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ダンジョンは殲滅するもの

 エースは、グラムをハンガーにいれ、アリサたちに後の整備をまかせると、即、砦の指揮官に会いに行った。


「お久しぶりです。エース様、本日はありがとうございます。しかし、帝都にお戻りになっていたのでは?」


「ああ、実は、メイシアがさらわれた。行き先はレオン獣人共和国。ことは一刻を争うのでこちらにきた。悪いが、補給と補修をお願いする」


「了解しました。しかし、出発はしばらくかかるかと」


 指揮官モブスの返事に、エースは、眉をひそめる。


「やはり、ダンジョンが誕生したのか」


「はい、その可能性があります。最近魔物の発生が増えています。最も先ほどのような群は、今日まで来ませんでした。しかし、お気づきでしょう。今回の魔物は武器を持っていました。ダンジョンで作られたものとと思われます」


 ダンジョンは、成長した魔物が、卵や生成物を作って繁殖するための巣の総称である。大型の魔物が、洞窟や、古い建物の中にはいりこみ、繁殖して拡張することが多い。


「位置とか把握出来ているのか?」


「今のところわかっていません。鳥型の使い魔を放って調べていますが」


「今動かせる戦力は」


「グラムの補充が三騎。更にダンジョンの発生を侯爵様に連絡しておりますので更に三騎と随伴歩兵が明日到着予定です。それと可搬型の大型ロッド=スタッフか、三日後に到着予定です。随伴のグラムが三騎。但しこちらはロッド=スタッフの設置が終わり次第レーベルディンに戻ります」


 エースは、厳しい表情で呟いた。


「厳しいな。最低限グラム十二騎は欲しいところだ。後随伴歩兵も」


「侯爵様は、ダンジョンの場所と規模を確認出来たら騎士団を派遣すると連絡してくれました」


「……わかった。私のほうでも探せないか聞いて見る」


 モブスは、少し安心した顔をした。が、またすぐに表情を引き締める。


「で、隣のオークは何ですか」


 どう説明しようかと、エースが悩むと、その隣のオークが口を開いた。


「ぶひはアルベルトぶひ。エースの友達といえばわかるぶひ?」


 エースは、頭を抱えた。そして、モブスは烈火の如く怒りだす。


「おい、お前、エース様の友人のアルベルトとは、ディアトリス帝国の皇太子様だぞ。お前みたいなオークじゃあない」


 心底怒ったモブスに、アルベルトは、困った顔を見せた。


「まあ、そうぶひ。この姿を見れば、そうなるぶひ。でも、」


 と、一言言った後、金髪碧眼の痩身の美男子に変身した。モブスは息もできないほど驚く。彼は、アルベルトの顔を知っていたらしい。


「ア、アルベルト様?」


「すまないが、オークの呪いにかかり、通常はオークの姿でいる。しかし、魔力があれば人の姿になれるのだ」


 モブスは申し訳ありません、と平伏し、謝罪した。


「知らぬこととはいえ、不敬の数々、お詫びのしようもございません。こうなれば、我が一命を持ってこの不始末の責任を取ります!」


 と、いい、腰のソード=スタッフを引き抜いた。がエースは、その剣を押さえる。


「エース様、放して下さい。外見だけで皇太子様を判断するとは騎士の名折れ! 潔く自害させて下さい!」


「いや、外見オークだから、普通分からんだろう」


 エースは、ぼやく。その隣でオークは宣言する。


「モブス、まさか、ぶひに対する不敬が、その程度ですむと思っているぶひ?」


 アルベルトは、真剣な顔でモブスに語りかけた。


「お前の命で不敬の罪を償うぶひ? 愚かぶひ。そんな命にに価値はないぶひ。第一、死人は役にたたんぶひ。罪を償うなら、帝国のために、ぶひのために、働けぶひ。身を粉にして働くぶひ。無駄死には、許さないぶひ」


「はっ、わかりました。殿下の温情、見に染みてございます」


 感謝し、泣き崩れるモブス。エースは、それを横目に見ながらアルベルトに対してもぼやく。


「しかし、お前がオークの呪いをうけてるなんて最重要機密だぞ。そう簡単に洩らすな。帝都の何人かは首がとぶぞ」


「あまく見ないぶひ。この程度で首がどぶなんてあり得ないぶひ。そんなことするなら働いてもらうぶひ。第一、帝都では、機密事項でも何でもないぶひ。この程度隠す意味はないぶひ。もっと重要事項がたくさんあるぶひ」


 エースとアルベルトは、モブスを残して部屋をでた。そして、ハンガーに向かう。


「とりあえず、ダンジョンの場所を特定するのが優先だな。とりあえず、イリスとマックスに相談だ」


「エース、その二人に頼むとなんとかなるぶひか?」


「まあ、な」


 エースたちは、ハンガーについた。中ではアリサが怒鳴っている。どうやら、グラムの整備に不満があるようだ。


「あんたたち、何やってるの! グラムはオモチャじやないの! 内部構造はともかく、装甲や関節のメンテナンス位はしときなさい。あたし、ちゃんと教えたでしょう! あんたらのせいで、騎士が死ぬことになるんだから。騎士たちは命懸け! なら、あんたらも命がけでメンテしなさい! ほら、やるわよ!」


 そう言って、アリサは、率先してグラムの整備を始めた。錬金術士(アルケミスト)や、魔鎧騎鍛冶(ナイトスミス)があわてて後をついていき、作業する。バーンとイリスは、アリサの後をついて助手をしている。


 その様子にアルベルトは思わず呟く。


「……すごいぶひ」


 エースは、その様子を誇らしげに見ていた。


「なんだかんだいいながら、アリサ姉は、魔鎧騎が好きなんだよな。最近、グラムの整備が大変だとぼやいているけど」


「それはエースのせいでないぶひか」


 そういいあいながらエースとアルベルトは、自分の騎車にこっそり近づく。そして、そこでアリサや整備士たちをのんびり見ていたマックスを呼んだ。


「なんか用か、エース様?」


 マックスは、何か疲れたようにささやく。


「ああ、近くに新規のダンジョンが生まれたらしい。だから、イリスと君で探して欲しいと思って」


「何で、イリスが、ここで出てくるんだ?」


 マックスは、警戒心を露にする。エースは、素知らぬふりでマックスに言う。


「イリスは優秀な魔道士だ。ダンジョンは、膨大な魔力を、発生するから、探査できるかな、と思って。それに、マックスは鳥使いだから他の使い手よりは探せるかな、と、思って」


「しかし、さがしてどうする……」


 マックスは、そこで手を強く握りしめている二人に気づいた。反論できないと思い、姿勢を正す。


「わかった。しかし、俺の鳥たちは、帝都にほとんど残してきている。二日くれ。必ず見つける」


「頼んだ」


 エースは、頭を下げた。それを見て、マックスは苦笑する。


「しかし、ダンジョンか。ここも発展するな。冒険者が来て」


「何言ってるぶひか」


 と、アルベルトは少し怒った口調で話す。


「ダンジョンは殲滅するぶひ。帝国の方針としてはあらゆるダンジョンは殲滅するものとなってるぶひ」


「え、しかし、ダンジョンからは魔物の素材や生成物、武器やアイテムが発見できますが」


 マックスは、驚いた。彼のような冒険者は、ダンジョンに潜って魔物の素材や武器、アイテムを回収して売ることも生計の一つだ。


「確かに、ダンジョンからは、魔物の素材や武器やアイテムが生成されるぶひ。だが、その品質や数量は安定しないぶひ。しかも、ウエボン=スタッフはダンジョンからは出てこないぶひ。それに、帝国では、魔物の養殖を行っているぶひ。魔物の素材や武具の安定供給ができるぶひ。第一、放置していると魔物がどんどん増えて危険ぶひ。臣民の安全が第一ぶひ」


「で、でも、管理されているダンジョンもありますよ」


「管理できるダンジョンならいいぶひ。でもここは辺境ぶひ。十分な管理は無理ぶひ。第一、レーベルディン領が近くにあるぶひ。魔物の群れが襲って来たら問題ぶひ。臣民が危険ぶひ。だから、ダンジョンは、できる限り殲滅するぶひ」


 エースは頷く。


「魔物は、人類の天敵。ダンジョンは、魔物の繁殖に多大な貢献をする。ならは、潰すしかない。たとえ幾多の犠牲を払おうと。ま、冒険者とは考え方が違うけれどもね」


 が、ここでエースは、真剣な表情でマックスに命じた。


「マックス。帝国臣民のため、ダンジョンの特定を頼む。一応、私の部下なのだから」


「……給金の分は働くさ。しかし、本当に二日待ってくれ。二日後には必ず見つける」


 再度エースは、頼む、と言った。マックスは、そんなエースとアルベルトに任せろ、と言ったのだ。

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