」


「そうか、残念だ。機会があれば同行させてくれ」


 そのとき、傭兵の仲間が声をかけてきた。


「おーい、依頼が決まったぞ!」


「ああ、じ、じゃあな」


 足早に傭兵たちは去って行った。


「なに? あれ」


 アリサはいぶかしげに傭兵たちをみた。


「ま、からかい半分、親切半分といったところだな。エースが若いから、仕事にあぶれているんじゃないかと声をかけた。で、帝国の貴族と気づいて営業をかけてきた、といったところだな」


 マックスは、少し感心したようだった。


「ん、営業?」


 イリスは首をかしげる。


「護衛のな。帝国貴族は、全員魔鎧騎(ルーン=アーマー)持ちだ。で、随伴歩兵を雇いにきたと思ったんだろう。勤勉な奴だな」


 傭兵ギルドのカウンターでは以下の業務を取り扱っている。ギルド員の登録内容変更。ギルドへの依頼及び依頼完了報告の受付と金銭支払い。苦情、要望、ギルドサービス対応など。


 三人の受付職員が忙しく対応している中、長く待たされ、ようやくエース達の順番となった。


「はい、どのようなご用件でしょう」 


「依頼完了報告にきた」 


 エースはそう言い、依頼票を渡した。


「はい、Aランク依頼……乗客及び、貨物輸送ですね。依頼票の……はい、不備ありません。では、支払いは貨幣にしますか? 手形にしますか?」


 にこやかな受付職員の声にエースは答える。


「手形で頼む。あ、あと一部貨幣で支払ってくれ」


 貨幣支払いの金額を聞き、職員は準備する。


「はいこちらが貨幣、こちらが手形となります。手形は3ヶ月ごとに更新しないと価値がなくなりますので、それまでに決済するか、ギルドもしくは他の銀行へ口座を作って預金される事をお勧めいたします。因みに、依頼の受付しませんか? 割のいい依頼がありますが」


「すまないが、帝都に急がなければならない。また今度の機会に頼む」


「わかりました。レーベルディン方面ならいい依頼が多いですからお願いしますね」



 エースは金の入った袋と手形を受け取った。手形のほうはそのままアリサに渡す。


「アリサ姉さん、これ、グラムの保守点検修理費用にしてくれ」


「了解」


 エースのグラムは、いま彼の所有物となっている。つまり、管理費用も自分もち。故に自分で管理費用を稼がねばならない。幸い、騎車があるので、輸送依頼が受けられる。Aクラスの依頼にあたり、街道沿いの移動が多い為、比較的安全でグラムの消耗も低い。美味しい依頼と言える。


「あと、当座の資金、マックス、イリス、大事に使ってくれ」


「ああ、すまね」


 マックスは金を受け取った。すでに彼ら二人はエースの家臣として雇われた。が、マイセンは、通常の給金しか出せないと言った。無論待遇も。つまり、一番下の兵士、下士としての扱いだ。しかし、エースにつき従うレーベルディン家の人間は少ない。かつ、彼の魔鎧騎(ルーン=アーマー)の従兵となるものも少ない。ゆえに、準備金としてマックスとイリスに与えたのだ。


「じゃ、今日は解散、明日、帝都に行くからね」


「……エースはどうする? この後予定ある?」


 と、アリサ。


「帰って色々帳簿やなんかまとめないと。ロボットを自分で持つと大変だよ」


「ん、ろぼっと?」


「エース語よ。魔鎧騎(ルーン=アーマー)の事を言ってるの。ま、じゃあ、私についてきて。いくつか新規の装備を買い揃えたいの。その承認をしてほしいわ」


「アリサ姉さん、全部任せてもいいんだけど……わかった」


「わかってないわ!」


 突然、ギルドの受付から大声が響き渡った。若い女の声だ。


 エース達がそちらを見ると、そこには鎧やロープ姿の冒険者たちがいた


「何故、Aランクの依頼が受けられないの? こうみえて、私たちはAランクパーティーよ!」


「ですから、Aランクの依頼は魔鎧騎(ルーン=アーマー)を持つパーティーでなければ受付出来ないのです」


「何いってるの! 輸送くらいできるわよ。うちのリーダーはアイテムボックス持ちよ。多少の荷物くらいどうって事ないわ」


「……アイテムボックスには人は入れるのですか?」


「なにばかな事言ってるの! 基本的に入れないって常識でしょう!」


 エース達は顔を見合わせた。 


「アイテムボックスなんて魔法、使える奴がいたのか……」


「逸失魔法だね。まあ、使おうと思うかは微妙な所だね」


「あれは、ジャス王国の勇者パーティーみたいだね。帝国の傭兵Aランク依頼は独特だから、まあ、しかたないか」


 そうエース達が言っているあいだにもギルドの受付はAランクパーティーに質問する。


「あなた方を含めた10名程度の移動手段を持っていますか?」


「いや、持っていない」


 パーティーリーダーと思われる軽装の鎧を着た少年が答えた。その答えに、先ほどまで対応していた戦士風の少女は怪訝な顔をしている。それでも少年を信頼している様子で、沈黙したままだ。


「では、10人程が同時に移動できる魔法などの習得を行っていますか?」


「いえ」


 受付の女性はため息をついた。 


「このAランク輸送の場合、依頼人、もしくはその依頼人を一緒に連れていくのが不文律なのです。通常は騎車を仕立てます。場合によっては馬車や騎乗できる使い魔に乗せる事もありますが、騎車のほうが安定しているのであまり好まれません。野宿する場合も騎車の方が快適ですし」


「で、でも、土系魔法で家とか作れますし、風系魔法や水系魔法や治癒魔法によって快適に過ごせます」


「いえ、それだけではないのですよ」


 受付の女性は胸をはった。


「帝国のAクラスパーティーは原則魔鎧騎(ルーン=アーマー)を持ちます。また、魔鎧騎(ルーン=アーマー)を持つのは貴族に限られます。つまり、Aクラスパーティーには最悪の場合、帝国の保証がありうるということです。だから、帝国の商人は、多少不便に感じても、魔鎧騎(ルーン=アーマー)を持つパーティーに頼むのですよ」


「……そうですか……しかし、輸送以外のAランク依頼は護衛とかしかないね。あとは、町や村の1ヶ月間の治安維持とか」


「辺境ならともかく、帝都周辺ですよ。そんな危険な魔物がうろちょろしているわけないでしょう。もしくは治安維持に不安があるため、傭兵に頼むとかですね。しかし、それも」


「武力は魔鎧騎(ルーン=アーマー)があるし、何かあっても帝国か後ろ盾になるから安全……か」


 受付の女性はすまなそうに言った。


「冒険者の方々ならば、辺境の、四大侯爵家や辺境伯の都市のほうが、あなた方の好む依頼があります。そちらの方に行かれてはいかがですか?」


「ああ、わかった」


 少年は、ギルド会館の出口に向かう。残りの3人、全員女の子だが、彼女らも少年を追う。


「待って、リュウヤ」 


 白い金属鎧に身を包んだ少女が媚びたように言う。


「もう一度、レーベルディンに戻ろう。あそこのほうが儲かる。アリス、もう少し稼いでから魔鎧騎(ルーン=アーマー)を手に入れるなり、ジャス王国に戻るなりしよう」


「で、でも、リュウヤ様の能力なら、魔鎧騎(ルーン=アーマー)など一ひねりでは?」


「いや、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の能力はともかく、帝国の権威ね象徴なんだろう。敵にはしたくない。むしろ、手に入れたほうがいいな。レーベルディンで考えよう」


 彼らはギルド会館から出て行った。


「ま、ジャス王国の勇者パーティーってあんなもんだろな」


「マックス、知っているのか」


 訳知り顔のマックスに、エースが聞いた。


「ジャス王国では、大型の魔物、ここではBランクの魔物を単体で狩れる戦士を勇者と呼ぶんだが、彼らを優遇している。勇者にはランキングがあって、その上位ほど優遇されるのさ。奴らは、下位の勇者だよ。魔物を倒して功績を上げる為に、此処まできたんだろう」 


「……ご苦労様だね」


 エースはため息をついた。しかし、もう会うこともないか、と思い、アリサの後を追っていった。



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