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騎士は、結局妹を取り返せなかったこと。

 闘技場の中心で仁王立ちするグラム。その周辺には獣化兵数体。獣化するには、魔法回路を持つ媒体が必要なので、獣人なら誰でもなれるわけてはない。いや、不可能ではないのだが、長い呪文と獣化の舞が必要なので、普通は、首飾りのような媒体をもつのだ。更に武器も魔力反応合金などで作らねばならず、金がかかる。


「さて、と」


 エースは、自分のグラムを獣化兵に突っ込ませた。ちなみにエースのグラムの右肩には短いロッド=スタッフかついている。突貫工事で取り付けた、ジーク用のロッド=スタッフだ。


 グラムは、獣化兵を左手の盾でふきとばす。更に右手のクレイモアの腹で叩き伏せる。二方向から襲う獣化兵。しかし、グラムの一閃で叩き潰される。勿論、手加減はしている。更に多くの獣化兵が挑むが、グラムに一撃で無力化される。


 やがて、獣化兵たちか全員叩きのめされた。僅かな時間しかかからなかった。その様子に観客たちは、息もできず、広い場内は静まりかえる。


 エースとジークは、辺りを警戒した。しかし、もう、まともな獣化兵は存在しない


「……終わりなの」


「……みたいだな」


 エースは、ここでキングにクレイモアの切っ先を向ける。


「さて、キング、決闘しようか」


 キングは、笑った。大声で。


「仕方ない。切り札を切るか」


 そして、懐から短剣を取り出し、命じた。


「罪人よ。我に従い、正面の敵を打ち破れ」


 それから闘技場の入口に向かって走る。


「あれが、メイシアを縛る罪命剣。キングを捕まえて解呪させてやる」


 しかし、その言葉もむなしく、次の瞬間、衝撃波とともに降りてきた竜がいた。レッドドラゴン。その竜は、グラムよりも一回り大きい竜人とも言うべき中間形態、ドラゴニュートにかわる。エースは、彼女を見て、万感の思いをさけぶ。


「メイシア!」


 同時にエースはグラムを横っ飛びに回避させる。赤いドラゴニュートは、炎の槍、ファイヤランスを八本、グラムに打ち出す。グラムは二本を盾で受け流し、残りは回避する。衝撃でグラムは転倒しそうになるも、エースのコントロールで安定を保つ。


 観客は、いきなりの炎に驚き、逃げ惑う。秩序ない阿鼻叫喚の坩堝となった。獣化兵も例外ではない。獣化を、やめ、叫びながら逃げたす。


 更にファイヤランスを打ってくるメイシア=ドラゴニュート。エース=グラムは、断続的な焔の槍を盾で上空に受け流した。衝撃は、盾を砕いて破片を飛ばす。さらに回避しても、高度な機動が必要で、しかもファイヤランスの衝撃がグラムの四肢に負担をかける。この中でエースは気づいた。


「盾が、もってる?」


「あの竜があなたの、妹さん、なの?」


 ジークは、尖った声で叫ぶ。


「そうだよ可愛くて、性格が最高の自慢の妹だよ」


「いきなり攻撃魔法打ってくるなんて、優しい妹さんね」


 エースは、にこやかな声でジークに笑いかけた。


「ああ、優しいよ。攻撃魔法を連射で済ませてくれているから。普通なら、32発以上が連続してやってくるから。しかも狙いを甘くしてくれてる。あいつに操られているとはいえ」


「そういうことじゃないでしょう。盾に魔力を集中して何とか持たせるから、あとの部分は自前で制御して!」


「了解」


 断続的に撃たれるファイヤランス、その一発一発がグラムを焼き尽くす力がある。その重い鋭い一発一発をエースは、グラムを駆使して受け流し、もしくは回避する。グラムの盾は少しずつ砕け、装甲は少しずつ焼かれ、関節は消耗していく。


「この調子だ。いくら可愛いメイシアの崇高な攻撃であっても、手加減してくれているんだ。いずれ魔力はつきる」


 エースの明るい声に、ジークも希望を持つ。


「うん、希望は見えてきたね。で、その魔力はどのくらいなの」


「竜くらい」


 ジークは、ジト目でエースを睨む。


「楽しい未来ね。その魔力、ほぼ無尽蔵って言わない?」


「ああ、メイシアはすごいんだ」


「どーするのよ、一体!」


 何とかメイシアの攻撃魔法を受け流し、もしくは回避する二人。しかし、それでも決着はつく。


 グラムが少し姿勢を崩した。今はその僅かな隙が致命的。そして、ファイヤランスが、グラムの正面、その直前の地面を砕く。その爆発を盾で防いだ。しかし、その為足が止まる。そして次のファイヤランスが放たれた。


「「?!」」


 しかし、ファイヤランスは遥か上空からきた白い流星の衝撃波によって吹きとばされる。それは、闘技場の上空で止まった。腰の翼を広げ、短槍と盾をもつ騎士。


 魔装鎧騎、ダインスレイブ。そして、それを駆るのは帝国皇太子アルベルト。メイシアと相思相愛の色男。ダインスレイブは、再度大空へと向かう。


 メイシアは、レッドドラゴン、赤い一本の槍となって空を舞う。そして、ファイヤランスを数十本連射する。それは、立体的に全方位からダインスレイブを襲う。炎の槍の群。その僅かな隙間をすり抜けるように避けるアルベルト=ダインスレイブ。炎の嵐をすり抜け、華麗に舞うダインスレイブ。その攻撃の激しさは、先程までの比ではない。


 ジークは、震える声で言葉をもらした。


「さっきまで、メイシアさんは本気でなかったの?」


 エースは、不満気に愚痴った。


「だから、メイシアは優しいと言っただろう。仕方ない。あいつよりは俺は信用されてない。あいつとダインスレイブの組み合わせはメイシアと対等に戦える存在の一つだ」


 大空の戦いを見て、エースは呟く。


「俺もあの域まで行かない」


 ジークは、いやいや、とつっこんだ。


「私たち、あの調子でこられたら瞬殺でしたよ、エースさん」


 そうだよな、と落ち込むエース。しかし、次の瞬間立ち直る。


「ま、早くキングを見つけてメイシアを解放しよう。あいつ、にげやがった」


「そうでもない。大丈夫。魔力の反応はある。二つ大きいの。近づいてくるわ。一つはアイテムだから、わかる。見失わないわ」


 鼻高だかのジークにエースは声をかける。


「そりゃたすかる。頼む、相棒」


「まあ、あたし、剣だけどね」


 やかて、闘技場に大きな魔鎧騎が入ってきた。重装甲の騎体。グラムより一回り大きい。片手には大型の戦斧、もう片方は大型の盾。


「お前の流儀にあわせてやる。我らが生み出した魔鎧騎、タイガリオンだ。このパワーを見てみろ」


 タイガリオンを見て、エースは喜ぶ。


「鴨がネギ他一揃い持ってやって来た。罪名剣取り上げてやる」


「そんなことしなくて十分よ。私があれ、解除できるわ。但し、専念するから、あいつの相手は自前でお願い」


「心得た」


 エース=グラムは、足場を踏み固め、盾を構える。その姿は全体が焼け焦げ、破損し、盾もひび割れている。その全身に赤い焔のような魔力力場が展開。グラムを強化する。


 そのグラムに対して、キング=タイガリオンは、愚直に突撃、戦斧を叩きつける。それに対して、


「確か、こうだな」


 エース=グラムの盾の魔力力場が焔から赤い板状に変わる。さらに、盾の破片は飛ぶが、戦斧の一撃を受け流した。


「なるほど、魔力の集中で強度がこうも変わるのか」


 グラムの様子にキングは叫ぶ。


「無駄口たたくな」


 鋭い攻撃がグラムを襲う。何とか盾で受け流すグラム。そのたびに盾の破片が飛び、関節はその力に耐える。何合かエース=グラムが攻撃を受け流したあと、盾を使わす大きく回避。その攻撃をいなされたタイガリオンは、大きな隙を見せる。


「甘いね!」


 エースは、その機を逃さない。エース=グラムは、右手のクレイモア=スタッフを鋭く切り上げた。その一閃にタイガリオンの右手が断ち切られ、戦斧が吹き飛ぶ。更に返す剣で袈裟斬りにする。と、同時にタイガリオンは機能を停止する。


 エースは、グラムを近寄らせた。タイガリオンの胸の魔法回路を叩ききって機能停止においこんだのだ。しかし、中のキングには怪我はない。


 そこで、エースはキングにいい放つ。


「やっぱり、グラムの劣化コピーに過ぎないな。試作したのは認めるが、バランスは悪い、装甲は外装任せ。ます、グラムの買い付けから始めたらどうだ。帝国からなら安くすむぞ」


 が、キングは怒鳴る。


「ふん、お前になにがわかる。帝国を、ヒューマンを受け入れたら、獣人は滅ぶ。お前らに塗りつぶされてな」


 それは以前、オークの勇者が至った考え。しかし、エースらは知らない。


「わからんよ。ただ、メイシアを助けたいだけだ。自分の問題は自分で何とかしろ」


 エースはキングを突き放す。そこにジークが言葉をかけた。


「あのアイテム、何とか解析して、メインをタイガリオンに変更したわ。ついでにロックしたから、対象変更出来ない。でもかなり強い拘束力ね。改良されてるわ。最初から解除すると、1週間以上かかるから、楽な方法で処理したわ」


 ここで、エースは眉をひそめる。


「まさか、共和国にそんな魔法技術はないはすだし」


 上空では、紅竜とダインスレイブが仲良く飛んでいるのか見えた。それを複雑な思いで見つめるエース。そこにアルベルトが念話してきた。


「やあ、兄上」


「誰が兄上だ。アルベルト」


「いずれそうなるからいいだろう。それより、僕らは真っ直ぐ帝国に帰る。向こうで合流しよう。あ、ついてきた二人は集合場所で待っているってさ」


「あ、おい、メイシアに念話を繋げ」


 しかし、無情にも念話は切られた。それと共にアルベルト=ダインスレイブとメイシア=レッドドラゴンは、帝国の方向へと飛んでいった。


 呆然とするエース。しかし、ジークが唸る。


「エースさん、早く逃げないと、このままだと獣化兵に包囲されるわよ」


「そうだな」


 そして、エース=グラムは、メイシアがファイヤランスで開けた闘技場の壁を抜け、騎車を探す。バーンが乗って手を振っているそれを見つけて、引き棒を接続し、走り出す。


 ぐんぐんと走ると、すでに待機していた。マックスとイリスがこちらを見つけた。マックスはイリスを抱き上げて身体強化魔法を使い、騎車に飛び乗った。


 それを確認して、アリサがエースに言った。


「エース、フルパワーよ~」


「了解、って、俺ここで、一番えらいはずなんだけど」


「つべこべ言わないの~」


 そしてエース=グラムと騎車は、弾丸のように走り出す。メイシアの攻撃魔法は共和国の首都各地に飛び散っており、非常に混乱している。


「だけど、こんなに被害を出して……」


 心配げなジーク。しかし、エースは笑い飛ばした。


「大丈夫、メイシアが、無差別爆撃するわけがない」


「あのね、エースさん、メイシアさん、あの男に操られてたのよ。いくらなんでもまともじゃいられなかったんだから」


 と、ここで、鳥使いのマックスが報告する。


「共和国の警備とかから聞いたけどな、奇跡的に魔法の直撃による死者はなし。建物も、すべてが公共施設。しかし、せんぶ無人のとこらしい。激しく燃えているが、避難もすぐに行えたそうだから、人的被害はなしだそうだ」


 マックスの報告を聞いて呆れるジーク。


「ほら、見てみろ。メイシアがそんな粗相を、するはずがない」


 そう言いながらもエースはグラムを駈り、騎車を引く。その速度は下手をしたら鳥よりも早い。


「待っててくれ、メイシア。お前の兄は、必ず帰るからな。待ってろアル、お前には天誅を食らわしてやる!」


「ダメだよ、エースさん、そんなことしたら反逆ですよ。いろいろ早まったかな?」


「大丈夫、エースなら、どこでもやっていけるから~」


「我が君は強いのです」


「ん、少し不安」


「……まあ、給料いいし、ついてくか」


 そんなこんな言いながら、混乱の渦のなか、皆、共和国の首都を駆けていくのだった。エースが駆るグラムと騎車に乗って。


「やっぱり、俺が一番苦労してないか?」








 騎士は妹のため、広大な大地を駆け抜ける。完。



 


 

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