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騎士は、乙女のことで説教されること。

 エースとジークは、ダンジョンの内部を攻略して地上にもどった。その頃には、エースを救いに決死隊が組織され、多くの者を安堵させ、怒らせたのだ。あとは、色々あったが、とりあえずエースは疲れていることを理由にし、設営されているテントに入った。そこにアリサを呼び、ジークを紹介した。そして、彼女を手に入れた経緯などを説明した。


「エース、そこに座りなさい」


 アリサは、まず防音結界を展開した。それからジークを手にして、エースを床に座らせた。エースの隣には、ジークが作ったウイスプがふわふわと光りながら浮かんでいる。


「で、ジークさん、少し見せて貰いますね」


「あ、はい」


 そのあと、アリサはジーク=ダインスレイブをかなり長いこと調べた。それから、顔をあげて、ジーク=ウイスプとエースを睨み付けた。


「エース、今後彼女を魔装鎧騎にしてはダメよ。封印をかけているから、私の一次認証がないと起動出来ないようにしたからね」


「「何でですか?」」


 なぜか、タイミング良くてハモるエースとジーク。


 その言葉をきき、アリサは拳を机に叩きつけた。みしり、と机がきしむ。


「「ヒッ」」


 怯える二人の目の前には、修羅と化したアリサがいた。


「エエですか、エースさん、そして、ジークさん」


 その笑顔の下には、溢れんばかりの怒りが止めどなく滾っていた。それでもアリサは冷静にはなしを続ける。


「ええと、ジークさん、あなたは、アーティフアクトで、しかも自意識を持ってますよね。それが、どんなに大変な事柄か分かります?」


 ジークは、怯えながら答えた。


「ま、魔法技術の粋を集めれは可能ではないですか?……」


 再度、机が轟音を立てた。みしみし、と机がきしむ。


「確かに、この世界の技術をすべて集めれば可能でしょうね。魔法かなかった時代の科学、ダンジョンが現れてから発達した魔法技術。コストも目的も考えなければ可能でしょうね」


 再度、机が轟音を立てた。びしり、と机が音を立てた。


「でも、科学技術と、魔法技術、その粋を集め、天才と言われた人間たちがその知と魔力と技を尽くして作った存在は、そのすべてがないと維持出来ないものだったの。マリアは、悲しい存在だった。わずか2年しか生きられなかった。知能的には五歳ぐらいだったわ」


 ここで、アリサはジーク=ダインスレイブをいとおしそうになでさすった。


「いい、ジーク、あなたは、魔力こそ必要だけど、かなりの低コストで大人の人格を維持しているのよ。しかもこんなにコンパクトに。で、魔装鎧騎の機能持ち。常識はずれもいいとこだわ。それを、エースはそこら辺の武器みたいに扱った。高度な技量技術で作られた豪華絢爛な美術品を、よ。あなたは、同じ重さの純金の何万倍もの価値をもつわ。幸いメンテナンスは軽くてすむけど、調整は難しいわ。アーティフアクトだろうと、人だろうと、手入れは必用よ。特にあなたは、ね」


 アリサは、エースを睨み付けた。


「いい、エース、ジークさんを武器として扱ってはだめよ。妙齢の女性として扱いなさい。優しく、デリケートにね」


 と、ここでアリサは話題を変えた。


「で、どうするの、メイシアを助ける算段は出来たの? 流石に正面から入っても無理よ。どうするつもり?」


 ジークのウイスプは、ふわふわと浮かびながら質問した。


「あの、メイシアさんて、誰?」


 エースは、満面の笑みを浮かべる。


「俺の、もっとも大事な妹だ。美人で、かわいくて、ダイヤやサファイアとか言うか石ころよりも数千倍美しく輝いている。その性格は聖女とかより数万倍素晴らしい、至高の存在だ」


 恍惚とするエース。しかし、その顔に愁いの色がうかぶ。


「だが、その至高たるメイシアが、共和国なんぞ言う愚劣な連中に捕らわれている。だから助けに行くんだ。早く行かないと、メイシアが大変なことになる」


 少し、いや、かなり引きながらもジークは尋ねた。


「で、今助けにいっているのね」


「ああ、そうだ。メイシア、今頃どうしているだろう。不安だろう、さみしいだろう。つらいだろう。不自由しているだろう。早く助けないと、メイシアが自己嫌悪に陥ってしまう。ついでにレオンの連中滅びろ、と、言うより自滅しろ。いや、メイシアが悲しむからダメか。仕方ない」


 ジークが、エースの様子にさらに引いた。そしてアリサの近くにふわふわと漂いながら話しかける。


「エースさん、どうしたんですか? あと、メイシアさんて、誰です?」


 頭を抱えたアリサはなげやりに説明した。


「メイシアは、エースの妹。竜姫士でドラゴンになるひとなの。単体での戦闘能力は現在いる人の中では最高でしょうね。国一つぐらい滅ぼせるでしょうね。で、エースはシスコンだから、スイッチが入ると妹至上主義が発動してああなるの」


 いつしか、エースはメイシア教の聖典の暗唱をしていた。感情をこめ、まるでオペラ歌手のように声量豊かに、かつ、感情をこめ、聴くもののこころをうつ、暗唱を行っていた。


「……何か、間違っていたかもしれない」


「ごめんなさい。もう遅いわ。なるべく暴走止めるから、覚悟して。私たちも手伝うから」


 アリサはエースが正気に戻ったところで、もう一度質問した。


「で、どうするつもり?」


 アリサに対して、エースは自信たっぷりと答えた。


「安心してくれ。最高の策がある。アルベルトの協力が必用だから、詳しいことは言えないが、大丈夫だ。メイシアは、必ず助けだす」


「ま、なんだかんだで、エースは正しい選択をしてきたからね。頼りにしてるよ。私もメイシア可愛いし」


「任してくれ」


 そう言って、エースは共和国の方向を睨み付けたのだった。
























 時はかわり夜。エースは自分のテントにはいり、寝袋を準備した。ジーク=ダインスレイブは、クッションの上に安置されている。



「……ま、仕方ないから、ついていくわ」


 ジークはふわふわと浮かびながらため息をついた。


「でも、ショックだわ。エースが変態なんて」


「ああ、すまないが、こればかりはどうしょうもない。メイシアは、天使なんぞより百万倍も美しく、賢く、性格が良くて、うう、賛美する言葉が見つからない」


 ここで、エースはジークを正面から見る。


「メイシアは、味方も多いが敵も多い。いろいろな恨みも買っている。少しは負担を軽くしたいから、道化を演じているところはある。でも、な。メイシアは可愛いし、借りもある」


エースは、そう言って寝袋に入った。


「ところで、そのクッションでいいかな」


 エースは、アリサが作ってくれた細長いクッションに鎮座されていた。勿論頑丈な鞘も彼女が作った。


「ま、柔らかいからいいけど、何で衝立があるの?」


 エースとジークの間には、衝立があった。


「いや、女性だし、結構気持ち悪いだろう。私は。シスコンだし」


「まあ、確かに。でも、基本的に何も出来ないでしょう」


「ま、な」


 エースは、テントの上を見つめた。


「そういえば、さ、」


 エースは、目をつぶりながら呟く。


「ザ、サエさん、しっているってことは日本からの転生者かい」


「やっぱりエースもなのね」


「ああ。しかも、趣味人(おたく)だな」


 ジークは目を反らす。


「ええっと、その、少したしなみがあります」


「問題ない。俺もだ」


「ええ、じゃあ、あれ知ってる? 白い悪魔」


「あ、あの名作か。最新作まで見たよ。何せ病院では、何もすることなかったしな」


 一部は美菜の趣味だ。


「え、病気だったの?」


「完治したよ。頑張った。そのときもそのあとも色々読んだり見たりしたよ」


「じゃさ、じゃさ、あれ知ってる?7つの大海」


「ああ、あれ好きだったよ。第二部までは」


「え? 第三部もよかったでしょ」


「でもな、先が見えて来たしな」


「でも、それがいいんじゃなあい?」


 二人は朝日が見えるまで趣味人(おたく)談義を続けて、翌日はかなりの寝不足となったのであった。


 





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