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家族はやっかいなもの

 砦を出発して三日後、エース達は帝都の西の城西都市レーベルディンに到着した。名前の通り、レーベルディン家の本拠地にあたる。帝国西側の最前線であり、魔物やレオン共和国、ジャス王国から国を守る要の土地でもある。


 西側の城塞は、十メートルほどの城壁で覆われており、また、大規模魔法用の大型ロッド=スタッフを持つ砲台が多数、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の整備所、兵士の宿舎や武器庫、食料庫。行政の為の役所やレーベルディン家の屋敷などをもつ。帝国でも最大級の要塞なのだ。


 東側にも城壁はあったのだが、度重なる都市計画と農地拡大の為、何重もの城壁と家、畑が並び重層化している。


 エース達は、帝都に向かう前にこの都市にやってきたのだ。補給、そして、特使(の生き残りとして)の報告の為に。


 報告の相手は、この土地の主のマイセン=フォン=レーベルディン。エースとメイシアの実の父親である。


 エースは、グラムの整備や補給をアリサ達に任せ、実の父親と対面していた。


 父親の執務室。比較的広いが半分以上を書類や蔵書が占拠している。エースは、ここでメイシアと遊んで怒られた思い出がある。


「しかし、なんでメイシアがいないんだ」


「いま、アルベルト皇太子が出陣している。オークの討伐に向かったそうだ。あの娘は代わりに帝都の守りについている」


 エースは、それを聞いて激しく怒った。


「……オークらめ、メイシアの手を煩わせるとは! 髪の毛一本残らず殲滅してやろうか!」


 マイセンは、そんなエースを冷ややかな目で見た。


「アルベルトが、勇者がいるんだ。直にそうなる」


「まあ、オークなんかどうでもいい。最近はメイシアに会ってないんだ。父上。メイシアばわーを補充しないと……」


 情けなく懇願するエース。それをマイセンは更に冷ややかな目で見る。


「それはともかく、親書をわたしてもらおう」


「父上、メイシアの事が可愛くないのか! 親書などよりメイシアのほうが大事だろうが!」


 ここでマイセンは声を荒げた。


「おまえの本分を果たせ! 私の部下と、十騎の魔鎧騎(ルーン=アーマー)を犠牲にしたのだ! 早く親書を見せろ!」


「ここで開封してもいいのですか? いくら何でも他国の親書。責任問題になりませんか?」


 マイセンは、ポケットから一通の手紙をとりだした。それをエースは見せる。


「キシリア様からの指令書だ。ちなみにレオン共和国関連の事項について、全権委任状を得ていらっしゃる」


 キシリア=シオン=ディアトリス ディアトリス帝国の皇太女であり、帝国教導騎士団魔導将。帝国騎士のナンバー3にあたる。その人の指令書が来ているのだ。


 エースはその内容を読んだ。そこには、レオン獣人共和国の親書を手に入れたらその場で開封、確認する事。確認したら元通り封をして帝都まで送り届ける事。開封は朝十時から。それから一時間、テーブルの上に広げる事とあった。


 エースは親書を二通とりだした。一通をマイセンに渡した。


「こちらが帝国への親書、もう一方がレーベルディン家当主へ、です」


「ふむ」


 マイセンは、まず帝国への親書を開け黙読した。


「……帝国からの要望、通商条約、軍事相互支援条約は反対多数で会談は不可。傭兵ギルド共済条約と対魔物共済条約に対しては現状維持、か」


 現在の帝国と、レオン共和国との関係は相互不可侵。これを帝国側は貿易拡大などの交流拡大を主な政策とし、共和国側はより保護政策よりに移行している。


「で、こちらがレーベルディン家当主への親書か」


 マイセンは、こちらも黙読。読み終わるとエースに見せた。


「父上、これは?」


「たぶん、イガー族絡みだろう」


 レオン獣人共和国は、獣人族が連合して出来ている国である。レオン族を中心に、イガー族、ルフ族、ザード族、グー族、ヤット族、ウス族、ビット族、グル族、トー族、ドロス族などが名を連ねている。そのうちで有力な種族のイガー族が送ってきた親書だ。


「リオン共和国としては、レーベルディン家となら、貿易条約、相互支援条約を締結しても良い?」


「まあ、攪乱の為だな。下らん策略だ」


 マイセンは親書を受け取ると、先にテーブルに広げている親書の隣に読める状態で置いた。


「ふん、こんなものとわが家臣が引換が」


「襲ってきたのはエッジウルフの群です。よく生き残ってこれたと思います」


「……タンゴ村の時と同じだな。お前は生き延び、マリアンヌは……」


 マイセンは、眼をかっ! と開き、エースをにらみつけた」


「お前は、人の心がないから、他の人間を犠牲にして生き延びたのだろう! マリアンヌを、お前は自分の母親を、グラムで叩き潰したくらいたからな!」


 エースも、歯をむき出しにして叫ぶ。


「百匹以上のエッジウルフに、待ち伏せされて、騎士のひとりが、魔鎧騎(ルーン=アーマー)の一騎が、何ができますか! 母上のときだって、グールになっていなかったら助けていました。第一、メイシアに食らいつこうとしたのだぜ。一瞬遅れていたらメイシアはこの世にはいなかった」


 エースの顔に怒りにみちていた。


「第一、あんたらが俺を殺したんだろうが! 大病だったが、何度も手術して、治療して、なんとか完治したのに、あんたらのせいで、俺はころされたんだ! メイシアがいなかったら、俺はおまえらを! おまえらを!」


 マイセンも叫ぶ。


「何を言うかハヤト! お前がエースを殺したんだろうが! あの子の心を! 意志を! 記憶を! 本来、死した魂を召喚し、一部の意志と記憶をあの子の支えにするはずだった! 死した魂も、一部は生き延びるはずだった! お前が、死人が、あの子のほとんどを食らい奪った! おまえが! おまえが! 」


 にらみあった二人だったが、やがて、どちらからともなく目をそらした。


 そして、マイセンは頭を下げた。


「……すまぬ。すでに済んだ話を蒸し返すつもりはなかった。君は、譲歩してくれている。遺恨はあろうが、メイシアのため、帝国の為、レーベルディン家の為に粉骨砕身してくれているのだから。ハヤト君」


「……エースです。父上。ハヤトは死にました。記憶や意志のほとんどがハヤトでも、基本のほとんどはエースです。だから、メイシアのため、レーベルディン家の為、帝国の為、……父上の為に働いています。決して譲歩ではありません」


「……すまぬ」


「……こちらこそすいません。感情的になって」


「……帝都に行けばメイシアには会える。嫌がらないように可愛がってくれ」


「わかりました」


 そう言ってエースは退室した。


 ドアが閉じた直後、防音室に外から、メイシアちゃ~わやん、と声がひびいた。マイセンは、それを聞いて頭を抱えたのである。



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