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宴会は非情なもの

 エースに与えられた砦の一室。ベッドと、テーブルに椅子、クローゼットしかない部屋。エースとその部下は、酒と料理をもちこんで、ささやかな宴会をしようとしていた。最もささやかと言うには持ち込んだ食事の量は破格だが。


「でも、会議室かなんか借りた方が良くないか?」


 マックスはそう遠慮がちに言う。しかし、残りの人間が口を揃えて答えた。


「わざわざ他に部屋を借りるなんて、迷惑かけたくないから」


「ま、エースが気にするなら場所変えるが」


 マックスが横目でみるのは持ち込んだ料理。 酒瓶が十本。酒樽が十樽。料理各種。ただし、鍋で持ち込まれている。


「いや、いいよ」


 エースはここで姿勢を正した。


「みんな、今日まで俺を助けてくれてありがとう。みんなのおかげでエッジウルフに襲われても、生き延びる事ができた」


 エースは隣国への使者として駆り出された。しかし、途中でエッジウルフの群に襲われ、使節団は壊滅。


 エースは頭を下げた。その瞳が潤む。それにたいしてバーンが慌てる。


「主、頭を上げてください。それは我らも同じ。主が先頭を切って下さらなかったら、我らは生きていなかった」


「ん、エースがグラムうごかして、荷車引かなきゃ全員死亡だったよ」

 

「いや、俺の力では、グラムまでもたどりつけなかった。みんなのおかげさ。今日の払い出しは全部もつ。あと、遠慮はいらない、今夜は無礼講だ」 


 エースの言葉に、二人ほど首を傾げた。マックスとイリスだ。


「ん、ブレイコウ? 何の事?」


「帝国の風習かなんかか?」


 イリスとマックス、冒険者二人の疑問に、バーンとアリサが答える。


「主の言い方です。今日は大いに飲み、食べると言うことです」


「エース語。たまにでるのよ。この子しか使わない言葉使い。大したことではないから気にしないで」


「いや、本来は、」


「主、乾杯の音頭を」


 バーンが、エースに盃を渡した。そこで、エースは杯をかかげる。残りの4人も盃をかかげた。


「乾杯!」


「乾杯!」


 エースの掛け声に唱和したあと、全員が盃をのみほす。


「さあ、今日は飲み、食べよう」


 5人は、ゆっくりと酒をあおった。


 そして5分後。


 くーくーと、割とかわいい寝息をたてて、エースが酔いつぶれていた。


「ん、エース、つぶれるの早い」


 鍋料理を口にはこびながらイリスが呟く。ちなみに肉山盛りのシチュー


「しかたありません、主は殆ど不眠不休で働いていましたから」


「ま、しょうがないか」


 そう言ってマックスはエースを部屋のベッドに連れていく。


「ん、軟弱」


「ほんとイリスちゃんのいうとおりね~ 寝込みおそわれたらどうするの? エース~」


「もちろん、主は私が守ります。主に救われたこの命、主の為に使うのが筋」


「……そーゆう意味じゃねえと思うがな」


「そ~よ。それに、エースは無駄死にを嫌がるわ。せめて、エースを救って、あんたも生きるとか言わなきゃ」


 アリサはそう言い、隣においてある大きな酒樽(蓋は取っ払ってある)に器を入れ込み、なみなみと入った酒を飲み干す。


「ん、同感」


 そう言うイリスは、シチューを鍋単位で食らいつくす。


「……そう、だな」


 バーンは、少し反省した様子で隣の大きな酒樽(こちらも蓋は取っ払ってある)に器をいれ、なみなみと入った酒を飲み干す。


「いつもながら惚れ惚れする飲みっぷりだね。『底なしバーン』さん)


「いやいや、『うわばみアリサ』にはかなわんよ」


 会話の間にも酒樽から酒が汲み出され、酒が飲み干されていく。


「ん、すごい。化け物」


 イリスは、二人を見て呆れていた。 


「お前もな」


 マックスは、イリスが空にしたシチューの鍋を横目で見ながら呟く。 


  さらに5分後。


「ん、眠い。寝る」


「そうか、お疲れ」


 そう言い、イリスは自分の部屋に戻って行った。


「マックス、いいのか?部屋まで送らなくて?」


「ああ? ああ、意識もしっかりしているし、味方の砦だ。問題ないだろうし」


 ここで、大爆音が廊下側から聞こえてきた。


「へんなちょっかいかけられたらああいう風に対処するから大丈夫だ。ちゃんと手加減はしてるし、巻き込まれても迷惑だからな」


「……そうか」


 そういうバーンは、すでに二樽目に突入していた。もちろんアリサもだ。


「しかし、同じ酒ばかりで飽きないのか?」


 マックスは呆れた様子で二人をみる。


「え? 樽から出すだけで味かわるぞ?」


「同じお酒でも瓶によって味変わるし、樽の中の場所でも色々味にバラエティーあるから楽しめるよ~」


「……どこの贅沢者だ」


「やっぱり、お酒の味わいがわかるのはバーンしかいないわね」


「うむ、アリサ殿もなかなか鋭敏な舌を持っておられる。感服した」


「今日は飲もう~」


「もちろん」


「……ちなみにその酒、身体のどこに入るんだ?」


 二人は声を合わせた。


「もちろん、魔力になるのさ」



 更に一時間がたち、三人は酒を飲み続けた。すでに泥酔……しているのはマックスだけだった。


「……お前らあ、底なあしがあぁ?」


 半分意識を失いながら、マックスは聞く。その足元には十数本の酒瓶が乱立していた。


「よく頑張ったよ~マックス」 


「うむ、我々についてこれただけでもすごいな。誇っていい」 


「おぉまえぇらあとおぉ、いぃっしょおにぃ、するうなあぁぁ」


 バーンとアリサの隣には酒樽が三樽ずつ転がっていた。もちろん、二人がすべて飲み干したのだ。


「……よおいぃにまぐりてきぎたいことがありぃますう」


 酔眼を二人に向けるマックス。が、その瞳の中に理性の光が宿っている事にバーンとアリサは気づいていない。ように思える。


「エース、さまは、あ、やっぱりい、タンゴ村の村人全員をお、ころしまくったのかああ」


「……あれは、」


 バーンは言葉につまる。


「なんでそんな事聞くの? マックス?  まさか、エースの逆鱗に触れたとか?」


 アリサは落ち着いて聞く。しかし、その手は震えていた。


「いぃまのとおころお、エースさまあは、いいひっとだあ。けれど、いつころされるかわからんからなああ。ふだいのしんのお、おまえぇらならは、知っていりだりお」


 バーンとアリサは悩んだ様子だったが、やがて、マックスの方をむいた。 


「確かに、村人全員を殺しだのはエース様だ」


「そおなのかあ、いあうなあ」


「グールを村人と言えたらね」


 グールとは、魔物の一種である。スライムが死体や生き物の中に入り込み、寄生したものを言う。魔力力場を使って動く為、動きは遅い。寄生されたあと、は、スライムの食料兼住居もしくは鎧となる。


「えええ、グールがタンゴ村おそったあのあるのおかあ」


「いいえ、ある組織が故意にスライムを街中にはなしたの」


 マックスは絶句した。そしてある事に気づいた。……


「そういえば聞いた事がある。村一つ虐殺した血まみれの子供騎士と……」


「そう、エース様なの。奥様の静養と気分転換の為に訪れた村。その村人全てと護衛の騎士半数がグールとなった。エース様は生き残り、魔鎧騎を駆って戦った」


「メイシア様が初めてドラゴンと化し、エース様が初陣を飾った。それが三年前」


 マックスは沈黙した。


 村は全滅しており、今では廃墟と化している。なぜ全滅したのか、その原因についての噂は飛び交っていた。いわく、子供が癇癪をおこして、部下に殺戮を命じ実行した。と。


 マックスは、酷い話とは思った。だが今回エースに雇われて、意外に普通な為、実際は何かあるだろうと推測していたのである。


「まさか、本当か?」


「信じる信じないは勝手だけど、レーベルディン家の前でその話をするのは止めた方が良いわね」


「グールと化した村人をメイシア様が殲滅し、エース様を中心とした兵士が残りを制圧。それがあの事件の真相だ」


「しかし、エースは今まだ騎士養成校の学生だよな。よく魔鎧騎なんか使えたな」


「エース様は、かなり早くから魔鎧騎に興味を持っていて、幼いうちから扱っていたのだ」


「で、戦力が足らないから騎手として参戦。経験は下手な騎士より豊富よ」


「……」


「スライムを村に放った連中の正体は知っているわ。イモーダル。永遠の命を目的とし、研究を行う組織。その一部よ」


「あいつらか。狂信者の集団だよな……」


 マックスは以前、酷い目に遭った事があるのか、顔をしかめた


「まあ、そう言われても仕方ないわね」


 アリサは、樽から酒をくみ出すと、一気にあおった。


 バーンも付き合って酒を飲む。


 マックスは、……倒れた。


 そして、その日から3日後。エース達は出発の準備が整った。


 エースは魔鎧騎グラムに騎乗。そして、近くには木製で長方形の車両がある。2メートル位の高さに引き棒を二本持つ、魔鎧騎で牽引する大型の荷車、通称騎車。帝国にて、軍事に輸送に使われる車両だ。


 その前にはモブスを始め、兵士たちが並んでいた。


「エース様、旅の無事を祈っております」


「ああ、ありがとう、世話になった」


 そう言ってエースはグラムに騎車の引き棒を持たせた。


「エース殿に、敬礼!」


 兵士たちはモブス号令の下、一斉に敬礼した。その見送りの中、エースのグラムは、騎車を引き走りだした。騎車の上には、エースの部下がキューボラに座っている。


「やっと出発できた」


「ん、同感」


「みな、辺りの警戒を怠るな」


「エース~グラム壊さないでね~あたしの仕事増やさないでね~」

 

「……なんか納得いかない」


 エースがつぶやく。


「ここで一番えらいのは俺なのに、一番労働しているのは何故? まあ、他に魔鎧騎動かせる奴いないし、でも、主役メカのロボットがこき使われるのって……」


「なにぶつぶつ言ってるんだ?」


「ん、エースだけ大変なわけでない。私も騎車の重量軽減と衝撃緩和の魔法使っている」


「主、申し訳ありません。しかし、魔力量と技量を考えると主が適任なのです。他はお任せ下さい」


「グラム壊れたら修理するから、頑張って~」


「……なんか納得いかない」


 そう呟きながらもエースは、騎車を引くグラムを走らせる。


 森を抜け、石畳の広い街道をひた走る。周囲はまばらな植生。しかし、生き物の影がまばらに見えた。


 彼らは進む。ディアトリス帝国首都へと向かって。


 道はまだながい。

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